異母妹にすべてを奪われ追い出されるように嫁いだ相手は変人の王太子殿下でした。

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26.ベリンダは本物のお姫さまと出会った(ベリンダside)

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※異母妹ベリンダsideです

 
 ウナグロッサ王国、第二王女ベリンダ・ウーナ。

 彼女は幼少期、市井で母親と二人暮らしだった。その頃は名字などない。ただの平民だった。
 うつくしい彼女の母親を訪ねて何人も男の人が来た。その中のだれが本当の父なのか、ベリンダは知らない。母親も分からないと言って笑っていた。

 幼い頃からベリンダのうつくしさは評判だった。母親譲りの豊かに波打つ金髪と夢見るように潤む空色の瞳。彼女のうつくしさを褒め称える人間は多かった。

 同じ年頃の少年たちに大人気だったベリンダは、同時に少女たちから蛇蝎のように嫌われた。ベリンダのうつくしさを妬む者が存在するのは仕方ない。

(だってベリンダの方が可愛いしキレイだもの)

 町長の息子も、町一番の商会の息子もベリンダに夢中になった。
 ベリンダに対し批判的だったり敵対しようとする人間もいた。
 おもに、自分の可愛らしさに自信のある商家の娘とか下級貴族の令嬢とか。ベリンダが男の子たちと同じ学問所で学んでいると文句を言ってくる。つまらない子たち。
 女の子は手習い所で学び、男の子は学問所で学ぶものだと。
 とはいえベリンダが学問所へ行くのは母の希望であって、ベリンダの意思ではない。文句を言われてもどう対処したらいいか分からず困り果てていると、男の子たちが助けてくれた。
 ベリンダの方が男の子からの人気が高いからだと理解した。彼らはベリンダがにっこり笑顔を向けると嬉しそうにする。
 彼らはベリンダの言うことをなんでも聞いてくれる。

 文句を言ってくる令嬢たちにも好きな男の子がいて、彼をベリンダの虜にして見返してやった。ちょっと顔が可愛いだけのつまらない令嬢でも、悔しがるその顔は面白かった。

 10歳になったときベリンダは本物の王女さまになったから、あんなつまらない令嬢のことは忘れてあげた。だれよりも可愛くてキレイなうえに、だれもがベリンダの命令をきくようになった。
 でもベリンダは『第二王女』だった。
 城に勤めている使用人たちは『一の姫さま』であるリラジェンマお義姉さまを優先する。王太女という地位にいて、将来の女王陛下になるのだという。

『国王陛下』に嘘は通用しない。
 学問所で初めにそう習ったから、ベリンダはお城に連れていかれたとき、とても怖かった。
 お城に母親と自分を連れていった人が偉い人だなんて知らなかった。『おとうさまだよ』と名乗った男の人が、本当に自分の父親なのか分からない。国王陛下に見られたら、実の娘なのかどうか、わかるのではないか? 本当の娘ならいいけど、もし間違っていたら王さまを騙した罰だといって殺されるのではないか?
 不安に震えていたけれど『王さま』も『女王さま』もいなかった。『女王さま』の血を引くのがリラジェンマお義姉さまだから、もしかしたら彼女には嘘か本当か解ってしまうのだろうか。

 初めて会ったときの第一王女リラジェンマ・ウーナはきらきらと輝く本物のお姫さまだった。彼女の翠の瞳に見詰められるのが怖かった。しかし彼女は、ベリンダを異母妹だと紹介する父親に対して、異議を唱えなかった。
 それはつまり、ベリンダを自分の妹だと認めたということ。ベリンダの本当の父親はあの人だったのだ!

 お城で会った第一王女リラジェンマ・ウーナは、そのきらきらと輝く髪も大きな翠の瞳も、ぜんぶが可愛かった。
 一目見て『本物のお姫さま』はなんだと納得した。

 纏う雰囲気が違った。

 立っているだけで、振り返るだけで、ちょっと空を見上げるだけで。
 市井で見た娘たちの誰とも違い、他の人間を跪かせるなにか――顔の可愛さとか、そんな物とは別の次元のなにか――があった。

『お姫さま』になればベリンダもあんな風に光り輝くことができる。そう信じたけれど、王宮に勤める多くの者たちにとってベリンダは二の次だった。

 お義姉さまに好かれれば、皆の目も変わるかもしれない。そう思って異母姉に取り入ろうとした。
 王宮という場所は今まで市井で過ごしていたベリンダには信じられない程広い場所で、ベリンダとその母が過ごす宮は第一王女が住まう場所とかなり距離があった。
 異母姉に会うのにまず一苦労いる。人を介し時間をかけないと会えないなんて面倒臭い。面倒臭いからむりやり会いに行こうとすると衛兵たちに止められる。
 それら万難を排しやっと異母姉に会えたとしても、彼女から友好的な態度で接してもらった記憶が無い。
 ベリンダがどんなに笑顔で接しても、いつも少しだけ眉間に皺を寄せてベリンダを見る異母姉リラジェンマ
 ベリンダが遊んで欲しくても公務だとかで忙しい異母姉。
 つまらないうえに、ベリンダを丁寧に扱わないなんて癪に障る。
 ベリンダの笑顔をだれもが望むというのに。

 癪に障るからその腹いせにリラジェンマお義姉さまの持ち物が欲しいと駄々を捏ねてみた。
 ネックレスが。
 髪飾りが。
 いま着けているリボンが欲しい。
 いま身に纏っているドレスが欲しい。

『おとうさま』におねだりして以降、ベリンダが異母姉の持ちものを欲しいと強請ねだればすぐにくれる懐の広いところを見せるリラジェンマ。
 けれど、あれは親切だからとかベリンダのことが好きだから、ではない。
 父親に怒られたからでもない。

 彼女はベリンダに関心がないからそうするのだ。

 何をねだっても、無理難題をふっかけてもすぐに叶えてくれる。さもこれで黙っていろといわんばかりの態度。
 お茶に招待しても忙しいからと断られる。逆にベリンダを招待してくれたこともない。

(お義姉さまはつまらない人)

 ベリンダはそう結論づけた。
 いままでベリンダの周りにいた人間は、みんな彼女の歓心を惹きたくて話しかけたり物をくれたりした。そういう人間にはベリンダだって親切にできる。最近はベリンダ専属になったメイドや侍女たちが彼女を褒め称えるから、親切にしている。

『おとうさま』はベリンダに言う。
 ――ベリンダはレベッカによく似て可愛いし、私に似て賢い。次の女王にはベリンダがなって欲しいなぁ―

(女王さまになるのはお義姉さまではなかったの?)

 リラジェンマはろくにお茶会も開かないし、あちこち外遊していると聞く。そんな『王女さま』では次の女王さまに成れないのかもしれない。父がベリンダに期待するのも当然だろう。
 なぜなら、ベリンダの方が可愛いし賢いのだから!

(あんなつまらない人より、ベリンダが女王になる方がいいのかもね)


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