59 / 189
第九章
SSR来たぁぁぁ!
しおりを挟む
種とかが入った小袋を抱えつつ車庫から出る。
イメルダちゃんもその後から付いてくる。
車庫の暖房器具をかねていたので、とりあえず、家に入られるまではその場にいようと思っていたけど、ヴェロニカお母さんに「ここの中も暖かくなったから大丈夫よ」と促されたので、お昼ご飯まで栽培をしようという事になった。
因みに、お昼ご飯といってもここら辺の人はがっつり食べない。
パン一つ程度の軽食だ。
正直、ママとの生活では食べるタイミングも適当だったので、特には問題はない。
どうせ、花壇から離れるように言われるだろうから、少し離れた所まで移動――しようと思ったら、妖精メイドのサクラちゃんに袖を引かれる。
え?
どうしたの?
付いていくと、離れようと思っていた花壇だった。
あまり良く見ていなかったけど、結構萎れてきてるなぁ。
元々、季節が合わないんだし、仕方がないと言えばその通りなんだけど。
え?
ああ、種にするのね。
イメルダちゃんにちょっと待って貰い、先にこちらをやってしまう。
白いモクモクで花を覆うと魔力を流す。
すると、花が一気に枯れていく。
そこに、妖精ちゃん達が寄っていき、種を取りだしていく。
イメルダちゃんが言う。
「サリーさん、枯らす時は、いつもの掛け声をしなくて良いの?」
ん?
ああ、なるほど。
「イメルダちゃん、あの掛け声は何となくのノリで言っているだけだから」
すると、イメルダちゃんは何とも言えない渋い顔で「……そう」と言った。
なぜ?
花も枯らせたので、良いかな? と思い、花壇のそばで植物を育てようと思ったけど、やっぱりというか、妖精ちゃん達に、離れるように言われてしまった。
なので、南の方で育てることに。
念のために、イメルダちゃんのそばにいる近衛騎士妖精ちゃん達に「イメルダちゃんを守ってあげてね」とお願いしつつ、準備をする。
ん?
何人もの妖精ちゃん達が近寄ってくる。
え?
手伝ってくれる?
ありがとう!
収穫って、地味に大変なのだ。
人手(妖精手?)があるのはとても助かる。
さあ、ガンガン行くよ!
栽培するものの中には、小麦などの育てたままでは使えない物も混じっている。
だけど、今回はとにかく育てて行く。
最悪、加工は冬ごもり中にすれば良いしね。
イメルダちゃんの指示の元、「育てぇ!」を連呼していく。
イメルダちゃんからは「意味がないなら、その掛け声止めたら」とか言われちゃったけど、「ここら辺は勢いというか、お約束というか、色んな意味で必要だから!」と言って却下した。
「意味が分からない」と言われてしまったけど、正直、わたしもよく分からないけど、世の中、そういうものなのだ!(?)
サクサクと進めていく。
途中、焼き芋を焼いてお昼休憩(妖精ちゃん達には果物を配る)をしたりしたけど、なかなかの勢いで食料が積まれていった。
これには、イメルダちゃんに「サリーさんって、やっぱり、とんでも無いわね」というお言葉を頂いてしまった。
どうやら、フェンリルチートで、わたし、すげぇぇぇ! をしてしまったようだ。
なんて、ノリノリで育てまくっていると、何かが我が国に近づいてくる気配を感じる。
視線を向けると、蟻さんだった。
イメルダちゃんも気づいたようで、「今日は何の種かしら」とちょっと、期待した感じに声を漏らしている。
それにしても、蟻さん……。
食料を作っている時にやってくるとは、なかなか、抜け目ないなぁ~
何て思っていると、後続の蟻さん達が何かを運んでいるのに気づいた。
え?
兵隊蜂さん!?
普段、巨大蜂さん家を守るために、力強く飛び回っていた、あの兵隊蜂さんが何故か、蟻さんの、あたかも冬ごもり用の餌のごとく運ばれていた。
いや、自然の摂理というか、食物連鎖というべきか、生まれた者はいずれ死んでいくと言うべきか、そういうのは当たり前なのかもしれない。
だけど、短い間だったとはいえ、交流のあった人……じゃなく、蜂さんが、あんな食料として運ばれていくのは……。
何というか、すごく切ない。
そんな、センチメンタルな気持ちになっているわたしのそばまで来た蟻さんは、カチカチカチと顎を鳴らしながら、前足を差し出してきた。
その上には、種があった。
……。
いやね、蟻さんに”それ”を求めるのは筋違いかもしれないけどね。
でも、何というか――何かしらあっても良くない?
