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第十七章
改造版――!
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「アーロンさん、それ使って!」
アーロンさんは気配でタイミングを計ったのか、”それ”が直ぐ側まで来る直前に、剣を離す。
突然、剣から力が抜けたため、つんのめる巨大赤ムカデ君の頭部に、受け取った”それ”――白いモクモク刀を振るった。
ひょっとしたら、怯ませるために殴っただけなのかもしれない。
だが、白い刃は赤い頭部を易々と両断した。
紫色の液体を吹き出しながら地面を転がる巨大赤ムカデ君だったけど、呆然とそれを見守るアーロンさんの前で、しばらくすると動かなくなった。
ふむ、成功かな?
「サリー……。
これは、お前と繋がっていなくてはならなかったのに、それが無くなっているじゃないか!」
おじいちゃん組合長は目を見開いて訊ねてきた。
「うん、これ、新しい白いモクモク刀だからね」
これは、白大猿君討伐で赤鷲の団のアナさんが使用した、石の槍、そこから着想を得た改良版、白いモクモク刀なのだ。
石の槍は対象に突き刺さっても、しばらくは石の槍の姿のまま残っていた。
ひょっとしたら、白いモクモク刀でも同じ事が出来ないかと、冬ごもり中、試行錯誤をして完成させた物だ。
その結果、わたしから離れていても、ある程度、刀としての体を整えて存在できるようになった。
威力はやや減退した上に、使用魔力量がかなり増えてしまったけど……。
その辺りはまあ、仕方が無いよね。
あと、見た目も少し変わった。
元々の白いモクモク刀は、堅くて切れ味は良かったけど、どこか白いプラスチックで出来た感じの刀だった。
ただ、改良版は白色なのはそのままだが、どこか、金属質な質感になっている。
マッチョ系おじいちゃんが持っている様子も、なかなか、格好良くなっていた。
アーロンさんは白いモクモク刀を眺めつつ言う。
「そうなのか……。
元々、素晴らしい切れ味だったが、欠点が克服されて……。
……サリー、これ、貰って良いのか?」
なんて、変なことを言う組合長なおじいちゃんに、わたしは苦笑しながら答える。
「いや、それは魔力で出来ているから、しばらくすると、形が崩れるよ」
わたしの言葉を肯定するように、アーロンさんの持っている刀が、その形を崩していく。
「そうだろうな……。
まあ、そうだろうな……」
などと、悲しそうな顔で手から消えていく白いモクモク刀を見送るアーロンさんに、新たに作った物を渡しながら言う。
「ほらほら、わたし、忙しくは無いけど、かといって、暇でもないの!
今回も、アーロンさんがトドメを刺すんでしょう?
サクサクお願い!」
そう言いながら、急かすのだった。
門まで戻ってくると、門番さん達が大騒ぎし始めてしまった。
まあ、並の冒険者では歯が立たないって言う巨大赤ムカデ君を十匹も討伐してきたのだ、それも仕方が無いのかもしれない。
「流石、赤竜殺しだ!」
という声も聞こえてくる。
だが、今回のことは流石に一人で狩ったとは言わず、アーロンさんは「罠で捕まえたのに、トドメを刺しただけだ」と答えていた。
「でも、トドメを刺すことすら難しいんでしょう?」
とキラキラした目で見られ、アーロンさんは苦笑しながら「まあ、その辺りは、な」と言葉を濁してた。
あれから、アーロンさんは全ての巨大赤ムカデ君にサクサクとトドメを刺していった。
いくら、縛った上に白いモクモク刀(改)を使用しているとはいえ、流石の手並みだと思うけどなぁ。
アーロンさんは白いモクモク刀(改)の事がよほど気に入ったのか、「三十年ぐらいまで持たせられんか?」などというとんでもないことを言ってきた。
因みに、現在の白いモクモク刀(改)が姿を保てるのは、およそ六十秒ぐらいだ。
「無茶を言わないで」と返したら「まあ、そうだろうな」とがっかりした顔で俯いてしまった。
いや、アーロンさん、まさかあと三十年、剣を振るっているつもりなの?
どんだけ、元気なのこの人は!
