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よん

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 私の主な収入源は、毎日欠かさず医者に提出する数種類の妊娠検査薬だ。生理の場合は使用済み品を証拠として要求される。何も知らぬ助手を使い走りさせ回収する異常者と私は取引し、生きている。
 段ボールいっぱいに詰まった検査薬は、慕われ人格者に見られている医者の狂気の証明だ。

 「妊娠してるね……っ!いつぶりだろう?嬉しいよ、将孝くん。ありがとうね……っ」

 反応が出た物を握りしめて、医者はすぐに飛んできた。幼少期に一方的に結ばされた子どもを産むという約束が果たされると歓喜している。父親は自分だと決めつけて。
 私の子宮は子が育ちにくい。どうせ流れてしまうだろう。幾度も繰り返したそれだと、思っていたのに。
 男たちの期待を一心に受けて子は順調に育ち、高齢初産にも関わらずつるんと安産で産まれたのだ。
 ここで問題になるのが、父親は誰か?ということだ。分からないのが問題ではなく、分かってしまうと問題だった。
 私を犯した全員が自分の子だと主張して譲らない。孕ませたのは自分だと言い合い、物騒な雰囲気を醸し出している。科学的に父親が判明すれば血を物理的に見るだろう。

 「DNA鑑定はしないから、好きに父親面すればいい」

 どうでもよくなって放った私の言葉を、全員が己に向けた伴侶承諾発言だと湾曲して受け取り、実質逆プロポーズだと思い込んだ。なんでそうなるのかね?
 喜び勇んだ三家それぞれから遣わされたベテラン乳母が子の世話をしたが、食事だけは絶対に私の母乳以外は口にしなかった。常時溢れるほど出が良かったのは幸いだ。

 「ああ、体の中の不純物が浄化されていく。俺は今新しく産まれたんだ。夫であり息子だ。オギャー」
 「おいちいおいちいおいちい」
 「ほらね、やっぱり。覚えてますよこの味。原始の味を忘れるわけないですもん。あー思い出してきた、愛情たっぷりすくすく育ちますようにって与えられたの思い出しました」

 張ってる乳房にへばりつきちゅうちゅう吸う少年たちは、幼獣どころか赤ちゃんだ。あの威勢の良さはどこにいったのかな?
 住んでいるかの如く入り浸り、妻子が待っているからと夜遊びをしなくなった。それにより不良チームは瓦解して、身代わりの犠牲者が出ることももう無い。傍目からは更生したように思われているという。結果オーライハッピーエンド、だ。


 「たしかに美味えな」

 揉んで飛び出た母乳を舐めとって、警察官僚は頷いた。

 「あんなに幼かった将孝くんが母乳を……感慨深いよ」

 味わった後パックに満タンに入れた医者は、冷凍保存して毎日ちびちび飲むよ、と笑った。
 ヤクザは目を閉じ無言で飲んでいる。眼鏡も外し完全に赤子になりきっている。体験している。ペニスを私に扱かせながら、だが。

 第一子誕生という奇跡は彼らに希望を与えた。
 三人とも、次を望んでいる。牽制し合いながら、今度こそ己の子だと確証出来る条件下で孕んで産ませる、と野望に燃えているのだ。
 実は少年たちも不穏な動きをし始めている。私の体が本調子に戻った途端、性を感じさせる行動を起こすようになった。相手にせず躱しているが。
 やはり親子は似るのだな、とため息を吐く。

 泣き声が聞こえてきた。
 子が起きてしまったのだろう。最近自我が芽生えたのか、私の姿が見えないと泣くようになった。授乳以外で抱いたことはないし世話は乳母がしているのに。
 母恋しさか、私個人への執着か。

 彼らに混じり私を取り合う最年少の男の姿が容易に想像出来たが、気づかないふりをして、数年後に答えを託した。

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