13 / 60
一章 旅路
王都到着①
しおりを挟むキヴェを早朝に立ったお陰で、昼過ぎには王都に辿りついた。
「早めに発ってよかったな」
風猫亭では早起きしたマールに弁当を持たされ、またキヴェに寄る事があれば待っているから、と念を押されて見送られた。
王都はシエーナという。
内郭に位置する王宮を中心に、花弁が開くように街が外に広がっている。
本宮を守るために、幾重にも城壁が築かれており、それぞれの門には相応しい身分を持つ者しか通れないように厳重に管理されていた。
外郭にある貴族用の通用門を通り、王都の中へと入る。
ここでも騎獣は外郭沿いに置かれた獣舎へと預ける決まりがあるが、一部の貴族には例外的に三の郭まで騎乗したまま入る事が許されている。もちろん、この2人にも許可は出ていた。
外郭の次にある四の郭を通り過ぎ、三の郭を抜けるまでにはかなりの距離がある。
四の郭・三の郭は主に平民の住居や店舗となっており、王国中から人が集まる王都の繁華街としての賑わいをみせていた。
その内側にある二の郭まで、高位の貴族は下乗しないのが常であった。
「士官学校は二の郭の南端みたいだが、こっちであってるのか?」
王都の文化と商業の中心でもある三の郭は、貴族と平民の生活が交わる位置にあることから区画も広く取られている。
あまりの広さに、迷いそうだとセオドアが辺りを見渡した。
「ああ、二の郭だ。南の塔が目印になるはずだ」
四の郭から三の郭への移動は、日中は自由に行える。城門は開け放されており、住人や商人が忙しげに行き交っていた。
彼らも三の郭へと入り、少し進む速度を緩めながら周りを確認する。
ジェイデンも7年ぶりの王都である。
幼い頃は馬車での移動が常で、三の郭より外を自ら移動することはなかった。そのため、記憶は朧げである。
二の郭の南側は、王都の騎士団と魔術師団の本拠地となっており、それぞれの機関の中枢拠点として、南の塔がある。
士官学校は騎士団と魔術師団に属する形で運営されており、そのすぐそばに位置していた。
「この辺りは活気があっていいな」
ここでは騎獣できるのは貴族だけの為、彼らは周囲から注目を集めた。それに加え、大きな一角狼は王都でも珍しく行き交う人々が振り返る。視線を意識しながらも、2人は足を止めずに三の郭を抜け、二の郭への城壁にたどり着いた。
城門の前で下乗し、衛兵に身分証を見せて二の郭へと入る。
三の郭から二の郭へと移ると、街並みは一変した。
二の郭の北側地区は屋敷街である。貴族や、特別な許可を得た裕福な商人が居を構えており、区画整理された立派な邸宅が並ぶ。
「屋敷街を抜けて、あの正面に見えている塔の方向へ行けばいいはずだ」
南の塔は、立ち並ぶ屋敷に隠されて一部しか見えていない。
ジェイデンはそれを指差してセオドアへ告げると、魔狼たちへ声をかけた。
「また小さくなれるか?」
ここから先は騎獣も規制されている。
城門の近くには獣舎が備えてあったが、心得たように二匹は犬の姿に変化した。
呆れたような、感心したような顔でセオドアがそんな二匹を見る。
「堂に入った犬っぷりだな」
揶揄うセオドアに、2匹は素知らぬそぶりで尻尾を振りながらついてきた。
206
お気に入りに追加
2,472
あなたにおすすめの小説

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~
紫鶴
BL
早く退職させられたい!!
俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない!
はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!!
なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。
「ベルちゃん、大好き」
「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」
でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。
ーーー
ムーンライトノベルズでも連載中。
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

悪役令息の死ぬ前に
やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」
ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。
彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。
さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。
青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。
「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」
男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです
魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。
ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。
そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。
このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。
前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。
※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

朝起きたら幼なじみと番になってた。
オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。
隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた
思いつきの書き殴り
オメガバースの設定をお借りしてます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる