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25話
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「せんせい。わたくし、たびにでることをいってませんよね?どうやって、しったのですか?」
「ふっふっふ、それはですね。昨日、侯爵様から留守にするので講師の仕事は休みと仰せつかりました。その事を自宅に戻り、父に告げたところ、理由を教えてくださいました。【宰相様は休暇をとり、娘である『ルイーズ様』と旅に出るため、陛下秘蔵の馬車をお借りしていた】とね。それで、私は考えたのですよ。一目でいいから、陛下秘蔵の馬車を見てみたい……ふぅ…………秘蔵ですよ。まさか、乗せていただけるなんて……なんて幸運なのでしょう………本当は声をおかけして、お話ついでに少し中を拝見して、戻るつもりだったのです。……なんでも、言ってみるものですね」
恍惚な笑みを浮かべる先生……ちょっと、うん、きもちわるい……です。
結局、見送りにきたついでに馬車の中が覗き見出来ればラッキーくらいに思ってたのね。
乗り込んだ時、内装をあれやこれやと触ってブツブツ言ってたのはそういう訳だったのですか……。
あっ?……、ちょ、ちょっと待って!!ってことは……。
「せんせい、たびのしたくはしていないのですか!?」
「ええ、まあ」
いやいや、モジモジして答えられても困るから!
「とうさま!たびじたくもなさらないでこられたそうですわ。どうしましょう?……」
「……かなり進んでしまって引き返すことも出来ないな。……仕方がない。次に立ち寄る町で、着替えだけ用意しなさい」
「はい。そう致します!」
なんて良い返事をなさるのかしら、ヤレヤレですわ。
父様もケンゾーも苦笑いしてるじゃない……。
先生と話し込んで、結構時間がたったわね。
父様がお疲れになる前に、馬車を操る練習をさせてもらおうかしら?
「とうさま。そろそろ、ばしゃをあやつるれんしゅうはできますか?」
「う~む、もう少し人気のないところの方がいいな。良さそうな場所を見つけ次第、声をかけるから、それまでゆっくりしていなさい」
「はい……」
ちぇっ、です。少し退屈です。馬車は快適で振動も少なく、お外はポカポカ陽気。
何もせずにいると、きっと眠ってしまいますわ。
最近、お昼寝すると夜に眠れなくなるのです。人一倍、体を動かして疲れているはずなのに、眠れないのです。きっと、不眠症ってやつですわ。前世では、12時間睡眠なんて普通よって感じのよく眠る子だったのに……。最長20時間寝た時……確か、新作ゲームをプレイしてて3日間寝てない時だったな……コントローラーを持ったまま、ゲームは起動したままだったから、あちゃ~ってなったけど……。
さて、眠気をおさえるために暇つぶしを考えるとしますか!
1つ目、アルノー先生に勉強を教えてもらう。
う~ん……楽しい旅に、勉強は……パスっ!次!
2つ目、優雅にお茶を飲む。
……あまり暇つぶしになりませんね。お茶を飲んでも、暇は暇のままです。
3つ目、筋トレをする。
馬車の中で筋トレ……広いとはいえ、壊れ物もありますし、陛下の秘蔵馬車ですもの。きっと、一つ一つが、とんでもなく高価なのかもしれませんし、無理ですね。
でも、体を動かしていないと眠ってしまいそうになるし……。
よし!決めましたわっ!
「とうさま、とうさま!すこしばしゃをおりて、はしってもよろしいですか?」
「はっ?!走るのかい?」
急な提案に、父様も先生もケンゾーまでも口をあんぐりしています。
「ええそうですわ。からだをうごかしていないと、ねむってしまいそうになるのです。そうすると、よるにねむれなくなるので、きんトレですわ」
「少し待ちなさい。今、馬車を止める━━」
「だいじょうぶです!そのままとびおりますので」
父様の横をすり抜け、ジャ~ンプです!
