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ステージ4

3 遅刻組、あとポチと鬼

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「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛! やっぱり出遅れてんじゃん!」

 話は少し遡り、プレイヤー8人がスクリーンに飛び込んだその少し後。
 映画館のロビーに降り立つなり、炎里はオーバーに嘆き始めた。

「前回お休みだった分、今回は張り切ろうって思ってたのにぃ! おのれ……」
「……よっ、と。あれ、炎里だけか?」
「りゅみくんのせいだからなー! それもこれも全部!!」

 声がすると同時に、炎里の声は悲嘆から非難に変わった。

「うおっ、どうしたんだいきなり」
「どーしたもこーしたもないよ! 一緒に入ろうと思ってたのにさ、なんかずっとパソコンでさ……えっ何してたのアレ?」
「何って……ゲームのキャラのなんか、データをアレしてた」
「アレってなんだよアレって……ったく」

 ため息を吐いた炎里は、いつしか柳海の前でしか見せない無表情になっていた。

「ほんと、たまにそういう時あるよねりゅみくん……自分の世界に潜り込んで、時間とか気にしなくなるというか……」
「悪い悪い。んで今回は……グレキネか」

 ぶつくさ文句の止まらない炎里を流し、ひとまず柳海は辺りを見回す。

「スクリーンは……全部上映中か。多分そこで何かしてんだろうな」
「あー、売店の上に出てるもんね」
「ロビーの外は……炎里、ちょっと見てきてくんない?」
「玄関でしょ? あ、駄目だ開かない」

 二人の調査はいったん行き詰り、暇なだけの時間が訪れた。
 何故かモンスターが湧いたりとかもない。

「……そーだ、折角だし見せたげるよ。ボクの宿リ星」

 そんな中、唐突に炎里が口を開いた。

「どうした……どうした? いつになくどうした??」
「そんな困惑する事?」
「いや困惑ってか、突然すぎてまるで意図が掴めないってか……」

 んっとだねー、と炎里は軽く説明を始める。

「ホラ、颯一郎さんの能力がスライドレールとして出てたじゃん? だからさ、このゲームの中で宿リ星使えば見えるんじゃないかなって!」
「見える……あー、あの狼とやら?」

 先日。具体的には上畑市まで行って智和に会った時。
 炎里は宿リ星を使ったのだが、その時彼女、『炎で出来た狼』を見たと供述していた。

「そゆこと。じゃ行くよー……『HOWL』ッ!!」
「ノリが技名のソレなのよなあ」

 呆れながら炎里を見ている柳海。
 しかし、彼はやがて目を見開いた。

「……おっ、見て見てりゅみくん。出てるよ狼……いや、折角だし名前つけよっかな」

 ロビーの床に炎の足跡が残る。その真上、柳海の瞳にも確かに、炎の狼が映っていた。
 しかし柳海の表情の豹変には、それ以外の理由もあった。

「……お、おい炎里」
「そーだ、ポチとかどーかなりゅみくん」
「んなこたどーでもいい、後ろだ炎里!」

 そう叫び、柳海はいきなり剣を構える。

「……? どしたよりゅみくん、そんな鬼気迫る顔……」

 一応振り向いた炎里は理解する。
 彼女の後方、あるのは売店のカウンターなのだが。
 その中に、突如として存在し始めた、薄い黄緑色の化け物が一体。
 あからさまに映画館という舞台の雰囲気からかけ離れたソレを、前回体育館で戦った面子なら知っているだろう……つまるところそこにいるのは鬼である。

「なーんだ、ちゃんと敵湧くんじゃん……燃えてきたぁ!」
「とはいえ炎里、どう見てもこれまでの雑魚よか数倍強い、気を付けろ」
「分かってるよっ! そんじゃ早速……『クロスラッシュ』ッ!!」

 先手必勝とばかりに叫んで、炎里はダガーを構える。
 そして次の瞬間……既に刃が鬼を切りつけていた。

「へん! これでどうだっ!」

 あまりのスピードに鬼は反応もできず、傷口からX字状の炎が噴き出した。
 ……がしかし、鬼はなんらひるむ様子もなく、金棒を振り上げる。

「炎里危ない! 『金平氷』ッ!!」

 咄嗟に柳海は剣を振るい、鬼に向かって氷を飛ばす。
 柳海の放つ氷の欠片は金棒の軌道を逸らし、一部は鬼の足に付着する。

「凍るまでには至らないか……ならもっと!」
「そうね、凍らせてくれればボクが……うわっ!」

 一方、鬼はまだ金棒を持っている。
 すぐさま金棒を横に薙ぎ、炎里を盛大に跳ね飛ばした。

「痛っ……」
「大丈夫か、炎里!」
「思ってた倍くらい痛い! それにボク結構飛んだし……あいつ多分風属性だよ!」

 element squareには、属性相性がある。
 炎里は炎属性であり、水属性と風属性に弱いのだ。そしてノックバックが大きいという特性、あと鬼の体色からして風属性だろう、というのが炎里たちの推理。

