あの空へとけゆくバラード2

衣夜砥

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腕いっぱいの花束に、胸いっぱいの恋歌を

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 ぼくはわざとらしく溜め息をついた。
「どうもこうも。どうでもいいだろ。余計な世話だよ。だいたい、友達の友達はみな友達とかって、ぼく、すごく苦手。友達の友達は赤の他人だよ。つまり、あんたとぼくとはまったくの他人だ」
 すげなく言うと、奇妙なものでも発見したまなざしでしみじみとぼくを見つめる。
「前から思ってたけど、宮代ってわざと自分を悪く見せる癖があるよな」
 残念そうな顔をするので、とんでもないとぼくはぞんざいに片手を振った。
「見せてるんじゃないよ。本当に根性がひん曲がってるだけ」
「そういう、つんけんと尖っているところも、可愛いんだよなあ。そういうとこも高橋は好きなんだろうな。猫が必死こいて毛を逆立てているみたいな、な。こっちは見ていられない、放っておけない、っていう気分にさせられる」
「人の話、聞いてんのか」
 ぼくは唇をひん曲げた。勝手に良い方向に解釈されては困る。
「ともかくだ。お前たちの――というか、お前の様子が気になってな。田中は田中で、あれ、完全にもぐりだしな。大学側にバレたら問題になる」
 話しているうちに、匂いだけでおなかいっぱいになりそうな大量の食事が届いた。
 ぼくを心配する気分とは裏腹に、食欲は充分にあるらしい。勢いよく食べ進める三上さんを見ているだけで、ぼくは胃もたれを起こしそうになった。
「お前はお前で、こうして単独でいることが多くなったしな。二人に遠慮でもしてるのか」
「そんなじゃないよ」
 さらに不機嫌になってぼくは答えた。
 確かに、唯一、大学で宗太と一緒に居られるお昼の時間も唯輔が一緒だ。
 共通の話題である中学時代の話などをされるとついていけないぼくは、やっぱり蚊帳の外にいる気分になる。そんな二人を見ているのがつらくなって、学外で一人、昼食をとることも増えた。
 宗太が唯輔の部屋に泊まり始めて一週間が経つ。二人の距離がどんどん縮まっているのは傍目にも分かった。
 宗太は唯輔を優しさで包み、一方で唯輔には笑顔が増えた。宗太といると嬉しくて仕方ないとでもいうようにころころ笑うことも多くなった。そして、この週末も宗太は家に戻ってこなかった。唯輔を病院に連れて行って、風呂場やトイレを掃除して、買い物などをしているうちに時間が経ってしまったと、言い訳をした。
 唯輔は確かに宗太から離れない。
 親ガモについて歩く子ガモとは、言い得て妙だ。 
 ぼくもまたかつては、宗太のことを親鳥のように感じたことがあった。宗太のやさしさ、頼もしさに、生まれたてのひなが初めて見たものについて歩くような、頼もしい気分にさせられたのだ。きっと唯輔も似た感覚をいだいているのだろう。宗太には、そんなふうに人を慈しみ、癒す力がある。
 夜、寝られないのはつらいに違いない。
 しかし人恋しさからなのか、誰かが傍にいてくれれば唯輔は眠れるのだ。それを今、実行してあげたいと切実に願い、事実、それができるのが宗太なのだとすれば、ぼくはその邪魔してはならない。
 ぼくだって宗太に助けられたのだ。あれほど悟さんから酷いことをされたにもかかわらず生きていられたのは、宗太の存在のおかげだった。その幸せをぼくは独り占めしちゃならない。
 宗太は将来、児童福祉士になって、ぼくみたいに不幸を背負った子供たちを助けたいのだ。今回の唯輔の件はぼくにとっても宗太にとっても、そのための有意義な予行演習になるだろう。
「ぼく、病人を世話をする宗太の邪魔をするほど、ろくでなしじゃないよ」
 ぼくは唇を尖らせた。三上さんはそれでも納得しかねないように眉をひそめる。
「もし、田中がゲイだったらどうする? ゲイじゃなくたって、高橋は魅力的だ。つい、ふらっとなることもあるかもしれない。高橋にしてもだぜ。いくらお前にベタ惚れしているとしても、まさか、ということもある。あいつの手綱を締めておくのに、やりすぎってことはないぞ」
「大丈夫だよ」
 苛々したぼくは口調を強めた。
「宗太が心配するなって言ってくれたんだ。ぼくは彼を信じるよ」
 三上さんが釈然としない顔をする。
「分からないな…お前は高橋を好きなんだろう。独り占めしていたいってオーラをあれだけ放っていたのに、高橋への想いが冷めたってわけじゃないんだよな?」
「当たり前だよ」
 三上さんを睨みつつぼくは頷いた。
 冷めるわけがない。事実、宗太への気持ちは微塵たりとも減ったりしていない。
「あんたは、ほんとにおせっかいやきだよ」
 噛みつくぼくに、三上さんが屈託なく笑う。
「俺も高橋と一緒なのかも。宮代を放っておけない。助けてやりたい。もし、高橋が宮代を傷つけるようなことをしたら、俺は、ただじゃおかない」
 虚を突かれて、ぼくは目を丸くした。
「なんで、そこまでぼくに肩入れするの。変なの」
「俺はこう見えて、お前のことがけっこう好きだから」
 そんな特別な厚意を受ける理由がさっぱり分からなくて、言葉を失う。ぼくの手元に視線を映すと、三上さんがさらりと話題を変えた。
「楽譜か? 数学科の課題じゃないよな?」
 これまでの話はもう打ち切ろうという自然な感じだったから、ぼくはほっとした。唯輔の件はセンシティブだから、話していると気が滅入ってくるのだ。
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