「まあ、三十年は無理だけど、一日ぐらいは持たせられるように頑張る!」と答えると「楽しみにしてるぞ!」と頭を帽子越しに撫でられた。
う~ん、迂闊なことを言ってしまったかな?
あと、念のためにアーロンさんの愛馬クワイエットの足を確認する。
触るだけでしびれると言う巨大赤ムカデ君を蹴っちゃったからね。
でも、蹄で蹴ったからか、特になんとも無さそうだった。
心配そうに後ろ足を見るわたしやアーロンさんに、柔らかな目をしたクワイエットは”心配性ね”というように「ブルル」と鳴いてた。
その後、白いモクモクをソリ状にして、巨大赤ムカデ君を乗せ、引きずり持ってきた。
クワイエットに負担をかけてしまったのは、少々申し訳なかった。
まあ、そういっても、貴婦人系お馬さんなクワイエットは”軽いものよ”と穏やかに鳴くだけだろうけどね。
困っていたという商人さんや農民さんらが、お礼を言おうとアーロンさんに殺到してきたので少々、遅くなってしまったが、解体所に到着する。
「巨大赤ムカデがこんなに綺麗な状態で持ち込まれるのは、初めてかもしれんな!」
と解体所の所長グラハムさんが巨体を揺らしながら嬉しそうに言う。
なんでも、甲殻が堅く、しかも、触れるだけで体が動けなくなるこの魔虫は、基本、遠距離魔術や棍棒などの鈍器で対処するのが一般的とのことだった。
「剣で刺し殺したのか?
組合長は相変わらず無茶をする!
これでは、若手を窘められんだろうに。
ガッハッハ!」
と笑われ、アーロンさんは苦笑する。
わたしが「あと三十年は剣を振るうつもりなんだって」とチクると、グラハムさんは腹をポンポン叩きながら、「気持ちは冒険者組合で一番若いかもしれないな!」と大笑いをした。
そんな、グラハムさんを「もう、笑ってないで仕事をしろ!」と急かし、わたしをギロリと睨んで「サリーは余計なことを言うな!」と怒ってきた。
え~自分で言ってたことじゃない!
分厚い手袋を付けたグラハムさんを始めとする解体所の皆が、巨大赤ムカデ君を解体し始めるのを、アーロンさんと共に部屋の端の方で眺める。
アーロンさんは何やら難しい顔で考え込んでいたけど、わたしに言う。
「お前がいる時に、十匹を退治できたのは僥倖だが、奴らは少なくとも、三十匹は居るらしい。
サリー、お前抜きで倒す良い手は思いつくか?」
「巨大赤ムカデ君って、アーロンさんですら倒せないのに、出てきた場合はどうやっていたの?」
「奴らは周りが寒くなると、動きが鈍くなる性質があるんだ。
だから、氷結系の魔術師を集めて対処している。
とはいえ、一匹に対して、一角の魔術師が五人は必要となる。
そして、牽制やトドメ役の冒険者は三十人は必要だ。
騎士団が動いてくれれば良いのだが……」
冬籠もり中の食糧問題でも話にあったけど、この町の領主様は期待薄なんだよね。
「わたしが出した白いモクモク刀でアーロンさん、もしくは赤鷲のライアンさん辺りで退治して回るってのはどうかな?」
「最悪、そうなるだろうが……。
今回のことが、一過性の出来事なら良いのだが、これから続くとなると……。
何か考えておきたい」
まあ、確かにそうか。
わたしが居ない場合もあるだろうしね。
「そもそも、なんで大量発生したのかな?」
わたしが訊ねると、アーロンさんは眉間に皺を寄せて小首を捻る。
「なんだろうな?
奴らは主に、北方の湿地帯に住むと言われているのだが……。
話を聞く限り、それが南下しているようだ。
ひょっとしたら、何か強大な魔獣が暴れたりして、それから避難してきたのかも知れないな」
……。
強大な魔獣――本来であれば、黒竜やら毒竜やらを思い描かないといけない所だろう。
なのに何故か、わたしの脳裏に浮かんだのは、わたしの愛すべき兄姉達だった。
え?
いや、え?