「とすると……俺クッソ有利じゃねーの?」
「確かに! さっきの氷が元々小さいから分かんなかったけど、確かに結構ダメージ入ってた気がする!」

 風属性は氷属性と毒属性に弱く、そして柳海は氷属性なのだ。

「だとしたら凍らせてしまえば一発……『冷菓突き』ッ!!」

 柳海は剣の切っ先を鬼に向け、突進する。
 敵に剣を突き刺すことで直接凍り付かせる、それがこの技……なのだが。

「……あっ、でもりゅみくん! その鬼金棒デカいから多分りゅみくんよりリーチデカいよ」
「だとしてもこの勢いで行けば……っ!?」

 柳海を阻んだのは、振られた金棒の風圧。
 属性相性で不利だとしても、単純にパワーが有り余っていれば何ら問題は無いのだ。
 というわけで柳海はさっきの炎里みたく盛大に吹き飛んだ。

「いてて……」
「りゅみくん! だいじょぶ!?」
「ああ、何とか……しっかしこの場合、もっと遠距離から一発で凍らせなきゃだよな……」

 柳海は考えを巡らせる。氷を纏う剣という己の武器で、どうすればそんな芸当が可能かを。

「ゲームなんだし、溜めれば剣を大きくできそうではある……が、その間に近づかれるのがオチだな」
「じゃあボクが足止めするよ! ちょうど試してみたいことがあるしね」

 唐突なその言葉に、柳海は目を見開く……が。

「……りょーかい、そんじゃ頼むぞ炎里」
「任せてちょーよ! さて……鬼さんこちら、手の鳴る方へ!」

 柳海は剣を天高く掲げ、エネルギーを集中させる。
 そして炎里は鬼の視線を逸らすべく、鬼に近づこうとする。が、

(とはいえボクは不利だし、なるべく近づきたくない……ダガー投げたら取り行くのめんどいしなあ……)

 悩む炎里の脳裏に、先程の光景が浮かんだ。

「そうだっ! さっきのポチは燃えてるから……ダメージ入るはずっ!」

 炎里がそう考えた瞬間、狼が再び出現。鬼目掛け駆け出した。
 鬼はそれに気付く様子もない……が、足跡が燃えているのを見て、少し距離を置こうとする。

「やっぱり本来いないものだから見えないってこと……? だとしても好都合! ポチ、思いっきり噛みつけー!」

 応えるようにポチは咆哮し、その衝撃に鬼は一気に後ずさりする。
 追撃するようにポチは鬼目掛け突進し、足に噛みついた。
 傷口、及び周りの地面から炎が噴き出すのを見て、鬼は一心不乱に金棒を振り回す。

(うんうん、風属性なんだからそれで炎が消えるのは当たり前……でも!)

 炎里は後ろにチラッと目をやり、横方向にそそくさと駆け出した。

「りゅみくんダイジョブそう?」
「見りゃわかんだろ……結構溜まったぞ」

 そう言って、柳海は剣を構えたまま不敵に笑う。
 その剣は大量の氷を纏い、もはや剣と定義していいのかどうかも怪しい形状で巨大化している。

「へー、思ってた倍くらい早く溜まったね! じゃ……頼むよりゅみくん!」
「おうよ……瞬で終わらす」

 突如噴き出した炎に翻弄されていた鬼は、柳海の事を全く認識できていなかった。
 尤も、認識できたとて回避は不可能だっただろう。なんせ、

「『欠き氷柱』ッ!!」

 柳海は鬼目掛け、その巨大化した氷の塊を、直接ブチ当てたのだから。
 氷は盛大に砕け散り、いつもの『金平氷』などで出る氷の欠片が辺り一面に散らばった。
 そして、被害者の鬼はと言うと、直撃したことで完全に凍り付いてしまっていた。

「さーて……とどめどーするよ?」
「じゃあ、こないだの配信で出てきたアレやりたい!」
「こないだの……あー、COS? オッケー、それで」

 そう言うと柳海はスマホを操作し、水色の結晶を大量に取り出して炎里に渡す。
 受け取ると今度は炎里が赤い結晶を取り出した。エレメントジェムだ。

「これで足りる……っぽいな」
「オッケー! じゃ……」

 その時、鬼の周りの氷が少しずつ解けているのが目に付いた炎里は、早速ダガーを構えた。
 すると持っていた水色のジェムが消滅し、ダガーの周りに水色のエネルギーが集まる。

「動き出す前にもっかい凍らす!」

 炎里はダガーを横に振る。するとその軌道が凍り付き、何本もの氷の針が出来上がる。
 そして、

「じゃあ早速っ……『ブリザードスピアー』ッ!!」

 炎里が指を鳴らすと同時に針が一斉に飛び出し、鬼の体に突き刺さる。
 解けかけた部分は再び凍り付き、鬼はまたしても動きを封じられた。

「これで体力も限界、かな……じゃ、最後はりゅみくん!」
「言われなくても! 『大判』……」

 柳海の剣に赤い炎のオーラが集まる。

「『今川』……」

 柳海は円を描くように剣を回す。するとオーラも残像のように残り、円状に炎が広がった。
 所謂円月殺法、という奴である。
 やがて円を描き切った時、柳海は再び剣を構え、

「『御斬候』ッ!!」

 剣を袈裟掛けに切り下ろすと、円状の炎は一気に前進し、動きを封じていた氷ごと鬼を飲み込んだ。
 そして鬼は……盛大に爆発四散した。

「ふぅ……こんなもんかな」
「いぇーい! さっすがボクたちって感じだねっ!」

 炎里と柳海はハイタッチした。
 ……この裏で事態が大きく進展し、とある人物から大きく恨まれているとも知らずに。
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