あの空へとけゆくバラード2

衣夜砥

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腕いっぱいの花束に、胸いっぱいの恋歌を

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 今は特別に三上さんが唯輔を預かってくれていて――というのは三上さんが宗太のかわりに、唯輔の部屋に泊まりに行ってくれていて、唯輔を一人にしないようにしてくれている。だからぼくたちはこうして一晩の逢瀬を満喫している…というわけだった。
「動物園がいいなあ」
 ぼくはあえて無邪気に答えた。
「ああ。いいんじゃないか?」
「アリゲーターが見たい」
「相変わらずマニアックだな、佳樹の好みは」
 そのマニアックを許容してくれる懐の深い宗太も、大好きだ。
「三上も誘っていい?」
「なんで三上さん?」
「なんとなく。今日も、唯輔を見ててくれているし、もう仲間みたいなものだ」
 確かに三上さんはいい人だし、彼はすでにこうして唯輔と二人きりで過ごしているのだから、確かに仲間内だろう。
「佳樹、三上と新曲を演奏するんだって?」
 ぼくを抱えなおし、掛け布団の中がぬくもった頃、宗太が水を向けた。
「三上さんから聞いたの?」
「うん」
「ぼく、曲を作り始めたって言ったろ?」
「佳樹にそんな特技があるなんて、びっくりだったけどな」
 嬉しそうな顔で答えてくれる。
「ファミレスで三上さんと会ってさ。書いてるとこ見られちゃって。三上さん、ぼくの曲、気に入ったって。で、ぼくが歌とキーボードやって、三上さんがドラムで、一緒に演奏してみないかって」
「楽しそうだな。よかったな」
 ええ。
 まあ、よかったけどね。
「いつか聴かせてくれ」
 なんとも、おっとりと言う。
「そうね。機会があれば」
「うん。楽しみにしてる」
 まあね。
 ぼくも、宗太になら聴いてほしい……けどさ。
「――それだけ?」
 ぼくは、ぎこちなく訊ねた。
「何が?」
 宗太のきょとんとした表情は、まったくもって長閑なものだった。拗ねたぼくは唇を尖らせた。
「宗太はさ、ぼくが三上さんと浮気するんじゃないかとか、好きになっちゃうかもとか、全然、心配じゃないわけ?」
 こんなふうに恨めしく口走るぼくは、心底、愚かしい。この穏やかな雰囲気に自ら波風を立てているのだから救いようがないバカだ。
  宗太が目をぱちくりさせる。
「心配してないけど」
 あっさりと答えられて、ぼくは性懲りもなくむくれた。
 そりゃあ、宗太からしたらぼくが宗太にメロメロであることは、太陽の存在くらい疑いようがないだろうけれど。
 でも、万が一ということもあるだろう、くらいの心配をしてくれたっていいじゃないか。宗太と唯輔の仲が進展するのを心配した、三上さんみたいにさ。
 宗太が、こつ、とぼくのおでこを叩く。中指の関節をごく軽く乗せるみたいな感覚なので全然痛くない。
「そんな残念そうな顔をするな。俺は心底、佳樹を信じているだけだ」
 悦ばしいことなのであろうか。
「でも、なんかさ。ぼくばかりがハラハラしてるの、フェアじゃないと思うんだよね」
 宗太が苦笑する。
「以前の俺の行いが悪かったのは、認める。でも、そろそろ本気で信じて欲しい。あまり疑われるのは正直、傷つくぞ」
「うん…」
 そうなのだろう。
 反省したぼくは、やっぱり信じてもらえることはありがたいんだと思い直す。一方で、自分はまだまだ宗太を信じきれていないことを後ろめたく感じるのだった。
 三上さんにはああ啖呵を切ったものの、唯輔に宗太をとられちゃうかも、という不安はしばしばぼくを苦しめる。
 いつになったら完全に信じられるようになるのだろうか。
 今も気持ちが暗くなったぼくは、宗太の肩にごしごしと顔をこすりつけた。こうすると宗太の匂いがぷんとしてきて、胸が熱くなり、体が熱をもってくるのだ。ぼくには少し、匂いフェチなところがあるのかもしれない。

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