そんなこと、してないよね……?
アーロンさんは気配でタイミングを計ったのか、”それ”が直ぐ側まで来る直前に、剣を離す。
突然、剣から力が抜けたため、つんのめる巨大赤ムカデ君の頭部に、受け取った”それ”――白いモクモク刀を振るった。
ひょっとしたら、怯ませるために殴っただけなのかもしれない。
だが、白い刃は赤い頭部を易々と両断した。
紫色の液体を吹き出しながら地面を転がる巨大赤ムカデ君だったけど、呆然とそれを見守るアーロンさんの前で、しばらくすると動かなくなった。
ふむ、成功かな?
「サリー……。
これは、お前と繋がっていなくてはならなかったのに、それが無くなっているじゃないか!」
おじいちゃん組合長は目を見開いて訊ねてきた。
「うん、これ、新しい白いモクモク刀だからね」
これは、白大猿君討伐で赤鷲の団のアナさんが使用した、石の槍、そこから着想を得た改良版、白いモクモク刀なのだ。
石の槍は対象に突き刺さっても、しばらくは石の槍の姿のまま残っていた。
ひょっとしたら、白いモクモク刀でも同じ事が出来ないかと、冬ごもり中、試行錯誤をして完成させた物だ。
その結果、わたしから離れていても、ある程度、刀としての体を整えて存在できるようになった。
威力はやや減退した上に、使用魔力量がかなり増えてしまったけど……。
その辺りはまあ、仕方が無いよね。
あと、見た目も少し変わった。
元々の白いモクモク刀は、堅くて切れ味は良かったけど、どこか白いプラスチックで出来た感じの刀だった。
ただ、改良版は白色なのはそのままだが、どこか、金属質な質感になっている。
マッチョ系おじいちゃんが持っている様子も、なかなか、格好良くなっていた。
アーロンさんは白いモクモク刀を眺めつつ言う。
「そうなのか……。
元々、素晴らしい切れ味だったが、欠点が克服されて……。
……サリー、これ、貰って良いのか?」
なんて、変なことを言う組合長なおじいちゃんに、わたしは苦笑しながら答える。
「いや、それは魔力で出来ているから、しばらくすると、形が崩れるよ」
わたしの言葉を肯定するように、アーロンさんの持っている刀が、その形を崩していく。
「そうだろうな……。
まあ、そうだろうな……」
などと、悲しそうな顔で手から消えていく白いモクモク刀を見送るアーロンさんに、新たに作った物を渡しながら言う。
「ほらほら、わたし、忙しくは無いけど、かといって、暇でもないの!
今回も、アーロンさんがトドメを刺すんでしょう?
サクサクお願い!」
そう言いながら、急かすのだった。
門まで戻ってくると、門番さん達が大騒ぎし始めてしまった。
まあ、並の冒険者では歯が立たないって言う巨大赤ムカデ君を十匹も討伐してきたのだ、それも仕方が無いのかもしれない。
「流石、赤竜殺しだ!」
という声も聞こえてくる。
だが、今回のことは流石に一人で狩ったとは言わず、アーロンさんは「罠で捕まえたのに、トドメを刺しただけだ」と答えていた。
「でも、トドメを刺すことすら難しいんでしょう?」
とキラキラした目で見られ、アーロンさんは苦笑しながら「まあ、その辺りは、な」と言葉を濁してた。
あれから、アーロンさんは全ての巨大赤ムカデ君にサクサクとトドメを刺していった。
いくら、縛った上に白いモクモク刀(改)を使用しているとはいえ、流石の手並みだと思うけどなぁ。
アーロンさんは白いモクモク刀(改)の事がよほど気に入ったのか、「三十年ぐらいまで持たせられんか?」などというとんでもないことを言ってきた。
因みに、現在の白いモクモク刀(改)が姿を保てるのは、およそ六十秒ぐらいだ。
「無茶を言わないで」と返したら「まあ、そうだろうな」とがっかりした顔で俯いてしまった。
いや、アーロンさん、まさかあと三十年、剣を振るっているつもりなの?
どんだけ、元気なのこの人は!