ただ、そんなわたしの心中など気にする様子もなく、蟻さんは、早く早く! と急かすように、前足を振っている。
はいはい、冬ごもりの準備で忙しいんでしょうね!
分かりましたよ!
わたしは結界の外に出ると、蟻さんから種を受け取る。
そして、最後の挨拶として、兵隊蜂さんの屈強な鎧を撫でてあげる。
兵隊蜂さんはとても死んでいるとは思えない、いつも通りの姿に見えた。
それは、わたしの願望がそのように見せているのかもしれない。
一見すると、今にも動き出しそうに思えた。
でも、そのようなことはあり得ないのだ。
新たに作った巣を、女王さんや仲間達を、守るその雄姿は――もう二度と見ることが出来ないのだ。
目元が少し痛くなり、涙が溢れてくるのを感じた。
「兵隊蜂さん……」ゆっくり休んで、と続けようとした。
だけど、わたしの声に兵隊蜂さんがこちらを向き”ども”っていうように、前足を動かした。
えっ!?
わたしも驚いたけど、運んでいる蟻さん達はもっと驚いたのか、わっ! っていう感じに逃げていき、兵隊蜂さんは地面に落っこちた。
……えぇ~
……。
……。
寝転がったままの兵隊蜂さんの身振り手振りを要約すると、必死に蜜を準備したけどその量は全員が冬籠もりをする量には心許なく、自主的に巣を出たとのこと。
そういえば、前世のミツバチも、冬が来ると雄は巣から出されるって聞いたことがあるから、この兵隊蜂さんの行動は順当なのかも知れない。
でもなぁ~このままだと遅かれ早かれ、死んじゃうのは確実なんだよね。
こんなことを言うと、自分でも偽善と思えちゃうし、ママとかに聞かれたら怒られそうだけど……。
出来ればこの兵隊蜂さんを助けてあげたいなぁ。
このまま、寒い冬を迎えて、一匹、寂しく飢え死にか凍死なんて、ちょっと可哀想だ。
あと、つい先ほど気づいたんだけど、木々の奥の隙間から、女王蜂さんとか働き蜂さん、若手(?)な兵隊蜂さんが心配そうにこちらを覗いてた。
そんなのを見てるとねぇ~
なんとかして上げたくなるってものだ。
前世のミツバチと同じであれば、蜂さん達の冬籠もり中の食料は蜂蜜である。
ただ、養蜂所では、十分な蜜を集められなかった巣に対して、砂糖を代わりに与える――そんな話をWeb小説で読んだ気がする。
そう考えれば、巨大蜂さん達にも砂糖を与えれば良い――という事になる。
とはいえ現状、砂糖を生産する術がないので、町で買ってくるしか無いんだけど……。
目立つなと言われているのに、高額の砂糖を大量に購入するのは……ね。
まあ、最悪そうするにしても、何か良い手は無いかなぁ。
砂糖、糖、ブドウ糖……。
ブドウ糖とかは代わりにならないかな?
ブドウ糖はデンプンから作れるんだっけ……。
う~ん、作ったこと無いなぁ。
あ、メープルシロップを探すってのはどうかな?
それなら、何とか代わりになるか。
でも、どういう木から出てくるのか、よく分かんない。
イチョウの木だっけ?
カエデの木だっけ?
う~ん……。
などと、兵隊蜂さんの側でしゃがみつつ真剣に考えていると、横から腕を突っつかれる。
蟻さんだった。
多分代表者だろう一匹が、横たわったままの兵隊蜂さんをチラチラ見つつ、わたしに前足を伸ばしてきた。
その上には種があった。
まったく蟻さんは……。
そこでふと、蟻さんを見上げつつ訊ねてみる。
「蟻さん達は冬籠もり用の食料は大丈夫なの?」
途端、何やら上機嫌に身振り手振りをする。
え?
わたしのお陰でかなり余裕がある?
でも、食べ物の山を作るのが好きだから、今も集めてる?
なんか、成金ぽい!