おお~解放感!馬車と並行して走ります。風が気持ちいい~
だけど、ただ走ってるだけなのもつまらないわね……使者さん達に『サクラ公国』のお話でも聞こうかしら。
「とうさま、ししゃさんたちのばしゃのほうへいって、おはなししてきてもいいですか?」
「いやいや、ルイーズ。急に行くと、使者殿が驚いてしまうだろう」
「きっと、だいじょうぶですわ。こどものすることですもの━━」
父様にそう言いながら、先導する馬車を追いかけるためにダッシュです。
後ろで『ルイーズ』『お嬢様』とか聞こえるけど……あの声のトーンはお小言ですわね。後で承りますわ。
お、追いついたっ!
「カリンさん!リョウブさん!」
私がそう声をかけると、ヒッ!とか、うぉっ!とか聞こえました。
ちょっと、驚きすぎです。地味に傷つき……ませんわね。そんなにナイーブではなかったわ。
「こんにちわ。たいくつだったのであそびにきました。おはなししてもいいですか?」
「って、ルイーズ様?な、なんで走ってらっしゃるんですか?」
「そ、そうですよ。結構な速さが出てる馬車に、どうして追いついて息切れもせずに走れるんですか?!」
「まずは、カリンさんのしつもんへのおへんじですが、たいくつでねむってしまいそうだったので、はしっています。つぎにリョウブさんへのおへんじですが、たんれんで、はしってるはやさと、かわりありませんわ」
うん、うん。剣術の回避時に後れをとらないよう、日々、走り込みの時は意識してスピードをあげてるのよね。その結果が出てるって事よね、良かった。
あっ、師匠が気楽に話しかけるように仰ってたわね。
「カリンさん、リョウブさん。たびのあいだはきらくにはなしかけてくださいね。ししょうからそうことづかっておりますし、わたくしもそのほうが、うれしいです」
私の言葉を聞いて、2人は互いに顔を見合わせています。
「……では、旅の間は気楽に話しかけるようにするわね。でも、名前を呼ぶ時に『様』付けはさせて欲しいの……あまり馴れ馴れしい態度だと、上司に叱られちゃうからね」
そう言いながらウインクするカリンさんは、美人だから破壊力抜群です。男性だとイチコロですね。
「カリンさん……わかりましたわ。びじんにそういわれると、いやとはいえませんもの」
「ふふ」
「それで、どんな鍛錬をしてるんですかっ?!ルイーズ様はまだ5つですよね?」
「えっと。まず、いちばんにマナがじゅんかんするように『たいきょくけん』をします。そのあと、はしりこみをして、けんじゅつのたんれんをします。じかんがあれば、まほうのれんしゅうもしたりしますね」
「「たいきょくけん?」」
「はい。これをするとからだのなかにマナをとりいれやすくなるんです。つまり、じゅんびうんどうのようなものですね」
「その『たいきょくけん』という運動は、簡単に出来るものなのですか?」
「もちろん!むずかしいものではありませんので、あるていどきたえてるひとは、かんたんにできるとおもいますよ」
足腰を鍛えてる人間なら、少し練習は必要かもしれませんが、習得は早いでしょう。
「休憩の時に見せてもらってもよろしいですか?」
太極拳を教えた人は魔法の威力がグ~ンと上がったのよね……。
攻略対象だからそうなったのか……でも、父様は攻略対象ではないのに威力が上がったし……ケンゾーも……。
見せるだけなら平気かしら?う~ん……私一人で決めるのはまずいわよね……勝手に約束したら父様に叱られそうだし……。
「えっと……とうさまにきょかをいただいてからでもよろしいですか?」
「ええ、後で侯爵様にお伺いして、許可をいただけたら見せてね」
