異世界に召喚され生活してるのだが、仕事のたびに元カレと会うのツラい

だいず

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43 明転

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 扉を開けた先は、今まで歩いてきたところとは全く別の空間が広がっていた。まずは、明るさだ。これまでは部屋や道、どこも薄暗ささえあったのに、この部屋は天井に大きなシャンデリアみたいなものが飾られ、眩しいくらいに明るかった。置いてあるものも、今までとは違った。部屋の周囲には、燭台や花瓶が置かれ、絵画まで飾ってある。壁に沿って、男の部下が何人か並んでいた。部屋の中央には1脚の椅子が置かれていた。その椅子に座っているのは、一人の女性だ。女性の後ろには、黒っぽい服を着た人が何人か控えている。きっと、彼女が俺の「買い手」なのだろうと察することができた。

「待たせたな。あんたの注文通りの品だぜ」

 男はにこやかにそう言って、俺の背中を押した。俺は数歩前に出る。正直、金持ちと聞いて高齢の男性をイメージしていた俺は、実際は40代くらいの女性が俺の買い手だったことに驚いていた。しかし、そんなことは俺以外には関係のないことだ。どんどんと俺を買うことの話は進んでいく。

「見た目は……良いわね。その服は本当に異世界のもの? この世界のものじゃなくて?」
「攫ってきたままの服だ。本人が言うには、異世界の服だとよ」

 俺は内心舌打ちをした。この男、万が一この服が異世界の物でなかったとばれても俺のせいにするつもりなんだ。俺は、「この服この世界のものです! なんならこの男、攫うとき俺のこと殴ってます! !」と暴露したかったが、いまだ捕まっているグレンノルトのことを考えると、大人しくするしかなかった。

「良いわ。約束通りの金額を払う」

 やり取りをする彼らの横で、俺は逃げ出す道を探した。この部屋の出口は、実は2つあった。俺が入って来た扉と、反対側にもう一つ。これまで歩いてきた中で、外に出れるところはなかった。ということは、反対の、あの扉が外へと続くものなんだろう。

(でも、グレンノルトがまだ……)

 男と、俺の買い手である女性は必要なやり取りが終わったのだろう。男が俺の腕を掴み、彼女に渡そうとした。

「さあ、これでこの人間はあんたのもんだ」

 結局、ここから逃げ出すチャンスはなかったのか。でも、グレンノルトが無事に解放されるなら。そう自分を納得させながら、女性の方に歩いて行こうとし___しかし、その足は途中で止まった。いや、正確には足を止めるしかなかったんだ。壁の近くに並んでいた一人の部下に、抱き寄せられたから。

「お前は! 部屋で繋がれてたはずだろ!」

 部屋の中の空気が、一瞬で緊張したものになった。男や男の部下は、素早く武器を構え、俺と俺を抱き寄せている人間を見る。異変を感じ取った黒服の人間たちは、金持ちの女性を守るように前に出て、ただ一人、彼女だけ状況が分かっていないのか「なにっ、なによっ」と慌てた声を出していた。しかし、そんな周囲のことを気にする余裕は俺になかった。俺は、俺を抱き寄せる彼に目を奪われていた。

「お前の部下が間抜けで助かった。おかげで、簡単に逃げ出すことができた」

 ヘアバンドに隠された素顔が露になる。明るいブロンドの髪に、深海のような深い青色の目……笑みをたたえたグレンノルト・シルヴェスターがそこにいた。

「飛び道具は遣うな! 奴を取り押さえろ!」

 男がそう大声で部下に命令する。部屋を囲うように並んでいた男の部下たちは、短剣や剣を手に、じりじりと俺たちに迫って来た。

「て、敵が! 敵が来てます!」
「大丈夫、もう少し引き付けて……そろそろか」

 グレンノルトはそう言うと、腰から剣を抜いた。それに気づいた男が、部下を止めようとするが遅かった。グレンノルトが剣を振るうと、部屋の中の灯りが大きく揺れ___落ちてきたシャンデリアが男の部下たちに直撃した。貴族の女性の手下たちまで巻き込まれたのだろう、彼女の甲高い叫び声が聞こえる。

「出口に逃げましょう、トウセイ様」

 そんな混乱の中、グレンノルトは俺の手を引いた。すかさず男が「出口を塞げ!」と叫ぶ。落ちてきたシャンデリアの下から何とか這い出てきた男の部下が、反対の方にある扉に立ちふさがった。やっぱり、あっちが出口なんだ。しかし、グレンノルトが向かったのは、出口とは反対の扉……つまり俺が入って来た方の扉だった。人攫いの男が、自分が騙されたことに気付く。グレンノルトは始めから出口を目指してはいなかった。自分はグレンノルトのブラフにハマったのだと、部屋から出ようとする2人の背中を見てようやくわかった。

「くそったれがぁ!! ここから逃げ出せると思うな!!」

 男が近くに落ちていたボウガンを拾う。そして躊躇いなく、その矢を放った。

「ぐっ……」
「グレン? 大丈夫ですか、グレン!?」
「大丈夫です。心配しないで。さあ、逃げましょう」

 グレンノルトが顔を歪める。そして肩に刺さった矢を抜いて投げ捨てると、俺の手を引いてその場から逃げ出した。
 
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