すると、先ほどまで穏やかに死を受け入れる聖人のような雰囲気だった兵隊蜂さん――その尾がすぅーっと蟻さんに向く。
「止めなさい!」
わたしはその尾の向きを戻す。
「いや、そんな不満そうな顔をしないの!
蟻さん達だって、一生懸命集めたんだから!」
などと、宥めているのに、蟻さんが種を持つ前足で肩を叩いてくる。
はいはいはいはい、分かりました。
「もう、蟻さん、そういう所だよ!」
などと言いながら、種を地面に落とす。
すると、近衛騎士妖精ちゃんがわたしの袖を引っ張る。
え?
結界の中で?
ああ、いつもならそうしてるけど、面倒くさくなって外でやっていた。
中に入ると、何故か妖精姫ちゃんを始めとして妖精ちゃん達が揃っていた。
え?
何?
何やら、皆、緊迫した顔になっているけど、何なの?
「どうしたの? これ」などとイメルダちゃんも困惑顔で妖精ちゃん達を見ている。
そう言われても、よく分かんない。
困惑しつつ、地面に穴を開け、そこに埋める。
そして、白いモクモクを覆い、唱える。
「育てぇ!」
……あ。
ああ……。
こ、これは……。
ニョキニョキと育つそれを見て、わたしは気づいてしまう。
妖精ちゃん達も分かっているのか、その上空をクルクル回っている。
わたしのほっぺに妖精姫ちゃんが、ぎゅっとくっついてきた。
性懲りも無く、蟻さんに尾を向けている兵隊蜂さんに
「へ、兵隊蜂さん!
蟻さんにごめんなさいとありがとうを言って!」
と指示する。
え? 何? って顔で兵隊蜂さんはこちらを向くけど、仕方が無い!
声がうわずっているのも、仕方が無い!
ただならぬ気配に、イメルダちゃんが「どうしたの?」と困惑しながら訊ねてくる。
わたしは震えるのを必死に押さえながら収穫をする。
そして、それを持ち上げながら叫んだ!
『砂糖大根来たぁぁぁ!』
うぁおぉぉぉん! という声が空に昇り、それを追うように満面笑みの妖精ちゃん達がクルクル回りつつ上昇していった。
イメルダちゃんもその後から付いてくる。
車庫の暖房器具をかねていたので、とりあえず、家に入られるまではその場にいようと思っていたけど、ヴェロニカお母さんに「ここの中も暖かくなったから大丈夫よ」と促されたので、お昼ご飯まで栽培をしようという事になった。
因みに、お昼ご飯といってもここら辺の人はがっつり食べない。
パン一つ程度の軽食だ。
正直、ママとの生活では食べるタイミングも適当だったので、特には問題はない。
どうせ、花壇から離れるように言われるだろうから、少し離れた所まで移動――しようと思ったら、妖精メイドのサクラちゃんに袖を引かれる。
え?
どうしたの?
付いていくと、離れようと思っていた花壇だった。
あまり良く見ていなかったけど、結構萎れてきてるなぁ。
元々、季節が合わないんだし、仕方がないと言えばその通りなんだけど。
え?
ああ、種にするのね。
イメルダちゃんにちょっと待って貰い、先にこちらをやってしまう。
白いモクモクで花を覆うと魔力を流す。
すると、花が一気に枯れていく。
そこに、妖精ちゃん達が寄っていき、種を取りだしていく。
イメルダちゃんが言う。
「サリーさん、枯らす時は、いつもの掛け声をしなくて良いの?」
ん?
ああ、なるほど。
「イメルダちゃん、あの掛け声は何となくのノリで言っているだけだから」
すると、イメルダちゃんは何とも言えない渋い顔で「……そう」と言った。
なぜ?
花も枯らせたので、良いかな? と思い、花壇のそばで植物を育てようと思ったけど、やっぱりというか、妖精ちゃん達に、離れるように言われてしまった。
なので、南の方で育てることに。
念のために、イメルダちゃんのそばにいる近衛騎士妖精ちゃん達に「イメルダちゃんを守ってあげてね」とお願いしつつ、準備をする。
ん?
何人もの妖精ちゃん達が近寄ってくる。
え?
手伝ってくれる?
ありがとう!
収穫って、地味に大変なのだ。
人手(妖精手?)があるのはとても助かる。
さあ、ガンガン行くよ!
