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押し入れ

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 「ーさまっ!何処ですか!?」

 息子ならここにいるよ。
 もう出ないおっぱいを吸っていた息子は、自分を呼ぶ乳母の声にヤバいという顔をした。

 「隠れよう!」
 「え?私も?」

 手を引かれ、部屋にある押し入れに一緒に入らされた。

 「しーだよっ!」

 声を出さなければバレないと信じている笑顔。安心したようにまた胸に顔を埋めた。その頭を撫でてやる。
 子どもが隠れる場所は共通して決まっているのか。それとも親子だからだろうか。
 あの時の押し入れは、もっと小さくて狭かった。暖かい温もりも傍になかった。



 物心ついた時から父親は居らず、女である母親は毎日のように男を連れ込んでいた。子どもが居ることを知られないよう隠れていろ、と命じられた私は物が詰まった押し入れの僅かな隙間に身を潜めていた。母の機嫌は生きるためになるべく損ねたくなかった。
 毎回来る男は違っていたが、私が小学生になった頃母はある男に惚れ、その人だけを連れ込むようになった。
 男は私に気づいていて、母がシャワーを浴びている間にいつもお菓子をくれて面白い話をしてくれた。肌が色鮮やかで眼差しが怖いけれど、私への態度は優しく楽しい人だった。最初は、そうだった。
 だが次第に男は変になっていった。無言で私の顔を見続けるだけだったり、押し入れの襖が外れそうなほどガタガタ激しくナニかをしたり。暴力的な面を見せるようになり、私は戸惑っていた。
 甲高い声よりも苦しげに呻く声が多くなった頃に、とうとうそれは起きた。

 「ガキがいるくせに俺を欺く馬鹿な真似しやがって。テメェとは終わりだこのクソアマが」

 男の発言に母の焦り縋りつく声が聞こえた。

 「最後だ、見られながらヤるか」

 突然開いた襖。逆光で男の顔は分からないが、笑ってる気がする。母は言い訳を考えているのか私を見もしなかった。私を暗闇から出し隣に座らせると、男は母を布団に押しつけ動き出した。

 「気合い入れて締めろ、オラッ!」

 母は狂ったように喚き涎を垂らしていた。尻を容赦なく叩きながら男は私を熱く見つめた。見られているから見つめ返すと、目を細めて腰を数度、強く打った。白く濡れた赤黒いペニスがずるりと母から出てきた。光る汗も見えるほど近くですべてを見た。

 「どうだった」

 男は母ではなく私に聞いた。
 なんとも思わないのに、どうもない。首を傾げた私を男は笑いながら撫でた。

 「さっきのは無しだ。また来てやる」

 起きあがった母は男にもたれ、嬉しそうに甘えた。


 それからは私に見られながら、いや私を見ながらの交わりになった。母は男の機嫌を損ねたくなくて受け入れ、私が押し入れに入ることはなくなった。

 「もっと舌使え」

 含んでいた棒キャンディーを舌を出して舐めれば、頭を押さえつける手が緩んだ。男の股間に顔を埋めていた母が咽せる。

 「美味いか?」

 頷けば男は満足して機嫌が良くなり、母の髪を梳いた。表情は見えなくとも母がホッとしたのが分かった。

 「口窄ませて早く出し入れしろ」

 目の端で頭が激しく上下する。奉仕を見もせずに、男は私だけを見ている。
 コロッちゅぽちゅぽペロッ。
 従った私に男は目を細め、果てた。

 母への命令が私に向けたものであることは早くに気づいた。男の言葉通りに母が従っても認めず、首を絞めながら飢えた目つきで見つめられれば嫌でも理解出来る。私が男に従えば母は暴力を振るわれない。この構造に母も気づいている。
 暗黙の了解。母がこの男に執着するかぎり、私は母と男に使われ続ける。
 せめてもの救いは、視線を這わせても手は出されなかったことだ。肉体に直接触れられはしなかった。

 獲物を前に涎を垂らしている肉食獣。
 何故待てが出来たのか。
 その理由は、母の妊娠により分かった。



 チリッとした痛みで下を見れば、上目遣いでこちらを伺う悪戯っ子。

 「まーのおっぱい好き。おれ、好きっ!」

 まーというのが、ままか将孝かで随分変わる。

 「好き!」
 「そう。よかったね」
 「うんっ!」

 私に懐く幼き獣。
 君は私を喰らうだろうか?

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