「まあ、三十年は無理だけど、一日ぐらいは持たせられるように頑張る!」と答えると「楽しみにしてるぞ!」と頭を帽子越しに撫でられた。
う~ん、迂闊なことを言ってしまったかな?
あと、念のためにアーロンさんの愛馬クワイエットの足を確認する。
触るだけでしびれると言う巨大赤ムカデ君を蹴っちゃったからね。
でも、蹄で蹴ったからか、特になんとも無さそうだった。
心配そうに後ろ足を見るわたしやアーロンさんに、柔らかな目をしたクワイエットは”心配性ね”というように「ブルル」と鳴いてた。
その後、白いモクモクをソリ状にして、巨大赤ムカデ君を乗せ、引きずり持ってきた。
クワイエットに負担をかけてしまったのは、少々申し訳なかった。
まあ、そういっても、貴婦人系お馬さんなクワイエットは”軽いものよ”と穏やかに鳴くだけだろうけどね。
困っていたという商人さんや農民さんらが、お礼を言おうとアーロンさんに殺到してきたので少々、遅くなってしまったが、解体所に到着する。
「巨大赤ムカデがこんなに綺麗な状態で持ち込まれるのは、初めてかもしれんな!」
と解体所の所長グラハムさんが巨体を揺らしながら嬉しそうに言う。
なんでも、甲殻が堅く、しかも、触れるだけで体が動けなくなるこの魔虫は、基本、遠距離魔術や棍棒などの鈍器で対処するのが一般的とのことだった。
「剣で刺し殺したのか?
組合長は相変わらず無茶をする!
これでは、若手を窘められんだろうに。
ガッハッハ!」
と笑われ、アーロンさんは苦笑する。
わたしが「あと三十年は剣を振るうつもりなんだって」とチクると、グラハムさんは腹をポンポン叩きながら、「気持ちは冒険者組合で一番若いかもしれないな!」と大笑いをした。
そんな、グラハムさんを「もう、笑ってないで仕事をしろ!」と急かし、わたしをギロリと睨んで「サリーは余計なことを言うな!」と怒ってきた。
え~自分で言ってたことじゃない!
分厚い手袋を付けたグラハムさんを始めとする解体所の皆が、巨大赤ムカデ君を解体し始めるのを、アーロンさんと共に部屋の端の方で眺める。
アーロンさんは何やら難しい顔で考え込んでいたけど、わたしに言う。
「お前がいる時に、十匹を退治できたのは僥倖だが、奴らは少なくとも、三十匹は居るらしい。
サリー、お前抜きで倒す良い手は思いつくか?」
「巨大赤ムカデ君って、アーロンさんですら倒せないのに、出てきた場合はどうやっていたの?」
「奴らは周りが寒くなると、動きが鈍くなる性質があるんだ。
だから、氷結系の魔術師を集めて対処している。
とはいえ、一匹に対して、一角の魔術師が五人は必要となる。
そして、牽制やトドメ役の冒険者は三十人は必要だ。
騎士団が動いてくれれば良いのだが……」
冬籠もり中の食糧問題でも話にあったけど、この町の領主様は期待薄なんだよね。
「わたしが出した白いモクモク刀でアーロンさん、もしくは赤鷲のライアンさん辺りで退治して回るってのはどうかな?」
「最悪、そうなるだろうが……。
今回のことが、一過性の出来事なら良いのだが、これから続くとなると……。
何か考えておきたい」
まあ、確かにそうか。
わたしが居ない場合もあるだろうしね。
「そもそも、なんで大量発生したのかな?」
わたしが訊ねると、アーロンさんは眉間に皺を寄せて小首を捻る。
「なんだろうな?
奴らは主に、北方の湿地帯に住むと言われているのだが……。
話を聞く限り、それが南下しているようだ。
ひょっとしたら、何か強大な魔獣が暴れたりして、それから避難してきたのかも知れないな」
……。
強大な魔獣――本来であれば、黒竜やら毒竜やらを思い描かないといけない所だろう。
なのに何故か、わたしの脳裏に浮かんだのは、わたしの愛すべき兄姉達だった。
え?
いや、え?
そんなこと、してないよね……?
応援ありがとうございます!
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