栽培するものの中には、小麦などの育てたままでは使えない物も混じっている。
だけど、今回はとにかく育てて行く。
最悪、加工は冬ごもり中にすれば良いしね。
イメルダちゃんの指示の元、「育てぇ!」を連呼していく。
イメルダちゃんからは「意味がないなら、その掛け声止めたら」とか言われちゃったけど、「ここら辺は勢いというか、お約束というか、色んな意味で必要だから!」と言って却下した。
「意味が分からない」と言われてしまったけど、正直、わたしもよく分からないけど、世の中、そういうものなのだ!(?)
サクサクと進めていく。
途中、焼き芋を焼いてお昼休憩(妖精ちゃん達には果物を配る)をしたりしたけど、なかなかの勢いで食料が積まれていった。
これには、イメルダちゃんに「サリーさんって、やっぱり、とんでも無いわね」というお言葉を頂いてしまった。
どうやら、フェンリルチートで、わたし、すげぇぇぇ! をしてしまったようだ。
なんて、ノリノリで育てまくっていると、何かが我が国に近づいてくる気配を感じる。
視線を向けると、蟻さんだった。
イメルダちゃんも気づいたようで、「今日は何の種かしら」とちょっと、期待した感じに声を漏らしている。
それにしても、蟻さん……。
食料を作っている時にやってくるとは、なかなか、抜け目ないなぁ~
何て思っていると、後続の蟻さん達が何かを運んでいるのに気づいた。
え?
兵隊蜂さん!?
普段、巨大蜂さん家を守るために、力強く飛び回っていた、あの兵隊蜂さんが何故か、蟻さんの、あたかも冬ごもり用の餌のごとく運ばれていた。
いや、自然の摂理というか、食物連鎖というべきか、生まれた者はいずれ死んでいくと言うべきか、そういうのは当たり前なのかもしれない。
だけど、短い間だったとはいえ、交流のあった人……じゃなく、蜂さんが、あんな食料として運ばれていくのは……。
何というか、すごく切ない。
そんな、センチメンタルな気持ちになっているわたしのそばまで来た蟻さんは、カチカチカチと顎を鳴らしながら、前足を差し出してきた。
その上には、種があった。
……。
いやね、蟻さんに”それ”を求めるのは筋違いかもしれないけどね。
でも、何というか――何かしらあっても良くない?
ただ、そんなわたしの心中など気にする様子もなく、蟻さんは、早く早く! と急かすように、前足を振っている。
はいはい、冬ごもりの準備で忙しいんでしょうね!
分かりましたよ!
わたしは結界の外に出ると、蟻さんから種を受け取る。
そして、最後の挨拶として、兵隊蜂さんの屈強な鎧を撫でてあげる。
兵隊蜂さんはとても死んでいるとは思えない、いつも通りの姿に見えた。
それは、わたしの願望がそのように見せているのかもしれない。
一見すると、今にも動き出しそうに思えた。
でも、そのようなことはあり得ないのだ。
新たに作った巣を、女王さんや仲間達を、守るその雄姿は――もう二度と見ることが出来ないのだ。
目元が少し痛くなり、涙が溢れてくるのを感じた。
「兵隊蜂さん……」ゆっくり休んで、と続けようとした。
だけど、わたしの声に兵隊蜂さんがこちらを向き”ども”っていうように、前足を動かした。
えっ!?
