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第四章

弱クマさん狩りをしてると……。

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 朝、起きた!
 今日は弱クマさん狩り、および、王妃様ケーキを購入する日だ!
 昨日、ケーキ屋のおじさんにも買いに行くと宣言したし、おじさんもニコニコしながら作り置きしておいてくれるって約束してくれたし、頑張るぞ!
 朝ご飯、ケルちゃんの黒い毛をモフモフした後、家を出る。
 ん?
 結界の外に蟻さん達が来てた。
 近づいてみる。
 種を持ってきたの?
 え?
 無い?
 にもかかわらず、物欲しそう(推測)な顔でオレンジやスモモの木を眺める。
 う~ん。
 オレンジとか、蟻さんが持ってこなければ食べられなかったし、分けてあげても良いんだけど、それを毎回するのも健全じゃない気もする。
 でも、種なんてそんなに都合良く見つかる物じゃ無いかも。
 そんなことを考えていると、足をツンツンされる。
「ん?
 物作りおじいちゃん、なあに?
 え?
 何これ?」
 物作り妖精のおじいちゃんが赤茶けた石をわたしに差し出してくる。
「え?
 何?
 蟻さんにこれを持ってきて貰うの?」
 物作り妖精さんの一人が、何故か家から昨日買ってきたばかりのフライパンを持ってくる。
「この石で、これが出来る?
 え、これ鉄鉱石なの?」
 蟻さんに結界越しから渡してみる。
 ……え?
 見たことあるの?
 種より難しくない?
 何やら、自信ありげに胸(?)を張っていたので、オレンジとスモモを少し与えて応援することに。
 でもまあ、正直、金属類は町で買えば良い気も……。
 え?!
 文句!?
 無いです!
 無いです!
 期待してます!
 期待してますよ!
 え、石が来る前に製鉄する場所を作る?
 それって、無茶苦茶大がかりな事になるんじゃ……。
 ちょ!
 分かった!
 分かったから、下からスカートを引っ張らないで!
 脱げちゃうから!
 ハイハイ、分かりました!
 分かりましたから!
 でも、町から帰ってきたらね。
 うんうん、約束ね!

 早速出かけようかと、昨夜、荷車を置いた場所に視線を向けると……なかった!
 え!?
 どこ!?
 え、ああ、以前作ってくれた物置きにしまってくれたんだね。
 移動すると、物置の中に荷車が仕舞われていた。
 ここなら、雨に降られても痛んだりせずに済むね。
 あれ? この荷車、何かキラキラした石が付いていてオシャレになってるんだけど!?
 これを付ければ荷車の強度が上がる!?
 多少乱暴に扱っても大丈夫!?
 凄ぉ~い!

 嬉しくて、物作り妖精のおじいちゃんを抱き上げて、ギュッとした!

 物作り妖精のおじいちゃん、ちょっと照れてた。
 可愛い!
 え、製鉄の件、頼んだぞ?
 了解!

 出かける前に一つやることがあった!
 赤鷲の団のアナさんに渡すために、綿花を育てる。

 やはりというか、妖精ちゃん達に花壇から遠くでやるよう指示を出された。
 う~ん、森を開拓して花以外を育てる場所を作った方がよいのかな?
 そんなことを考えつつ、「育てぇ~!」をする。
 ニョキニョキと育ち、ポンポンと綿わたが出来た!
 生まれた種も使って、ポンポン作っていく。
 結構多くなったので、一旦、家に運ぶ。
 あ、手芸妖精のおばあちゃん達が集まってきた。
 クッションとか、これで作ってくれる?
 問題ない?
 ありがとう!
 二回ほど渡した後、赤鷲の団のアナさん用に袋詰めをする。
 綿わたを詰め込んだそれは、わたしの上半身が隠れるぐらいパンパンに膨れる。
 喜んでくれるかな?

――

 綿わたを詰め込んだ袋を荷車に乗せて、出発する。
 といっても、まずは弱クマさんを探さなくては。
 荷車をゴロゴロ引きながら、きょろきょろ辺りを窺う。
 う~ん、どうでも良い時は鬱陶しいほどうろうろしているのに、肝心な時は見つからない。
 せっかくだから、水兵さんみたいにセーラー服の襟を使って音を集めてみよう。
 わたしは手近の木に登り、襟を立ててみる。
 ……。
 ……。
 ……ん?
 セーラー服のお陰か、たまたまなのか分からないけど、何やら争うような音が聞こえる。

 この雑な音――弱クマさんだ!(偏見)