「はい。では、いったんあちらのばしゃにもどります。また、きゅうけいのときに『サクラこうこく』のおはなしをきかせてもらってもいいですか?」
一番気になるのは『和食』や『和菓子』があるかよね。
「ええ、もちろん」「了解です」
使者さんのお返事を聞いた後、走る速度を落とし後続の馬車を待ちます。
「とうさま!ただいま、もどりました」
そう言って御者台に飛び移るためジャンプすると、父様に捕らえられ膝に座らされました……。
怒られる?そう思い、父様のお顔を見上げます。
ご機嫌は悪くなさそうだけれど、笑顔を保ったまま叱られた事もあるしなぁ。
笑顔で叱られたときは恐怖でいっぱいになったし、無表情で淡々と叱られたときは、精神的に参って布団に突っ伏して泣いてしまった。おぉ、(プルッ)思い出しただけで震えがくるわ……。
「とうさま?……」恐る恐る声をかけますが、紡ぐ言葉が見つかりません。
……沈黙が辛い。
再度、父様のお顔を見ます。
うん、ご機嫌は悪くないはず……です。
きっと……。
「ルイーズ。使者殿たちと仲良くなったかい?」
「うぉっ!」
急に話しかけられてびっくりしたー!変な悲鳴をあげてしまいました。心臓がバクバクいっています。
「はい、とうさま。たんれんのはなしをしてまいりました。『たいきょくけん』をみせてほしいといわれましたので、とうさまにおうかがいしてきょかをいただけたら、おみせしますといってもどってまいりました。『サクラこうこく』のおはなしは、きゅうけいのときに、きかせていただけるそうです」
「そうか、楽しかったのなら良かった。しかし、太極拳はもう少し為人を見てからにしなさい」
「はい」
「ルイーズ、そろそろ馬を操ってみるかい?」
「はいっ!!」
……結果、馬を操る事は出来ませんでした。
いえ、正直に言うと、手が小さすぎて手綱をうまく握れなかったのです。
そして、背が低すぎて馬のお尻しか見えない……。
くっ!!こんなところで、ちびっこの弊害がっ。
今はケンゾーが練習をしていますが、上手……。幼い時の3歳差って凄いわ。
身長が足りないから御者台に立って手綱を握っています。
へえ、考えましたね。私だと、立っても前は見えないだろうけど……。
いいなぁ、私も軽やかに操りたいわ。
帆馬車の屋根の上に座って、手綱を長く、細くしたら操作できないかしら?
………………。
駄目ね。長い手綱が邪魔で、馬が迷惑そうにしてる想像しかできなかったわ。
「ケンゾーはじょうずね」
「ありがとうございます」
「本当にコツを掴むのが、うまいな。これなら休憩したいときに、任せても大丈夫そうだ」
「はい。おまかせください」
父様に褒められて、ケンゾーは嬉しそうです。
「それはそうと、アルノーせんせいはうまをあやつれますの?」
父様とケンゾーが交代で馬の御者をするとしても、疲れるのは必至。
3人交代だと楽になるのにと、そう思って声をかけてみましたが。
苦笑いして誤魔化してますわ。
「せんせい?!」
「いやぁ、どうなんでしょう?操ったことがないんですよね」
「いちども?」
「はい、一度もありません」
わぉ!ですわ。
……そうか、綺麗に忘れていましたけれど、アルノー先生も貴族でした。
「しょうらい、ぼうけんをするのでしょう?ばしゃをそうさできないとこまりますので、れんしゅうしてください」
「それもそうですねっ!頑張って練習します。侯爵様、ご指導のほどよろしくお願いします」
ふふ。冒険って言葉を聞いた途端、やる気になってますわ。
・
・
・
「キャーーー!!」
「わぁーーーーー!!」
振り落とされるーーーーーーーっ!!
