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第四章

鶏ゲット!

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 木を倒し終えると、それを結界内に入れる。
 すると、近衛騎士妖精君達が飛んできた。
 え?
 お手伝いしてくれるの?
 助かる!
 枝を払いつつ、木を結界内に入れていると、近衛騎士妖精君達が空き地に運んでくれる。
 近衛騎士妖精君、大木一本を一人で軽々と運んでる。
 ちっちゃいのに凄い!
 ……あ、女の子の近衛騎士妖精もいるんだ。
 強そうで可愛い!
 そんなことを思いながらも、サクサクと作業をしていると、森の奥から何かが近づいてくる気配を感じた。

 視線を向けると、真っ赤な羽の鶏が十羽ほど歩いてくるのが見えた。

 名古屋コーチンが巨大になったような鶏さんで、先頭に立つ雄には立派な鶏冠がある。
 その後ろには雌らしき鶏さんが続いていた。
 この鳥、下のお兄ちゃんの大好物で、見つけると躍起になって追いかけていたなぁ。
 ただこの鶏さん、伊達に野生の森を生き抜いてはいない。
 とにかくすばしっこいのだ。
 前世の鶏同様ろくに飛べないのだが、代わりに駆ける速度が凄く速い。
 そして、小回りも効く。
 体を低くして木々をすり抜けるように走るものだから、巨躯のフェンリルたる下のお兄ちゃんだと、捕らえるのは大変そうだった。
 一瞬、狩ろうかとも思ったけど、よく考えたらケルちゃんとわたしでは一冬のうちに食べきれないであろうお肉が冷凍室に積まれているので、止めておくことにした。

 無為な殺生は自粛自粛っと。

 作業をしていると、雄の鶏さんが何やら結界内をじぃーっと眺め始めた。
 その視線を追うと、大麦が実っていた。
 ああ、そういえば大麦を育ててそのままにしてたなぁ。
 大麦と言えば、麦ご飯、ピラフ、パスタ……。
 パンの場合、堅いんだっけ?
 小麦もあるし、本当は米の方が有り難いけど……。
 まあ、冬ごもりの事もあるし、ある程度収穫しておこうかな。
 何て考えていると、突然、雄の鶏さんが結界に向かって体当たりをした。
 当然、鶏さん程度でどうこうなる結界ではないので、ただ激突し、跳ね返りながらぶっ倒れる。
 雌の鶏さん達が慌てて駆け寄っている。
 一見すると間抜けだけれど、結界の存在が分からないのだから致し方がない。
 というより、いきなり何故入ろうとしたのかな?

 大麦狙いかな?

 そういえば、前世で大麦は家畜の餌とか読んだ記憶があるから、鶏さんに取ってはご馳走なのかもしれない。
 などと考えつつ、枝を払った大木を結界の中に入れる。
 あと半分ぐらいかな?
 頑張ろう!

 突然、背中に軽い衝撃を感じた。

 え? 何?
 振り向くと、雄の鶏さんがわたしの背中を足蹴にしていた。
 はぁ?
 何?
 すると、足を下ろした雄の鶏さんが羽で大麦を指しながらジェスチャーをする。
 どうやら、結界には入れるわたしに、大麦を取ってこいと言っているようだ。

 ……はぁ?

 何で、フェンリルの娘たるわたしが、こんな鶏ごときに顎で使われなきゃならんの?
 わたしの怒気と強さを今更ながらに気づいたのか、雄の鶏さんは全身をビクッと振るわした後、後ずさる。
 でも、許さない。
 晩ご飯は、鶏肉のリゾットにけって~い!
 雄の鶏さんは振り向くと、凄まじい速度で逃走する。
 雌の鶏さんもそれに続く。
 わたしはそれを見てニヤリと笑った。
 右足で地面を蹴る。
 タンタンと左、右の木の幹を蹴り、雄の鶏さんの前に立った。
 まさか追いつかれるとは思っていなかったのか、つんのめりながら急ブレーキをかける雄の鶏さん、および雌の鶏さん達――慌てて左に逃げるも、わたしは即、その前に立つ。
 下のお兄ちゃんほど巨躯ならともかく、鶏さんより小さいわたしに小回り勝負など、笑止千万だ。
 止まりきれず、わたしに突っ込んでくる雄の鶏さんの首根っこを掴むと、顔面を地面に叩き付けた。
 そして、その後ろにいた雌の鶏さん達をギロリと睨んで牽制する。

