異母妹にすべてを奪われ追い出されるように嫁いだ相手は変人の王太子殿下でした。

あとさん♪

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27.ベリンダという名の小悪魔(ベリンダside)

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 つまらない人だというのに、異母姉には婚約者がいると聞いてびっくりした。18歳になったらその人と結婚するのだとか。
 どんな人なのか気になったので、彼が王配教育と称して王宮に来ていたときこっそり見てみた。
 フィガロ・ヴィスカルディ。端正な顔立ちをした優雅な青年だった。ヴィスカルディ侯爵家の次男だという。

(この人をベリンダのとりこにしたら、さすがのお義姉さまも悔しがるかも)

 たいがいの男性はベリンダがにっこりと微笑むと言うことをきいてくれる。その腕に寄り添って上目遣いで見上げ助力をお願いすれば叶えてくれる。
 虜にするなど容易い。
 フィガロ・ヴィスカルディも例外ではなかった。

 最初は第二王女という身分に遠慮していたのか余所余所しい態度であったが、ベリンダが笑顔を見せて甘えると次第に打ち解けていった。
 彼は女性に頼られたいらしい。そう見抜いたベリンダは、フィガロの王配教育の進捗具合を聞き、褒め倒した。自分にも教えて欲しいとお願いすれば、嬉々として時間を作り教えてくれた。

 そうして仲良くなり、ちょっと手が触れただけで頬を染める愛らしいベリンダの姿を見せつけた。
 フィガロがベリンダに傾倒するのにさほど日数は必要としなかった。『お姉さまに悪いとは思っています』と前置きしてから愛の告白をすれば『俺もベリンダを愛している』と言われた。

 ベリンダは異母姉の悔しがる顔を見てみたかった。
 どんなに我が儘を言っても、父の命令で亡き女王陛下の残した宝石をベリンダに渡すときも顔色を変えなかったリラジェンマ。
 さすがに婚約者の心を盗られたら、嘆き悲しむのではないか。そう思っていたが、あてが外れた。

(あの人は、どこまでもつまらない女だった)

 ヴィスカルディ家で開かれたお茶会で。
 大勢の招待客の前で。
 自分の婚約者を盗まれたと知ったとき、さすがのリラジェンマでも顔色くらい変えると思っていたのに。

 リラジェンマはいつもの澄ました顔で自分を見た。
 ベリンダが泣いて許しを請うているのに、顔色一つ変えず冷たく睥睨された。迷惑そうな顔さえしなかった。
 あの翠の瞳はベリンダを見ているようで見ていなかった。自分の婚約者にも冷たい瞳を向けた。
 金輪際関わるなと言いたげな態度で背を向けられ、ベリンダの方が逆に悔しくなった。

 そんなリラジェンマ第一王女は、ヴィスカルディ家で行われたお茶会の翌日に隣国へ嫁いだという。
 ベリンダにとっては寝耳に水の出来事であった。

「隣国ってどこ?」
「グランデヌエベ王国です」

 詳しく聞けば、グランデヌエベから王太子殿下が花嫁を迎えに来たと途中の街に滞在していたらしい。
 そこへ第一王女が自ら向かったのだとか。

「街ではベリンダさまを迎えにきたと思っていたらしいのですが、なぜかリラジェンマ殿下が行ってしまったと……そのせいでこの長雨になっているのだと、評判です」

 このメイドは、グランデヌエベの王太子が滞在していた街に親戚がいるとかで情報通だ。

「グランデヌエベの王太子殿下ってどんな人?」

 ベリンダがそう問えば、彼女に仕える人間が総出で隣国の王太子の情報を集めてくれた。
 なんでも、かの王太子は金髪で黄水晶シトリンの瞳をもつ白皙の美青年だとか。
 幼いころから聡明で、初代国王の生まれ変わりだと噂されるほどだとか。

(お義姉さまはズルいわ。すぐにそんな凄い結婚相手を見つけてしまうなんて!)

 もしかしたら、あのとき悔しい素振りを見せなかったのではなかろうか。
 最初から、フィガロは捨てられる予定の男だったのだ。
 ベリンダはリラジェンマから婚約者を奪い取ったつもりで、本当は廃棄物を押し付けられたのだ!
 だからこそ、顔色ひとつ変えなかったに違いない。

(お義姉さまは酷い! ベリンダをこんなに悔しがらせるなんて!)

 こんなに馬鹿にされたのは初めてのことであった。
 いつもいつも、ベリンダにとってリラジェンマは思いどおりにならない。
 仲良くしてあげようと思っても、時間も作ってくれない。
 悔しがらせようとしても、こちらが思うような反応を返さない。

 なによりも。

 あの異母姉は、ベリンダを見てもとして扱うのだ。
 いまや男も女もすべての人間が、ベリンダの歓心を買おうと努力しているというのに、リラジェンマだけは変わらない。

 笑顔ひとつ見せてくれない。
 あんなつまらない女なくせに。

 しかも。

(こんな、本物の王子さまだなんて……)

 取り寄せたグランデヌエベ王国王太子の姿絵には、噂どおりの白皙の美青年がこちらに向かって微笑んでいた。
 フィガロとは違う、貴族の中の貴族。本物の王族。王太子といえば、次の国王陛下になると決められた人物。

(彼もきっと、わたしを見れば気に入ってくれるわ)

 ベリンダが笑顔を向けた男性は、みな彼女の虜になった。
 泣いて縋れば優しく慰めてくれた。

 思い知らせなければならない。
 リラジェンマに。
 ベリンダがこの世で一番可愛い王女だということを。

(グランデヌエベの王太子だってベリンダを見てしまえば。一緒に過ごせば。ベリンダに夢中になるに違いないわ)

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