わたしも驚いたけど、運んでいる蟻さん達はもっと驚いたのか、わっ! っていう感じに逃げていき、兵隊蜂さんは地面に落っこちた。
……えぇ~
……。
……。
寝転がったままの兵隊蜂さんの身振り手振りを要約すると、必死に蜜を準備したけどその量は全員が冬籠もりをする量には心許なく、自主的に巣を出たとのこと。
そういえば、前世のミツバチも、冬が来ると雄は巣から出されるって聞いたことがあるから、この兵隊蜂さんの行動は順当なのかも知れない。
でもなぁ~このままだと遅かれ早かれ、死んじゃうのは確実なんだよね。
こんなことを言うと、自分でも偽善と思えちゃうし、ママとかに聞かれたら怒られそうだけど……。
出来ればこの兵隊蜂さんを助けてあげたいなぁ。
このまま、寒い冬を迎えて、一匹、寂しく飢え死にか凍死なんて、ちょっと可哀想だ。
あと、つい先ほど気づいたんだけど、木々の奥の隙間から、女王蜂さんとか働き蜂さん、若手(?)な兵隊蜂さんが心配そうにこちらを覗いてた。
そんなのを見てるとねぇ~
なんとかして上げたくなるってものだ。
前世のミツバチと同じであれば、蜂さん達の冬籠もり中の食料は蜂蜜である。
ただ、養蜂所では、十分な蜜を集められなかった巣に対して、砂糖を代わりに与える――そんな話をWeb小説で読んだ気がする。
そう考えれば、巨大蜂さん達にも砂糖を与えれば良い――という事になる。
とはいえ現状、砂糖を生産する術がないので、町で買ってくるしか無いんだけど……。
目立つなと言われているのに、高額の砂糖を大量に購入するのは……ね。
まあ、最悪そうするにしても、何か良い手は無いかなぁ。
砂糖、糖、ブドウ糖……。
ブドウ糖とかは代わりにならないかな?
ブドウ糖はデンプンから作れるんだっけ……。
う~ん、作ったこと無いなぁ。
あ、メープルシロップを探すってのはどうかな?
それなら、何とか代わりになるか。
でも、どういう木から出てくるのか、よく分かんない。
イチョウの木だっけ?
カエデの木だっけ?
う~ん……。
などと、兵隊蜂さんの側でしゃがみつつ真剣に考えていると、横から腕を突っつかれる。
蟻さんだった。
多分代表者だろう一匹が、横たわったままの兵隊蜂さんをチラチラ見つつ、わたしに前足を伸ばしてきた。
その上には種があった。
まったく蟻さんは……。
そこでふと、蟻さんを見上げつつ訊ねてみる。
「蟻さん達は冬籠もり用の食料は大丈夫なの?」
途端、何やら上機嫌に身振り手振りをする。
え?
わたしのお陰でかなり余裕がある?
でも、食べ物の山を作るのが好きだから、今も集めてる?
なんか、成金ぽい!
すると、先ほどまで穏やかに死を受け入れる聖人のような雰囲気だった兵隊蜂さん――その尾がすぅーっと蟻さんに向く。
「止めなさい!」
わたしはその尾の向きを戻す。
「いや、そんな不満そうな顔をしないの!
蟻さん達だって、一生懸命集めたんだから!」
などと、宥めているのに、蟻さんが種を持つ前足で肩を叩いてくる。
はいはいはいはい、分かりました。
「もう、蟻さん、そういう所だよ!」
などと言いながら、種を地面に落とす。
すると、近衛騎士妖精ちゃんがわたしの袖を引っ張る。
え?
結界の中で?
ああ、いつもならそうしてるけど、面倒くさくなって外でやっていた。
中に入ると、何故か妖精姫ちゃんを始めとして妖精ちゃん達が揃っていた。
え?
何?
何やら、皆、緊迫した顔になっているけど、何なの?
「どうしたの? これ」などとイメルダちゃんも困惑顔で妖精ちゃん達を見ている。
そう言われても、よく分かんない。
困惑しつつ、地面に穴を開け、そこに埋める。
そして、白いモクモクを覆い、唱える。
「育てぇ!」
……あ。
ああ……。
こ、これは……。
ニョキニョキと育つそれを見て、わたしは気づいてしまう。
妖精ちゃん達も分かっているのか、その上空をクルクル回っている。
わたしのほっぺに妖精姫ちゃんが、ぎゅっとくっついてきた。
性懲りも無く、蟻さんに尾を向けている兵隊蜂さんに
「へ、兵隊蜂さん!
蟻さんにごめんなさいとありがとうを言って!」
と指示する。
え? 何? って顔で兵隊蜂さんはこちらを向くけど、仕方が無い!
声がうわずっているのも、仕方が無い!
ただならぬ気配に、イメルダちゃんが「どうしたの?」と困惑しながら訊ねてくる。
わたしは震えるのを必死に押さえながら収穫をする。
そして、それを持ち上げながら叫んだ!
『砂糖大根来たぁぁぁ!』
うぁおぉぉぉん! という声が空に昇り、それを追うように満面笑みの妖精ちゃん達がクルクル回りつつ上昇していった。
応援ありがとうございます!
35
お気に入りに追加
1,345
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる