公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎

文字の大きさ
21 / 64
二章 士官学校

新学期①

しおりを挟む







冬季休暇も終わりに近づくと、故郷へと帰省していた生徒が徐々に戻りはじめてくる。
寮には少しずつ、賑やかさが戻りつつあった。

それぞれの休暇の思い出話で食堂は打って変わって喧しい。中には休暇中に出された課題が終わっていない者もいるようで、必死に友人に泣きついていた。

「明日からか。あっという間だったな」

夕食を食べ終え、食後の茶を飲みながらジェイデンは食堂を見渡した。

「そうだな。授業の予習をする暇もなかった」
「何言ってる。お前が真面目に勉強しているところなんて見たことがないぞ」

しれっと嘯くセオドアに、苦笑いでジェイデンが返す。
興味のあることについては寝る間も惜しんでのめり込む男だが、それ以外で机に向かっているところは見たことがない。
それでいて成績は優秀なのだから、嫌味な男である。

「俺はお前の真面目なところが好きだぜ」

ジェイデンの眼前に、揶揄うように言いながらセオドアの手が伸びる。まるで子供のように頭を撫でられて、ジェイデンの表情はさらに憮然としたものになった。
この年上の親友が、いつも自分を子供扱いしてくることがジェイデンは気に入らない。それを知っていて、あえてそう振る舞うセオドアは、険しくなるジェイデンの目付きに気づかない振りをして笑みを浮かべた。

「やめろ。明日からは学校だから、もう部屋へ戻るぞ」

頭に置かれた手を払って、ジェイデンは立ち上がる。

「そうだな、忙しくなりそうだ。お前の実家にも挨拶に行かないといけないしな」

制服の仕立てや授業で必要な本や道具など、ディアたちに相談しながら何とか休みのうちに支度を揃えることができた。
親族への挨拶はできずじまいだが、学校が始まってからでいいと手紙で返事をもらっている。そのため週末には訪ねて行かねばならないことになっていた。

「それは言うな」

念を押されるような言い方に、ジェイデンは不機嫌そうにため息をついた。







♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎






新学期を迎えた登校初日。
ジェイデンとセオドアはユージーンに言われた通りに、学校の門の前で彼を待っていた。

「おはよう。ふたりとも、制服がよく似合っていますね」

かけられた声に振り返る。そこにいたのはローブに身を包んだユージーンだ。

「おはようございます」

そのやりとりを、登校中の生徒達がちらちらと気にする素振りをしながら通り過ぎていく。

制服姿を褒められたジェイデンとセオドアは、お互いの格好を見合った。よく見慣れた相手の、見慣れない姿に何故だか面映い気持ちになる。
黒いジャケットとズボンで揃えられた制服は、シャツの首元に結ぶ紐の色が学年毎に違う。それぞれ白いシャツの首元をジェイデンが赤、セオドアが青の紐が彩っていた。

「この紐、どうやって結ぶのが正解なんですかね?」

緩く結び、胸元へと垂らしている紐の端を摘みながらセオドアが聞いた。
寮の食堂で見かけた他の生徒たちの真似をして結んでみたが、2人とも結び方がわからず時間だけが過ぎてしまった。遅刻するよ、と呆れたディアに「そんなの適当でいいでしょ」と大雑把に結ばれたままだ。

「式典の時には正式な結び方がありますが、普段はそんな感じの学生が多いですよ」

ユージーンが笑って答える。
大抵の男生徒は紐を軽く結うだけだ。
士官学校は男女で制服の形に差異はないため、女生徒たちは紐を綺麗なリボンの形に結んだりと工夫して個性を出している。

「式典用の結び方は後で私がセオドアに教えましょう。セオドアの担任は私です」
「よろしくお願いします」

職員室へ向かいましょうか、とユージーンに促されて三人は歩き始めた。
足を進めながら、ジェイデンが話題の流れでユージーンに質問をする。

「私の担任はどんな方なんでしょうか」
「ジェイデンの担任は去年まで騎士団の幹部だった人ですよ。校長が無理やり引き抜いてきたので、まだ教師としては新人ですが期待されています」

ユージーンがちょっと考えながら、続きを口にした。

「君のご実家とも縁があった人物だったと思いますけど」
「え?」

突然実家の話題になり、ジェイデンの心臓がぎくりと跳ねる。


「ルイス・ノティス。君の妹の婚約者候補の1人ですよ」






しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

当て馬だった公爵令息は、隣国の王太子の腕の中で幸せになる

蒼井梨音
BL
箱入り公爵令息のエリアスは王太子妃候補に選ばれる。 キラキラの王太子に初めての恋をするが、王太子にはすでに想い人がいた・・・ 僕は当て馬にされたの? 初恋相手とその相手のいる国にはいられないと留学を決意したエリアス。 そして、エリアスは隣国の王太子に見初められる♡ (第一部・完) 第二部・完 『当て馬にされた公爵令息は、今も隣国の王太子に愛されている』 ・・・ エリアスとマクシミリアンが結ばれたことで揺らぐ魔獣の封印。再び封印を施すために北へ発つ二人。 しかし迫りくる瘴気に体調を崩してしまうエリアス…… 番外編  『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子の胸に抱かれる』 ・・・ エリアスを当て馬にした、アンドリューとジュリアンの話です。 『淡き春の夢』の章の裏側あたりです。 第三部  『当て馬にされた公爵令息は、隣国の王太子と精霊の導きのままに旅をします』 ・・・ 精霊界の入り口を偶然見つけてしまったエリアスとマクシミリアン。今度は旅に出ます。 第四部 『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子といばらの初恋を貫きます』 ・・・ ジュリアンとアンドリューの贖罪の旅。 第五部(完) 『当て馬にした僕が、当て馬にされた御子さまに救われ続けている件』 ・・・ ジュリアンとアンドリューがついに結婚! そして、新たな事件が起きる。 ジュリアンとエリアスの物語が一緒になります。 S S 不定期でマクシミとエリアスの話をあげてます。 この2人はきっといつまでもこんな感じなんだと思います。 エリアス・アーデント(公爵令息→王太子妃) マクシミリアン・ドラヴァール(ドラヴァール王国の王太子) ♢ アンドリュー・リシェル(ルヴァニエール王国の王太子→国王) ジュリアン・ハートレイ(伯爵令息→補佐官→王妃) ※扉絵のエリアスを描いてもらいました ※本編はしばらくお休みで、今は不定期に短い話をあげてます。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

悪役の僕 何故か愛される

いもち
BL
BLゲーム『恋と魔法と君と』に登場する悪役 セイン・ゴースティ 王子の魔力暴走によって火傷を負った直後に自身が悪役であったことを思い出す。 悪役にならないよう、攻略対象の王子や義弟に近寄らないようにしていたが、逆に構われてしまう。 そしてついにゲーム本編に突入してしまうが、主人公や他の攻略対象の様子もおかしくて… ファンタジーラブコメBL 不定期更新

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。

伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。 子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。 ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。 ――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか? 失望と涙の中で、千尋は気づく。 「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」 針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。 やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。 そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。 涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。 ※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。 ※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。

処理中です...