「ルイーーズっ!しっかり手を掴んでなさいっっっ」
「とーさまーーっ!!!あっ、あぶないっっ、ケンゾーーもつかまって!!」
「はいっ!ううぉ~~~!」
「せんせーいーー、たづなをひいてーーくださーーいーー」
「うぉっ!無理みたいですーー侯爵様、た、たすけてくださいーー」
「引きなさいっ、体全体を使って手綱を引きなさいっっ」
「ああ~っ、とうさまーーっ、(ゴンッ!)いたっ!!」
「も、もう、むりですーー」
「ああ!!ルイーズ、ケンゾーー」
もう、駄目っっ。
手が滑って落ちる……。
せめて、受け身をとらなくちゃ。
「きゃーーー!」
「わーーー」
「ルイーズっっ!!ケンゾーっ!!」
体が投げ出された瞬間、ふわりと誰かに抱きかかえられました。
「…………?……?」
「お怪我はありませんか?」
「リョウブさん?!」
「はい。……しかし、いきなり馬が暴走するなんて驚きました━━」
そう言いながら、抱き抱えた私を下におろしてくれました。
「たすけていただいて、ありがとうございます」
「どういたしまして」
「ほんとね~。ケンゾーくんも大丈夫?」
「……はい。たすけていただき、ありがとうございます。あの、平気ですので、おろしていただけますか?」
一緒に投げ出されたケンゾーはカリンさんに受け止めてもらったみたいで、お姫様抱っこの状態です。
少し顔を赤らめています。うん、お姫様抱っこは恥ずかしいよね。わかるわ。
下におろしてもらったケンゾーに怪我がないか確認します。
「ケンゾー、けがはない?」
「はい、だいじょうぶです。おじょうさまもおけがはありませんか?」
暴走する馬車であちこち打ってるけど、大きな怪我はないわね。
「ええ。だいじょうぶみたい」
大丈夫って言ったのに、ケンゾーは念入りにチェックします。
「ああっ、こちらにだぼくこんが……ああっ、頭にコブがっ」
「かんたんな、かいふくまほうでなおるからね」
ケンゾーを安心させた後、暴走した馬車の行方を目で追います……。
「とうさま、だいじょうぶかしら?」
「大丈夫みたいよ。少し先で、馬車は止まってるみたい」
あ、本当だわ。ジャンプして確認すると、数百メートル先に馬車が止まっています。
「しかし、何がどうなって、馬車が暴走したのですか?」
「そうそう。急に私たちの馬車を追い越したと思ったら、後ろでルイーズ様やケンゾーくんが振り回されて落ちそうになってるじゃない……本当に驚いたわ……」
私も驚きました。
アルノー先生が手綱を握った途端、馬が暴走したのですから……。
馬車から投げ出されそうになる私たちを助けるのに必死で、父様もなす術がなかったのでしょう。
馬車を止め、私たちを助ける事は、お一人では無理ですもの。
「アルノーせんせいに、ばしゃをあやつるれんしゅうをしていただいてたら、うまがぼうそうしたのです……」
「そう……」
「そうなんですか……」
カリンさんもリョウブさんも、言葉が見つからなかったのか、簡素な返事をして遠い目をしています。
「……おじょうさま。ご主人さまのごようすもしんぱいですし、ばしゃへむかいましょう」
「そうね……とうさまに、けがはないとおもうけれど、アルノーせんせいはしんぱいだわ。むかいましょう」
父様はチートですもの。怪我などしていないと思うけれど、アルノー先生は怪我をしているかもしれないわ。急ぎましょう。
「ケンゾー、はしりますよ」
「はい。おじょうさま」
「えっ?!こちらの馬車に乗ってください」「そうよ。小さな子二人なら乗れるから、乗って向かいましょう」
「いえ、はしったほうがはやいのでさきにむかいますっ!」
そう言って、ケンゾーと一緒に全力疾走します。
◇ ◇ ◇
馬車のそばに辿り着いた時、アルノー先生は気を失っていましたが、怪我はしていませんでした。
世話の焼ける先生ですね……。
父様にも怪我がなく、安堵しました。
父様は、私たちが放り出される瞬間、助けられるのが見え、安心して先生から手綱を奪い、馬車を止めたそうです。
しかし、何が原因で馬が暴走したのかしら?
もう、御者は無理かな?……、この旅で習得するのは無理でも、将来出来る可能性はあるわ。
私もケンゾーも強くなれば、振り落とされないし……。
いえ、なんなら安定しない足場を利用して、足腰の鍛錬に使えるかもっ!
