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44 陸の孤島
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しばらく走った後、俺たちは鍵の開いている部屋に入った。少し埃っぽいが、中には誰もいない。息を整えるくらいはできるだろう。
「グレン! あ、いや……いえ、グレンノルト様。助けてくれてありがとうございます」
「……こうなったのは、私の落ち度ですから。そのような言葉は……」
「それでも助けてくれたことのお礼くらい言わせてください。傷は大丈夫ですか?」
「はい、傷は深くありません」
確かに、見る限り傷はそこまで深くなさそうだ。俺は良かったと、ほっと息を吐く。グレンノルトが俺に「あなたこそ、怪我は?」と尋ね、俺は「一つもありません」と言って頷いた。
「その服はどうしたんですか?」
「えっと……少し、拝借しました」
「服が置いてある部屋があったんですね! 俺も似たような部屋で、この服に着替えさせられました」
「その際、奴から何かされませんでしたか?」
グレンノルトが、勢いよく顔を上げてそう聞いてきた。「何か」と言われても……特にされたことはない。俺は素直にそう答える。グレンノルトは安心した表情で「そうですか」と言って微笑んだ。
「次は脱出方法を考えなきゃですね」
さっきから、外が騒がしい。きっと人攫いたちが逃げ出した俺たちを探しているんだろう。奴らに見つかる前に、外に脱出する方法を考えなくては。しかし、俺の言葉にグレンノルトは「もう考えてあります」と言った。
「実は、この拠点の大体の構造が分かりました。一番奥が攫ってきた人間を置いておく場所、そして人攫いたちが使う部屋がいくつかあり、そして、商品を売るための言わば、売買の場が一番手前に位置しています。先ほどまでいた、あの部屋ですね」
「じゃあ、あの部屋を抜けることができれば、外に出られるんですか!」
俺がそう聞くと、グレンノルトが「残念ながら少し問題があります」と言って首を横に振った。
「跳ね橋が架かっているのです。普段はその橋は上げられ、自分たちや客が渡るときにしか下げません。ここから脱出するには、まず跳ね橋を上げる必要があります」
「な、なるほど……跳ね橋ですか。因みに、その跳ね橋を渡らずに逃げる方法は……?」
「ないと考えて良いでしょう。おそらくこの拠点は渓谷に囲まれています。渓谷を超える術がない今、跳ね橋を渡らない脱出方法はないと考えます」
彼が言うには、地震かなにかで地面が割れ、渓谷に囲まれた陸の孤島となったのがこの拠点と言うことだった。
「それは……結構、絶望的ですね」
脱出する道は一つのみ。人攫いたちはそれをよく分かっているから、きっと今頃は人数を増やし、ネズミ一匹逃げ出せないような布陣を整えているだろう。それならば、さっき、無理してでも通った方が良かったんじゃ……そんな俺の考えが分かったのか、「さきほどは跳ね橋が上がっていました。あのまま向こうに逃げていたら、結局すぐに捕まっていたはずです」とグレンノルトは教えてくれた。
「そうだったんですか……あ、でも脱出方法は考えてあるって」
俺がそう尋ねると、グレンノルトは「はい、すでに考えてあります」と言って頷いた。流石だ。俺があの男の指示に従って、大人しく服を着て化粧されていた時間で、どれだけの仕事をこなしているんだ。
「おそらく、跳ね橋を操作するレバーは人攫いたちが使う部屋の近くにあるはずです。そこで……2手に分かれましょう、トウセイ様」
薄暗い部屋の中、グレンノルトはそう俺に提案した。
「グレン! あ、いや……いえ、グレンノルト様。助けてくれてありがとうございます」
「……こうなったのは、私の落ち度ですから。そのような言葉は……」
「それでも助けてくれたことのお礼くらい言わせてください。傷は大丈夫ですか?」
「はい、傷は深くありません」
確かに、見る限り傷はそこまで深くなさそうだ。俺は良かったと、ほっと息を吐く。グレンノルトが俺に「あなたこそ、怪我は?」と尋ね、俺は「一つもありません」と言って頷いた。
「その服はどうしたんですか?」
「えっと……少し、拝借しました」
「服が置いてある部屋があったんですね! 俺も似たような部屋で、この服に着替えさせられました」
「その際、奴から何かされませんでしたか?」
グレンノルトが、勢いよく顔を上げてそう聞いてきた。「何か」と言われても……特にされたことはない。俺は素直にそう答える。グレンノルトは安心した表情で「そうですか」と言って微笑んだ。
「次は脱出方法を考えなきゃですね」
さっきから、外が騒がしい。きっと人攫いたちが逃げ出した俺たちを探しているんだろう。奴らに見つかる前に、外に脱出する方法を考えなくては。しかし、俺の言葉にグレンノルトは「もう考えてあります」と言った。
「実は、この拠点の大体の構造が分かりました。一番奥が攫ってきた人間を置いておく場所、そして人攫いたちが使う部屋がいくつかあり、そして、商品を売るための言わば、売買の場が一番手前に位置しています。先ほどまでいた、あの部屋ですね」
「じゃあ、あの部屋を抜けることができれば、外に出られるんですか!」
俺がそう聞くと、グレンノルトが「残念ながら少し問題があります」と言って首を横に振った。
「跳ね橋が架かっているのです。普段はその橋は上げられ、自分たちや客が渡るときにしか下げません。ここから脱出するには、まず跳ね橋を上げる必要があります」
「な、なるほど……跳ね橋ですか。因みに、その跳ね橋を渡らずに逃げる方法は……?」
「ないと考えて良いでしょう。おそらくこの拠点は渓谷に囲まれています。渓谷を超える術がない今、跳ね橋を渡らない脱出方法はないと考えます」
彼が言うには、地震かなにかで地面が割れ、渓谷に囲まれた陸の孤島となったのがこの拠点と言うことだった。
「それは……結構、絶望的ですね」
脱出する道は一つのみ。人攫いたちはそれをよく分かっているから、きっと今頃は人数を増やし、ネズミ一匹逃げ出せないような布陣を整えているだろう。それならば、さっき、無理してでも通った方が良かったんじゃ……そんな俺の考えが分かったのか、「さきほどは跳ね橋が上がっていました。あのまま向こうに逃げていたら、結局すぐに捕まっていたはずです」とグレンノルトは教えてくれた。
「そうだったんですか……あ、でも脱出方法は考えてあるって」
俺がそう尋ねると、グレンノルトは「はい、すでに考えてあります」と言って頷いた。流石だ。俺があの男の指示に従って、大人しく服を着て化粧されていた時間で、どれだけの仕事をこなしているんだ。
「おそらく、跳ね橋を操作するレバーは人攫いたちが使う部屋の近くにあるはずです。そこで……2手に分かれましょう、トウセイ様」
薄暗い部屋の中、グレンノルトはそう俺に提案した。
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