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一章 旅路

王都到着②

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「この近くか」

屋敷街を眺めながら進み、しばらく経ったところでジェイデンが足を止めた。
すぐそばに南の塔が見えている。

近くにいる衛士に道を聞くと、学校の正門を教えてくれた。
巡回中の衛士は、今から回るところだからと親切に正門まで案内をしてくれる。

「こんな時期に編入されるなんて珍しいですね。休み明けは年が変わってからですよ」

学校は冬期休みの真っ最中である。
ほとんどの学生は帰省しており、年明けまで戻ってこない。編入生は、新学期に合わせて入寮する事が常だ。
事情を聞いた衛士は、不思議そうな表情を浮かべる。

「我々は北の辺境騎士団から来たのでね。年越しを待っていたら、山越えが厳しくなるんですよ」

「ああ、北からですか。確か冬の魔物が出るとか・・・」

「ええ、冬の魔物に捕まると厄介なので」

セオドアの説明に、衛士は納得の表情だ。

冬の魔物は、年明けに出現する事が多い魔物で、正体がはっきりしていない。
北の山にまれに出没し、その存在は冬そのものだとも言われている。

「冬の魔物は吹雪の中にいると言われていますが、吹雪の中にいる正体を見た者はいないんですよ。多くの人が、冬の魔物に遭遇すると吹雪の中で命を落とします」

運良く逃げ延びた人は吹雪の中に白い女のような魔物や、雪でできた影を見たなどと言うが、証言はまちまちだ。
冬の魔物への対抗策は火の魔法だけだが、冬の魔物に対抗できるほどの広範囲魔法の使い手は少ない。
騎士団にも数人がいるだけである。

「今はまだ、山越えができる時期なので助かりました」

ジェイデンが笑って衛士に言うと、納得したように衛士も話を切り上げた。
ちょうど正門に到着し、門にいた別の老衛士へと引き継ぎをして彼は巡回へ戻っていく。

衛士へと礼を言い、老衛士へ編入の許可証を見せる。

老衛士はここで待つようにと2人に言い、別の者に知らせを走らせた。








「ずいぶん早い御到着ですね。北を発ったと伝書鳩が伝えに来ましたが、あと数日はかかると思っておりましたよ」

門で待つ2人のもとに、知らせを受けて1人の男が迎えにきた。
紺色のローブを着た壮年の男は、学校の教師と名乗った。

「ユージーン・カルテスです。学校では魔術学を教えています」

「ジェイデン・フォン・デア・ロンデナートです。一学年へ編入に参りました」

「セオドア・デア・ライエンです。私は二学年に」

正式な名乗りをし、許可証をユージーンへと差し出した。

それを受け取ったユージーンは、こちらへと2人を促して歩き始める。

「学校は冬期休みで閉校中です。しばらくは寮で生活をしていてください」

寮への案内をしてくれるという彼に続き、学校の敷地内へと入る。
ユージーンは歩きながら建物や学校の紹介をしてくれた。

「寮は三つあります」

そう指で示しながら、ユージーンが振り返る。

士官学校の寮は、三つに分かれている。
王都平民用の寮の西寮。
王都高位貴族用の寮の中央寮。
地方出身のものが集まる平民・貴族混合の東寮。

「お二人には本来なら中央寮に入っていただくはずでしたが、この冬期休み中に中央寮は工事が入るので入寮ができなくなりました。今回は、東寮にご案内します」

ジェイデンの長兄は中央寮にいる。
それなら寮内で顔を合わせずに済むとほっとしていると、それを察したセオドアがにやにやしながら「よかったなー」とからかってきた。ムッとしてついジェイデンの手が出る。

歩きながら無言で肘を突き合っていると、建物の前でユージーンが立ち止まった。

「ここが東寮です。管理人に伝えてくるのでここで待っていてください。ああ、あとその2匹については、改めて許可を得てくださいね」

ユージーンは2人を見た後に、足元の2匹の犬に視線を移す。
魔術師である彼には、2匹の正体はバレていたようだ。
首輪付きなので許可は問題なく出るはず、という言葉に安堵しながら、ジェイデンとセオドアは寮に入っていくユージーンを見送った。

「東寮か・・・。確かお前の同期も東寮に入ったんじゃなかったか?」

「ああ、地方組はたいてい東だ。あいつらもいるだろうな」

北の予備学校を卒業後、そのまま士官学校へ入ったジェイデンの同期が三人いたはずである。
東寮は隣の中央寮よりも少し大きい。身分の関係ない混合寮と言うこともあるが、王都出身者よりも地方からの入寮者が多いせいか。

「でもま、中央寮よりも気が楽そうで何よりだな」

堅苦しいことを嫌うセオドアは、上機嫌で寮を見上げた。
寮からは人の気配があまりしない。冬期休みで寮生は帰省している者が多いのだろう。

「ああ、助かったよ」

煉瓦造りの東寮を見上げ、ジェイデンが返事をした。



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