そうすれば、御者の訓練も私たちの鍛錬も出来るし、一石二鳥だわ♪
屋敷に戻ったら、訓練メニューに加えられるか師匠や父様を交えて相談しましょう。
先生の意見は……将来の為ですもの、きっと快く了承してくれるでしょう。
「ふっふっふ、それはですね。昨日、侯爵様から留守にするので講師の仕事は休みと仰せつかりました。その事を自宅に戻り、父に告げたところ、理由を教えてくださいました。【宰相様は休暇をとり、娘である『ルイーズ様』と旅に出るため、陛下秘蔵の馬車をお借りしていた】とね。それで、私は考えたのですよ。一目でいいから、陛下秘蔵の馬車を見てみたい……ふぅ…………秘蔵ですよ。まさか、乗せていただけるなんて……なんて幸運なのでしょう………本当は声をおかけして、お話ついでに少し中を拝見して、戻るつもりだったのです。……なんでも、言ってみるものですね」
恍惚な笑みを浮かべる先生……ちょっと、うん、きもちわるい……です。
結局、見送りにきたついでに馬車の中が覗き見出来ればラッキーくらいに思ってたのね。
乗り込んだ時、内装をあれやこれやと触ってブツブツ言ってたのはそういう訳だったのですか……。
あっ?……、ちょ、ちょっと待って!!ってことは……。
「せんせい、たびのしたくはしていないのですか!?」
「ええ、まあ」
いやいや、モジモジして答えられても困るから!
「とうさま!たびじたくもなさらないでこられたそうですわ。どうしましょう?……」
「……かなり進んでしまって引き返すことも出来ないな。……仕方がない。次に立ち寄る町で、着替えだけ用意しなさい」
「はい。そう致します!」
なんて良い返事をなさるのかしら、ヤレヤレですわ。
父様もケンゾーも苦笑いしてるじゃない……。
先生と話し込んで、結構時間がたったわね。
父様がお疲れになる前に、馬車を操る練習をさせてもらおうかしら?
「とうさま。そろそろ、ばしゃをあやつるれんしゅうはできますか?」
「う~む、もう少し人気のないところの方がいいな。良さそうな場所を見つけ次第、声をかけるから、それまでゆっくりしていなさい」
「はい……」
ちぇっ、です。少し退屈です。馬車は快適で振動も少なく、お外はポカポカ陽気。
何もせずにいると、きっと眠ってしまいますわ。
最近、お昼寝すると夜に眠れなくなるのです。人一倍、体を動かして疲れているはずなのに、眠れないのです。きっと、不眠症ってやつですわ。前世では、12時間睡眠なんて普通よって感じのよく眠る子だったのに……。最長20時間寝た時……確か、新作ゲームをプレイしてて3日間寝てない時だったな……コントローラーを持ったまま、ゲームは起動したままだったから、あちゃ~ってなったけど……。
さて、眠気をおさえるために暇つぶしを考えるとしますか!
1つ目、アルノー先生に勉強を教えてもらう。
う~ん……楽しい旅に、勉強は……パスっ!次!
2つ目、優雅にお茶を飲む。
……あまり暇つぶしになりませんね。お茶を飲んでも、暇は暇のままです。
3つ目、筋トレをする。
馬車の中で筋トレ……広いとはいえ、壊れ物もありますし、陛下の秘蔵馬車ですもの。きっと、一つ一つが、とんでもなく高価なのかもしれませんし、無理ですね。
でも、体を動かしていないと眠ってしまいそうになるし……。
よし!決めましたわっ!
「とうさま、とうさま!すこしばしゃをおりて、はしってもよろしいですか?」
「はっ?!走るのかい?」
急な提案に、父様も先生もケンゾーまでも口をあんぐりしています。
「ええそうですわ。からだをうごかしていないと、ねむってしまいそうになるのです。そうすると、よるにねむれなくなるので、きんトレですわ」
「少し待ちなさい。今、馬車を止める━━」
「だいじょうぶです!そのままとびおりますので」
父様の横をすり抜け、ジャ~ンプです!
