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第1話
幕間
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「爺様、ヒュペルです」
「うむ、よいぞ」
陽も落ちて闇に空が覆われた頃、人気も失せた夜半に村の長役を務める者の家に、ヒュペルがやってくる。
事前に呼ばれていた、あるいは話をすることが決められていたのか、寝静まった中でのやりとりはスムーズだった。
物音をなるべく立てずに扉を開け、室内に入ると老猫が敷物の上に腰を下ろしている。
ヒュペルが近づき、頭を下げてからゆっくり腰を落としてから会話は始まった。
「ヒューイのことですが、確かなのですか?」
「何じゃ、お前まで疑っておったのか?」
「いえっそうではなく、確認はする必要があるかと思いましたので。 ゼンブルの話は全く当てになりませんから」
神妙なヒュペルに、爺様は意外といった顔を浮かべるも、犬は疑ったわけではないと弁明する。
しかし父として思うのは、ヒューイはどことなく流されやすい性格をしているため、言われたから動いているだけではないかという懸念があった。
間違いないと断言し、獲物を持ってダイチをこの世から抹消しようとする血の涙を流していた番いを、物理的に黙らせてヒュペルはここに来ている。
爺様の言う事ならばと信じてはいるものの、やはり一番の気がかりは番い候補になった人そのものだった。
「それにしても、あの子はどこで彼を見つけてきたのです?」
「失意の森の中層じゃ」
「……はっ? あそこでこの村の者以外に会えたと!?」
「しかも、魔物を討伐して返り血を浴び、鼻が効かなくなっているときにだ。 ここまで言えば分かるな?」
「ええっ、それは否定できないだけの説得力がありますね。 そうか、あの子にも見つかったのか……」
詳しい経緯を知らされていなかったのか、ヒュペルは爺様の言葉に耳を疑うも、すぐに納得し安堵した顔をする。
親としての愛情が滲み出し、運命の相手を見つけられたのかと心の底から祝福していた。
「さて、そろそろ本題に入るとしよう」
「ええっ」
「二人の婚儀用の衣装、それからヒューイの住まいを増改築せねばならん。 あぁ料理もそうじゃな、一頻り獣を狩らねばならぬか。 ダイチ様の仕事についても考えなくてはならぬが、 恐らく力仕事には向いておらんだろうし」
「やることが目白押しですね! あぁワクワクしてきたぞ!」
「だが、まず二人には初夜を迎えてもらわねば。 先ほどの用意については、また任せても良いか?」
「もちろんです! この日を夢見て腕を磨いてきたんです、家だろうと家具だろうと衣装だろうと料理だろうと、作ってやりますよ!」
「全く、お前の手先の器用さには脱帽させられるわい」
「それで爺様、今すぐ欲しい素材としては――」
前置きは終わったとばかりに、爺様とヒュペルがすっと顔を見合うと、今後についての話し合いをする。
ダイチのことなど捨て置くように、ヒューイとの生活を想定した諸々の準備が押し進められるのであった。
それはまるで最悪の結果になるなど思ってもいないように、朝方まで念入りに打ち合わせをするのだった。
「うむ、よいぞ」
陽も落ちて闇に空が覆われた頃、人気も失せた夜半に村の長役を務める者の家に、ヒュペルがやってくる。
事前に呼ばれていた、あるいは話をすることが決められていたのか、寝静まった中でのやりとりはスムーズだった。
物音をなるべく立てずに扉を開け、室内に入ると老猫が敷物の上に腰を下ろしている。
ヒュペルが近づき、頭を下げてからゆっくり腰を落としてから会話は始まった。
「ヒューイのことですが、確かなのですか?」
「何じゃ、お前まで疑っておったのか?」
「いえっそうではなく、確認はする必要があるかと思いましたので。 ゼンブルの話は全く当てになりませんから」
神妙なヒュペルに、爺様は意外といった顔を浮かべるも、犬は疑ったわけではないと弁明する。
しかし父として思うのは、ヒューイはどことなく流されやすい性格をしているため、言われたから動いているだけではないかという懸念があった。
間違いないと断言し、獲物を持ってダイチをこの世から抹消しようとする血の涙を流していた番いを、物理的に黙らせてヒュペルはここに来ている。
爺様の言う事ならばと信じてはいるものの、やはり一番の気がかりは番い候補になった人そのものだった。
「それにしても、あの子はどこで彼を見つけてきたのです?」
「失意の森の中層じゃ」
「……はっ? あそこでこの村の者以外に会えたと!?」
「しかも、魔物を討伐して返り血を浴び、鼻が効かなくなっているときにだ。 ここまで言えば分かるな?」
「ええっ、それは否定できないだけの説得力がありますね。 そうか、あの子にも見つかったのか……」
詳しい経緯を知らされていなかったのか、ヒュペルは爺様の言葉に耳を疑うも、すぐに納得し安堵した顔をする。
親としての愛情が滲み出し、運命の相手を見つけられたのかと心の底から祝福していた。
「さて、そろそろ本題に入るとしよう」
「ええっ」
「二人の婚儀用の衣装、それからヒューイの住まいを増改築せねばならん。 あぁ料理もそうじゃな、一頻り獣を狩らねばならぬか。 ダイチ様の仕事についても考えなくてはならぬが、 恐らく力仕事には向いておらんだろうし」
「やることが目白押しですね! あぁワクワクしてきたぞ!」
「だが、まず二人には初夜を迎えてもらわねば。 先ほどの用意については、また任せても良いか?」
「もちろんです! この日を夢見て腕を磨いてきたんです、家だろうと家具だろうと衣装だろうと料理だろうと、作ってやりますよ!」
「全く、お前の手先の器用さには脱帽させられるわい」
「それで爺様、今すぐ欲しい素材としては――」
前置きは終わったとばかりに、爺様とヒュペルがすっと顔を見合うと、今後についての話し合いをする。
ダイチのことなど捨て置くように、ヒューイとの生活を想定した諸々の準備が押し進められるのであった。
それはまるで最悪の結果になるなど思ってもいないように、朝方まで念入りに打ち合わせをするのだった。
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