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第八章

窓ガラスを買いに行こう!

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 ニョキニョキと育っていき――おおお!
 キャベツじゃない!
 キャベツじゃないけど、これは!

 トウモロコシだ!

 凄い凄い!
 大喜びしていると、「なにをやっているの?」と後ろから声がかかる。
 振り向くと、家の前からイメルダちゃんがこちらに向かってくる所だった。
 もちろん、近衛騎士妖精ちゃん達が護衛としてそばを飛んでいる。
「見てみて!
 伝説のトウモロコシだよ!」
「伝説って何よ……」
とあきれ顔のイメルダちゃんだったけど、近くまで来て、トウモロコシを眺めながら、「これがトウモロコシなのね。生えているの初めて見たわ」とちょっと嬉しそうだった。

――

 トウモロコシを沢山育てて、蟻さんに渡す。
 蟻さん、それを抱えて嬉しそうに帰って行った。
 勿論、我がの分も収穫し、持って帰ろうとしたんだけど……。

 イメルダちゃんにパセリを見つかってしまった!

 正直、忘れたことにしてスルーしようと思っていたのにぃ~
 しかも、勘の良いイメルダちゃんに「……サリーさん、パセリが嫌いなの?」と言われてしまい、「そそそんなこと無いよぉ~」と目を泳がせてしまった。
 なので、結局、収穫されてしまった。
 しかも、「ちゃんと、次も収穫できるようにして!」と釘を刺されてしまった。

 ショックだ……。

 SRクラスなトウモロコシの分も、Nクラスなパセリに相殺された感じだ。
 いや、パセリだって有り難いと思わなくてはならないんだろうけど……。
 そんなことはともかくだ。

 早速、シルク婦人さんにトウモロコシを茹でて貰う。

 シルク婦人さん、トウモロコシの調理法が分かっているのか、サクサクと皮を剥いていく。
 わたしもそのお手伝いをする。
 ん?
 一枚残すの?
 了解!
 水を沸かせていた鍋の中に塩を入れ、そこに、トウモロコシを投入する。
 鍋に蓋をするシルク婦人さんに「手慣れているね」と訊ねたら、「先代のお嬢様」とボソリと言った。

 先代のお嬢様がトウモロコシが好きだったって事かな?
 もうちょっと、言葉を増やして欲しい……。

 そうこうしていると、茹であがったのか、鍋を竈から流し台に移動させる。
 一応、一抱えで持てるサイズとはいえ、お湯、トウモロコシ入りの鍋を軽々と持っている。
 シルク婦人さん、小柄でほっそりしてるのに、結構な力持ちさんだ!
「それ、完成?」と訊ねると、シルク婦人さんは首を横に振る。

 しばらく、置いておくのかな?

 パンを焼いたりしていると、朝ご飯を作っていたシルク婦人さんが鍋の蓋を開けた。
 そして、トウモロコシを一本取り出す。
 どれどれと、近づく間にもシルク婦人さんは皮を剥く。
 鮮やかな黄色い粒が露わになった!
 前世で良く見たものと一見すると違いがないように見える。
「シルク婦人さん、それを味見用に切って!
 これぐらいで!」
 指で五センチぐらいを指示すると、シルク婦人さんが包丁で切って渡してくれる。
 それを受け取り、どれどれ、毒味という名の味見をば……。

 歯で粒をプチプチ潰すと、甘みが口一杯に溢れ出てきて美味しいぃ~!

 シルク婦人さんも小さく切った物を口に入れて、コクコクと頷いていた。
 茹でたトウモロコシも良いけど、焼きトウモロコシも食べたいなぁ。
 あ、でも、醤油が無いか……。
 トウモロコシ、トウモロコシ……。
 あ、そうだ!
「コーンスープを作ってみるかな?」
 わたしの呟きに、シルク婦人さんが視線を向けてきた。
「シルク婦人さん、コーンスープ作れる?」
と訊ねてみるも、首を横に振られる。
 そうなると、Web小説の知識しだいか……。
 あ、でもバターが無い……。
「シルク婦人さん、バターは作れる?」
 訊ねたけど、再度、首を横に振られた。
 この世界にはバターがないのかな?
 バター……。
 パンも作ったし、まずはバターに挑戦してみようかな?
 その後、コーンスープか。
「どうせ、冬ごもりの間は暇になるんだし、その辺りを挑戦してみようかな?」
と呟くと、シルク婦人さんがコクコクと何度も頷く。
 ん?
 なんだか、少し、食い気味だなぁ。
 しかも、「楽しみにしてます」とか言われちゃった。
 シルク婦人さん、コーンスープに興味があるのかな?
「出来るかどうか、分からないからね」
と一応、釘を差しておいた。
 正直、前世の――しかも、Web小説の知識だから、あやふやなのだ。
 パンとかも失敗しつつ、エルフのお姉さんの助力で何とかかんとか形にしたものだし。
 だけど、分かっているのかなんなのか、シルク婦人さん、無表情な顔でコクリと頷いた。

 出来なくっても、怒らないでよね。

――

 トウモロコシが大好評だった朝食も終わり、町に行く準備をする。

 物作り妖精のおじいちゃんにガラスのサイズが分かるように作って貰った木の枠とお金を荷車に乗せる。
 見送りに出てくれた皆に手を振り、出発だ!
 今日は冒険者組合に持って行く獲物が無い。
 弱クマさん辺りを見かけたら、狩っておこうかな?
 いや、肉もお金もそれなりに貯まっているし、要らないか。
 なんて思いつつ走っていると、川を越えた辺りで白狼君達が十匹、併走してきた。

 この子達はもう……。

 わたしのそばにいれば、食べ物にありつけるとか考えているんだろうなぁ。
 呆れつつも、そのまま走る。
 今回はイメルダちゃんがいない。
 だから、そこそこの速度で走っているからか、主力っぽい白狼君しか付いてこないようだ。
 しばらく行くと、前方左側になにやら集団で駆ける音が聞こえる。
 あれは……水牛?

 前世の水牛っぽい群れが、二百頭ほど走っているのが見えた。

 あれも、魔獣なんだろう。
 ……まあ、今はどうでもいいかな?
 相手は魔獣とはいえ草食だからこちらを襲う理由なんてないだろうし、わたしも今は狩に出ているわけでもない。
 このまま行けば、交差することなく通り過ぎることになるだろう。

 すると、白狼君のリーダーっぽい彼が、こちらをチラチラ見てくる。

 いや、狩って欲しいんだろうけど、わたしは町に行くだけだからね!
 お肉は正直、結構な量が貯め込まれているから、いらないからね!
『狩らないわよ!』
 ガウガウと言うと、皆、何となくがっかりした感じになった。

 いや、知らないから!
 君たち、勝手にわたしに付いてきているだけだから!

 なんてやりとりをしていると、え? なんか、水牛君の一部がこちらに向かって来る!
 十頭ほどの先頭には、一回りほど大きな水牛君がいて、どことなく、ニヤリとした顔に見えた。

 はぁ?

 からかい半分で向かってきてるのかな?
 舐めてるなぁ。
 後ろの水牛君達もどことなく、不遜な表情をしている感じがした。
 ちょっとイラってしたので、その場に止まる。

 そして、荷車の持ち手をジャンプして越えると、駆けた。

 目の前に来ても、ろくな反応ができない水牛君の――その眉間に拳を叩き込む。
 ゴキっという音とともに首を変な角度で曲げながら吹っ飛ぶ水牛君と――それに巻き込まれた後続君達は駆けた勢いのままわたしの斜め後方に落ちていく。
 弱いし軽い!

 今、じゃくシリーズに君たちの名も加わったよ!
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