おお~解放感!馬車と並行して走ります。風が気持ちいい~
だけど、ただ走ってるだけなのもつまらないわね……使者さん達に『サクラ公国』のお話でも聞こうかしら。
「とうさま、ししゃさんたちのばしゃのほうへいって、おはなししてきてもいいですか?」
「いやいや、ルイーズ。急に行くと、使者殿が驚いてしまうだろう」
「きっと、だいじょうぶですわ。こどものすることですもの━━」
父様にそう言いながら、先導する馬車を追いかけるためにダッシュです。
後ろで『ルイーズ』『お嬢様』とか聞こえるけど……あの声のトーンはお小言ですわね。後で承りますわ。
お、追いついたっ!
「カリンさん!リョウブさん!」
私がそう声をかけると、ヒッ!とか、うぉっ!とか聞こえました。
ちょっと、驚きすぎです。地味に傷つき……ませんわね。そんなにナイーブではなかったわ。
「こんにちわ。たいくつだったのであそびにきました。おはなししてもいいですか?」
「って、ルイーズ様?な、なんで走ってらっしゃるんですか?」
「そ、そうですよ。結構な速さが出てる馬車に、どうして追いついて息切れもせずに走れるんですか?!」
「まずは、カリンさんのしつもんへのおへんじですが、たいくつでねむってしまいそうだったので、はしっています。つぎにリョウブさんへのおへんじですが、たんれんで、はしってるはやさと、かわりありませんわ」
うん、うん。剣術の回避時に後れをとらないよう、日々、走り込みの時は意識してスピードをあげてるのよね。その結果が出てるって事よね、良かった。
あっ、師匠が気楽に話しかけるように仰ってたわね。
「カリンさん、リョウブさん。たびのあいだはきらくにはなしかけてくださいね。ししょうからそうことづかっておりますし、わたくしもそのほうが、うれしいです」
私の言葉を聞いて、2人は互いに顔を見合わせています。
「……では、旅の間は気楽に話しかけるようにするわね。でも、名前を呼ぶ時に『様』付けはさせて欲しいの……あまり馴れ馴れしい態度だと、上司に叱られちゃうからね」
そう言いながらウインクするカリンさんは、美人だから破壊力抜群です。男性だとイチコロですね。
「カリンさん……わかりましたわ。びじんにそういわれると、いやとはいえませんもの」
「ふふ」
「それで、どんな鍛錬をしてるんですかっ?!ルイーズ様はまだ5つですよね?」
「えっと。まず、いちばんにマナがじゅんかんするように『たいきょくけん』をします。そのあと、はしりこみをして、けんじゅつのたんれんをします。じかんがあれば、まほうのれんしゅうもしたりしますね」
「「たいきょくけん?」」
「はい。これをするとからだのなかにマナをとりいれやすくなるんです。つまり、じゅんびうんどうのようなものですね」
「その『たいきょくけん』という運動は、簡単に出来るものなのですか?」
「もちろん!むずかしいものではありませんので、あるていどきたえてるひとは、かんたんにできるとおもいますよ」
足腰を鍛えてる人間なら、少し練習は必要かもしれませんが、習得は早いでしょう。
「休憩の時に見せてもらってもよろしいですか?」
太極拳を教えた人は魔法の威力がグ~ンと上がったのよね……。
攻略対象だからそうなったのか……でも、父様は攻略対象ではないのに威力が上がったし……ケンゾーも……。
見せるだけなら平気かしら?う~ん……私一人で決めるのはまずいわよね……勝手に約束したら父様に叱られそうだし……。
「えっと……とうさまにきょかをいただいてからでもよろしいですか?」
「ええ、後で侯爵様にお伺いして、許可をいただけたら見せてね」