 恐慌状態になった雌の鶏さん達は、転がるように逃げていった。

 ハーレム崩壊、ざまぁ~! ってやつかな。
 雄の鶏さんは必死に暴れるが、わたしの手からは逃れられない。
 明らかに体格的に勝っている彼が、わたしの手を振り払えないのは、右手に魔力を圧縮させ、重量を持たせているからだ。
 白いモクモク刀に重さを持たせたのと同じ原理だ。

 これは、ママから念入りに教わった。

 人間のみで、自分の体を遙かに上回る魔獣を相手にする時に、必ず必要だからといってだ。
 これのお陰で、五十キロ程度のわたしが一トン近くはありそうな弱クマさんを一発で蹴り殺すことが出来るのだ。
「コケーッ! コケーッ!」と惨めったらしく泣きわめく雄の鶏さん、ごめんね。
 普通の女の子だったら、助けちゃうかも知れないけど、わたし、狩人なの。
 ママにはキツく言い聞かされてきたし、何より、あなた、美味しそうだもの……。
 うふふ……。
 などと、ちょっと悦っていたのが良くなかったのか、心の隙を突くように、何かが目の前にぶつかってきた。
 反射的に左手で防ぎ、叩き落としたけど、右手が少し緩んだのか、雄の鶏さんの首がスルッと抜けた。
 そして、素早く逃げていく。
「あっ!?
 この――」
 追おうとしたが、再度、顔面に何かがぶつかってくる。
「鬱陶しい!」
 左手で”それ”を掴み、地面に叩き付けてから、視線を戻した。
 しかし、雄の鶏さんの姿は、どこにもなかった。
『くそぉぉぉ!』
 わたしは悔しさの余り、わうぉぉぉぉん! と声を上げた。
 せめて、鶏冠を引きちぎってやりたかった。
 くやしぃぃぃ!
 などとやっていると、近衛騎士妖精君達が慌てて近寄ってきた。
 そして、心配そうにこちらをのぞき込んでくる。
 あ、ごめん。
 大丈夫大丈夫!
 などと手を振ろうと、その左手が雌の鶏さんを持っているのに気づいた。
 心なしか、涙目でガクガク震えている。
 え、嘘!?
 この鶏さん、あれを命がけで守ったの!?
 っていうか、あの雄の鶏さん、命を助けて貰っておいて、一度も振り返ることなく逃げていったけど!?
 ……。
 ……。
 ……いや、流石にこの鶏さんは食べられないか。
 でも、捕まえた獲物を意味も無く逃がすっていうのは……。
 あ、卵とか産むのかな?
 取りあえず、首根っこを掴んだ状態で結界の中に入れる。
 すると、ケルちゃんが駆けてきた。
 ケルちゃん、これはご飯じゃないからね。
 分かってる?
 ちょ、レフちゃん、舐めるのも止めてあげて!
 固まってるから!
 死にそうな顔で固まってるから!
 一応、逃げないように白いモクモクで掴んだ状態で、わたしは大麦の所に向かう。
 そして、一本ちぎると鶏さんの足下に置いてあげる。
 ケルちゃんに怯えてぷるぷるしていた鶏さんだったが、それを追うように首を下ろして、突っつく。
 どうやらお気に召したようで、「コッコ! コッコ!」と鳴きながら突っつく。
 そして、食べ終えたのか、上目遣い気味にこちらを見る。
 ハイハイ、お代わりね。
 わたしは植物成長魔法を繰り返しつつ、実った大麦を何本か放った。
 それを、雌の鶏さんは嬉しそうに食べる食べる。
 満腹になると、わたしの足にすり寄ってきた。
 懐いたらしい、チョロい!
 いや、それだけ森の暮らしが過酷って事かな。
 何て考えていると、妖精姫ちゃんが飛んできた。
 え?
 何?
 ついて行けば良いの?
 ついて行くと、前に育てた公園やマンションにありそうな例の木(?)の所にたどり着いた。
 十人ぐらいの妖精さんがその上を飛び回り、何故かそれの葉っぱをちぎっていた。
 え?
 何やってるの?
 それを、乾燥?
 そこで、わたしはピンとくる。
 ひょっとして、この木ってお茶の木なの?
 そうなると、妖精姫ちゃんはお茶――洋風な世界だから紅茶かな? それを作ろうとしてるのかな?
 わたしは妖精姫ちゃんの言う通りに白いモクモクで、乾燥したり潰したりを繰り返した。
 お!
 葉っぱが褐色になってきた。
 これは、期待できるかな!?
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