 飛び降りると、荷車を引きながらそちらに向かう。
 弱クマさんが巨大な蜂の巣に取り付き、蜂蜜や幼虫をむさぼり食べていた。
 もう、蜂蜜まみれでテカテカしてるのに、気にせずに凄い勢いだ。
 壊れた蜂の巣の大きさはわたしの家の二倍ぐらい――ここまで大きいと恐らく巨大蜂さんだと思うんだけど……。
 あ!
 あれ、女王蜂さんかな?
 頭から血を流している一メートルぐらいのハチさんが、気を失っているようでぐったりしている。
 それを、弱クマさんが前足で捕まえようとしている。
 弱クマさんがニヤリと笑った気がした。

 ……。

 女王蜂さんの頭を囓ろうとする弱クマさん――その頭に後ろからキックを食らわせた。

 うわぁ~足が蜂蜜でベッタリ。
 でもまあ、弱クマさんをゲットした!
 ついでに、意識を失っている女王蜂さんを回復してあげた。

 しかし、毛皮とかここまでベッタベタだと、荷車が酷いことになるなぁ。
 わたしは一旦、白いモクモクを桶代わりに、ゴシゴシ洗う。
 ……あまり洗えている感じがしないけど、仕方が無い。
 次に、弱クマさんの血抜きをする。
 冒険者組合でも推奨されたしね。

 それにしても……。

 兵隊蜂さんはどうしたんだろう?
 巨大蜂さんは大まかに分類すると女王蜂さん、働き蜂さん、そして、兵隊蜂さん(雄蜂さん)に分けられる。
 その中の兵隊蜂さんは戦闘特化のハチさんだ。
 もちろん、魔虫に分類される彼らだが、それほど強くは無い。
 一度、理由は分からないけど、三十匹ほどの兵隊蜂さんに襲われそうになったことがある。
 その時なんて、大きいクー兄ちゃんがフーッと息を吹きかけたら遠くまで吹っ飛んで行っちゃった。
 それでも、一匹あたりの強さは弱クマさんぐらいは有ったと思うから、そう簡単にはやられないと思うけどなぁ。
 何て思っていると、弱クマさんにやられたであろう十センチほどの働き蜂さんの死骸に混ざって、五十センチぐらいの大きなハチさんが転がっているのが見えた。
 あ、兵隊蜂さんだ!
 普通のハチさんとは違って、上半身がカブトムシとかみたいな甲殻に覆われているからすぐ分かる。
 だけど、自慢の甲殻もバキバキに割れていて痛々しかった。
 弱クマさんにやられたのかな?
 でも、弱クマさん程度で、ここまで出来るかなぁ。
 あれ、生きてるハチさんもいる。
 ……ふむ。
 わたしは血抜きの間に、働き蜂さんも含めて白いモクモクに包み、回復してあげることにした。

 実は巨大蜂さんに関していえば、むやみに助けることを嫌うママからも、出来るだけ救ってあげるように、と言われているのだ。

 巨大蜂さんはその存在だけで、森を活性化させる事が出来るのだとか。
 ママは色々話してくれた。
 ……よく分からなかったけど、まあ、凄く熱心に言っていたから、その通りなのだろう。
 あと、お姉ちゃんからも、絶対に助けてあげるように頼まれていた。
 お姉ちゃんはママと違って、巨大蜂さんの蜂蜜狙いだろうけど。
 そういえば、独立したら巨大蜂さんを飼育して、蜂蜜を大量に献上させるって、目をキラキラさせていたけど、どうなったのかな?
『あなたもそうしなさい!』とか言われていたけど、飼育とか難しそうだし、下手をして死なせちゃったりしたら寝覚めが悪いから、わたしはやらないけどね。

 あ、女王蜂さんが目を覚ました。

 女王蜂さんは触角と複眼だけど、比較的人型に近い格好をしている。
 辺りを見渡してこちらを見る。
 一瞬、警戒するように硬直したけど、血抜き中の弱クマさんを見て、ポカンとした顔になっている。
 そんな彼女の側に、回復済みのハチさん達を置いてあげた。
 慌てたように、様子を見ている。
 生きているハチさんは兵隊蜂さんが二匹に働きハチさん二十匹、ほぼ壊滅に近いけど、立て直すのに絶望と言うほどでも無い。
 よし、血抜きはこれぐらいでいいかな?
 弱クマさんを荷台に乗せる。
 町に向けて出発進行だ!
 ん?
 どうしたの、女王蜂さん?
 え?
 お礼?
 いいよいいよ、これから大変だろうし……。
 え?
 蜂蜜?
 お、お気遣い無く……。

 蜂蜜は好物で、特に巨大バチさんのものは凄く大好きだったんだけど……。
 今は考えないことにしていた。
 だって、その蜂蜜、ハチさんのぐちゃぐちゃに散らばった死骸に浸された物だから……。
 少なくとも、今のそれは舐めたいとは思わない……。

 わたしは大きく手を振ってから、逃げるように荷車を引き、町に向かった。
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