「はい。では、いったんあちらのばしゃにもどります。また、きゅうけいのときに『サクラこうこく』のおはなしをきかせてもらってもいいですか?」
一番気になるのは『和食』や『和菓子』があるかよね。
「ええ、もちろん」「了解です」
使者さんのお返事を聞いた後、走る速度を落とし後続の馬車を待ちます。
「とうさま!ただいま、もどりました」
そう言って御者台に飛び移るためジャンプすると、父様に捕らえられ膝に座らされました……。
怒られる?そう思い、父様のお顔を見上げます。
ご機嫌は悪くなさそうだけれど、笑顔を保ったまま叱られた事もあるしなぁ。
笑顔で叱られたときは恐怖でいっぱいになったし、無表情で淡々と叱られたときは、精神的に参って布団に突っ伏して泣いてしまった。おぉ、(プルッ)思い出しただけで震えがくるわ……。
「とうさま?……」恐る恐る声をかけますが、紡ぐ言葉が見つかりません。
……沈黙が辛い。
再度、父様のお顔を見ます。
うん、ご機嫌は悪くないはず……です。
きっと……。
「ルイーズ。使者殿たちと仲良くなったかい?」
「うぉっ!」
急に話しかけられてびっくりしたー!変な悲鳴をあげてしまいました。心臓がバクバクいっています。
「はい、とうさま。たんれんのはなしをしてまいりました。『たいきょくけん』をみせてほしいといわれましたので、とうさまにおうかがいしてきょかをいただけたら、おみせしますといってもどってまいりました。『サクラこうこく』のおはなしは、きゅうけいのときに、きかせていただけるそうです」
「そうか、楽しかったのなら良かった。しかし、太極拳はもう少し為人を見てからにしなさい」
「はい」
「ルイーズ、そろそろ馬を操ってみるかい?」
「はいっ!!」
……結果、馬を操る事は出来ませんでした。
いえ、正直に言うと、手が小さすぎて手綱をうまく握れなかったのです。
そして、背が低すぎて馬のお尻しか見えない……。
くっ!!こんなところで、ちびっこの弊害がっ。
今はケンゾーが練習をしていますが、上手……。幼い時の3歳差って凄いわ。
身長が足りないから御者台に立って手綱を握っています。
へえ、考えましたね。私だと、立っても前は見えないだろうけど……。
いいなぁ、私も軽やかに操りたいわ。
帆馬車の屋根の上に座って、手綱を長く、細くしたら操作できないかしら?
………………。
駄目ね。長い手綱が邪魔で、馬が迷惑そうにしてる想像しかできなかったわ。
「ケンゾーはじょうずね」
「ありがとうございます」
「本当にコツを掴むのが、うまいな。これなら休憩したいときに、任せても大丈夫そうだ」
「はい。おまかせください」
父様に褒められて、ケンゾーは嬉しそうです。
「それはそうと、アルノーせんせいはうまをあやつれますの?」
父様とケンゾーが交代で馬の御者をするとしても、疲れるのは必至。
3人交代だと楽になるのにと、そう思って声をかけてみましたが。
苦笑いして誤魔化してますわ。
「せんせい?!」
「いやぁ、どうなんでしょう?操ったことがないんですよね」
「いちども?」
「はい、一度もありません」
わぉ!ですわ。
……そうか、綺麗に忘れていましたけれど、アルノー先生も貴族でした。
「しょうらい、ぼうけんをするのでしょう?ばしゃをそうさできないとこまりますので、れんしゅうしてください」
「それもそうですねっ!頑張って練習します。侯爵様、ご指導のほどよろしくお願いします」
ふふ。冒険って言葉を聞いた途端、やる気になってますわ。
・
・
・
「キャーーー!!」
「わぁーーーーー!!」
振り落とされるーーーーーーーっ!!
