異世界に召喚され生活してるのだが、仕事のたびに元カレと会うのツラい

だいず

文字の大きさ
上 下
46 / 53

44 陸の孤島

しおりを挟む
 しばらく走った後、俺たちは鍵の開いている部屋に入った。少し埃っぽいが、中には誰もいない。息を整えるくらいはできるだろう。

「グレン! あ、いや……いえ、グレンノルト様。助けてくれてありがとうございます」
「……こうなったのは、私の落ち度ですから。そのような言葉は……」
「それでも助けてくれたことのお礼くらい言わせてください。傷は大丈夫ですか?」
「はい、傷は深くありません」

 確かに、見る限り傷はそこまで深くなさそうだ。俺は良かったと、ほっと息を吐く。グレンノルトが俺に「あなたこそ、怪我は?」と尋ね、俺は「一つもありません」と言って頷いた。

「その服はどうしたんですか?」
「えっと……少し、拝借しました」
「服が置いてある部屋があったんですね! 俺も似たような部屋で、この服に着替えさせられました」
「その際、奴から何かされませんでしたか?」

 グレンノルトが、勢いよく顔を上げてそう聞いてきた。「何か」と言われても……特にされたことはない。俺は素直にそう答える。グレンノルトは安心した表情で「そうですか」と言って微笑んだ。

「次は脱出方法を考えなきゃですね」

 さっきから、外が騒がしい。きっと人攫いたちが逃げ出した俺たちを探しているんだろう。奴らに見つかる前に、外に脱出する方法を考えなくては。しかし、俺の言葉にグレンノルトは「もう考えてあります」と言った。

「実は、この拠点の大体の構造が分かりました。一番奥が攫ってきた人間を置いておく場所、そして人攫いたちが使う部屋がいくつかあり、そして、商品を売るための言わば、売買の場が一番手前に位置しています。先ほどまでいた、あの部屋ですね」
「じゃあ、あの部屋を抜けることができれば、外に出られるんですか!」

 俺がそう聞くと、グレンノルトが「残念ながら少し問題があります」と言って首を横に振った。

「跳ね橋が架かっているのです。普段はその橋は上げられ、自分たちや客が渡るときにしか下げません。ここから脱出するには、まず跳ね橋を上げる必要があります」
「な、なるほど……跳ね橋ですか。因みに、その跳ね橋を渡らずに逃げる方法は……?」
「ないと考えて良いでしょう。おそらくこの拠点は渓谷に囲まれています。渓谷を超える術がない今、跳ね橋を渡らない脱出方法はないと考えます」 

 彼が言うには、地震かなにかで地面が割れ、渓谷に囲まれた陸の孤島となったのがこの拠点と言うことだった。

「それは……結構、絶望的ですね」

 脱出する道は一つのみ。人攫いたちはそれをよく分かっているから、きっと今頃は人数を増やし、ネズミ一匹逃げ出せないような布陣を整えているだろう。それならば、さっき、無理してでも通った方が良かったんじゃ……そんな俺の考えが分かったのか、「さきほどは跳ね橋が上がっていました。あのまま向こうに逃げていたら、結局すぐに捕まっていたはずです」とグレンノルトは教えてくれた。

「そうだったんですか……あ、でも脱出方法は考えてあるって」

 俺がそう尋ねると、グレンノルトは「はい、すでに考えてあります」と言って頷いた。流石だ。俺があの男の指示に従って、大人しく服を着て化粧されていた時間で、どれだけの仕事をこなしているんだ。

「おそらく、跳ね橋を操作するレバーは人攫いたちが使う部屋の近くにあるはずです。そこで……2手に分かれましょう、トウセイ様」

 薄暗い部屋の中、グレンノルトはそう俺に提案した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

弟は僕の名前を知らないらしい。

いちの瀬
BL
ずっと、居ないものとして扱われてきた。 父にも、母にも、弟にさえも。 そう思っていたけど、まず弟は僕の存在を知らなかったみたいだ。 シリアスかと思いきやガチガチのただのほのぼの男子高校生の戯れです。 BLなのかもわからないような男子高校生のふざけあいが苦手な方はご遠慮ください。

消えたいと願ったら、猫になってました。

15
BL
親友に恋をした。 告げるつもりはなかったのにひょんなことからバレて、玉砕。 消えたい…そう呟いた時どこからか「おっけ〜」と呑気な声が聞こえてきて、え?と思った時には猫になっていた。 …え? 消えたいとは言ったけど猫になりたいなんて言ってません! 「大丈夫、戻る方法はあるから」 「それって?」 「それはーーー」 猫ライフ、満喫します。 こちら息抜きで書いているため、亀更新になります。 するっと終わる(かもしれない)予定です。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

主人公は俺狙い?!

suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。 容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。 だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。 朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。 15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。 学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。 彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。 そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、 面倒事、それもBL(多分)とか無理!! そう考え近づかないようにしていた。 そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。 ハプニングだらけの学園生活! BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息 ※文章うるさいです ※背後注意

今世では誰かに手を取って貰いたい

朝山みどり
BL
ノエル・レイフォードは魔力がないと言うことで、家族や使用人から蔑まれて暮らしていた。 ある日、妹のプリシラに突き飛ばされて、頭を打ち前世のことを思い出し、魔法を使えるようになった。 ただ、戦争の英雄だった前世とは持っている魔法が違っていた。 そんなある日、喧嘩した国同士で、結婚式をあげるように帝国の王妃が命令をだした。 選ばれたノエルは敵国へ旅立った。そこで待っていた男とその日のうちに婚姻した。思いがけず男は優しかった。 だが、男は翌朝、隣国との国境紛争を解決しようと家を出た。 男がいなくなった途端、ノエルは冷遇された。覚悟していたノエルは耐えられたが、とんでもないことを知らされて逃げ出した。

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

囚われた元王は逃げ出せない

スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた そうあの日までは 忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに なんで俺にこんな事を 「国王でないならもう俺のものだ」 「僕をあなたの側にずっといさせて」 「君のいない人生は生きられない」 「私の国の王妃にならないか」 いやいや、みんな何いってんの?

処理中です...