「ルイーーズっ!しっかり手を掴んでなさいっっっ」
「とーさまーーっ!!!あっ、あぶないっっ、ケンゾーーもつかまって!!」
「はいっ!ううぉ~~~!」
「せんせーいーー、たづなをひいてーーくださーーいーー」
「うぉっ!無理みたいですーー侯爵様、た、たすけてくださいーー」
「引きなさいっ、体全体を使って手綱を引きなさいっっ」
「ああ~っ、とうさまーーっ、(ゴンッ!)いたっ!!」
「も、もう、むりですーー」
「ああ!!ルイーズ、ケンゾーー」
もう、駄目っっ。
手が滑って落ちる……。
せめて、受け身をとらなくちゃ。
「きゃーーー!」
「わーーー」
「ルイーズっっ!!ケンゾーっ!!」
体が投げ出された瞬間、ふわりと誰かに抱きかかえられました。
「…………?……?」
「お怪我はありませんか?」
「リョウブさん?!」
「はい。……しかし、いきなり馬が暴走するなんて驚きました━━」
そう言いながら、抱き抱えた私を下におろしてくれました。
「たすけていただいて、ありがとうございます」
「どういたしまして」
「ほんとね~。ケンゾーくんも大丈夫?」
「……はい。たすけていただき、ありがとうございます。あの、平気ですので、おろしていただけますか?」
一緒に投げ出されたケンゾーはカリンさんに受け止めてもらったみたいで、お姫様抱っこの状態です。
少し顔を赤らめています。うん、お姫様抱っこは恥ずかしいよね。わかるわ。
下におろしてもらったケンゾーに怪我がないか確認します。
「ケンゾー、けがはない?」
「はい、だいじょうぶです。おじょうさまもおけがはありませんか?」
暴走する馬車であちこち打ってるけど、大きな怪我はないわね。
「ええ。だいじょうぶみたい」
大丈夫って言ったのに、ケンゾーは念入りにチェックします。
「ああっ、こちらにだぼくこんが……ああっ、頭にコブがっ」
「かんたんな、かいふくまほうでなおるからね」
ケンゾーを安心させた後、暴走した馬車の行方を目で追います……。
「とうさま、だいじょうぶかしら?」
「大丈夫みたいよ。少し先で、馬車は止まってるみたい」
あ、本当だわ。ジャンプして確認すると、数百メートル先に馬車が止まっています。
「しかし、何がどうなって、馬車が暴走したのですか?」
「そうそう。急に私たちの馬車を追い越したと思ったら、後ろでルイーズ様やケンゾーくんが振り回されて落ちそうになってるじゃない……本当に驚いたわ……」
私も驚きました。
アルノー先生が手綱を握った途端、馬が暴走したのですから……。
馬車から投げ出されそうになる私たちを助けるのに必死で、父様もなす術がなかったのでしょう。
馬車を止め、私たちを助ける事は、お一人では無理ですもの。
「アルノーせんせいに、ばしゃをあやつるれんしゅうをしていただいてたら、うまがぼうそうしたのです……」
「そう……」
「そうなんですか……」
カリンさんもリョウブさんも、言葉が見つからなかったのか、簡素な返事をして遠い目をしています。
「……おじょうさま。ご主人さまのごようすもしんぱいですし、ばしゃへむかいましょう」
「そうね……とうさまに、けがはないとおもうけれど、アルノーせんせいはしんぱいだわ。むかいましょう」
父様はチートですもの。怪我などしていないと思うけれど、アルノー先生は怪我をしているかもしれないわ。急ぎましょう。
「ケンゾー、はしりますよ」
「はい。おじょうさま」
「えっ?!こちらの馬車に乗ってください」「そうよ。小さな子二人なら乗れるから、乗って向かいましょう」
「いえ、はしったほうがはやいのでさきにむかいますっ!」
そう言って、ケンゾーと一緒に全力疾走します。
◇ ◇ ◇
馬車のそばに辿り着いた時、アルノー先生は気を失っていましたが、怪我はしていませんでした。
世話の焼ける先生ですね……。
父様にも怪我がなく、安堵しました。
父様は、私たちが放り出される瞬間、助けられるのが見え、安心して先生から手綱を奪い、馬車を止めたそうです。
しかし、何が原因で馬が暴走したのかしら?
もう、御者は無理かな?……、この旅で習得するのは無理でも、将来出来る可能性はあるわ。
私もケンゾーも強くなれば、振り落とされないし……。
いえ、なんなら安定しない足場を利用して、足腰の鍛錬に使えるかもっ!
そうすれば、御者の訓練も私たちの鍛錬も出来るし、一石二鳥だわ♪
屋敷に戻ったら、訓練メニューに加えられるか師匠や父様を交えて相談しましょう。
先生の意見は……将来の為ですもの、きっと快く了承してくれるでしょう。
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※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。
※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。
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