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28 小さな目標
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異世界に来てから1週間が経過した。今日も俺は、予定のない平穏な時間を城と言う特殊な環境で過ごしている。しかし、予定がないと言っても暇と言うわけではない。なぜなら___
(よ、読める! 絵本が読める!)
久々の「読書」を楽しんでいたからである。
*
「失礼します、トウセイ様。あ! その本、読んでいてくれたんですね!」
コンコンコンと扉をノックし、メイドのアリシアが部屋に入って来る。そして俺の持っている本を見て、そう彼女ははしゃいだ。
「はい。ようやく読めました。これ、ドラゴンに姫が攫われる話じゃなくて、王子の友だちのドラゴンが姫に告白する話だったんですね!」
アリシアは「正解です」とクスクスと笑いながら言った。勉強会の後、俺が行ったのは「辞書作り」だった。英語の”ABC”を日本語の「あいうえお」に置き換えることができないように、この世界の文字を日本語に置き換えることはできなかった。ならばと考えたことは、自分だけの英和辞典ならぬ異世界和辞典を作ろうと言うことである。グレンノルトやアリシアの協力を仰ぎながらなんとか辞書を作り、今は作成中の辞書を片手にアリシアが貸してくれた絵本を読んでいる最中だった。
「まったく、悪いドラゴンがお姫様を攫って食べる絵本だとか言い出したときは、本当に驚きました」
「だって、挿絵だけ見るとほんとうにそうだと思ったんです! ほら、この挿絵とか王子の元から姫を連れ去っているようにしか」
「そこは、ドラゴンが姫をデートに連れて行っているところです! 王子様は温かく見送っているんです!」
絵本とはいえ、分からないものを理解しようとしたのはすごく面白かった。これが勉強する楽しさかと浸っていると、アリシアが本を一冊渡して来た。
「これは……?」
「次の本ですよ。これも私が読んでいたものです」
「絵がない……! 文字数もページ数も、多すぎます!」
「絵本を基準にしたらそうですよ。因みにグレンノルト様もこれくらい読めなきゃって言ってましたよ。ほら、辞書作り手伝いますから」
「くっ……」
俺はしぶしぶ頷いた。グレンノルトがそう言ったなら仕方がない。早くこの世界の文字をマスターできるよう、泣き言も言ってられないか。俺は彼女に単語の意味を聞きながら、辞書に書き記していった。
「そういえば、グレンノルト様とどんな感じですか?」
「どんな感じかですか? 良くしてもらってますけど……4回目の勉強会が昨日あるはずだったんですけど、予言に関して何かあったらしくて。延期になったのは……まあ、残念でした」
アリシアがにまにまとした表情で見てくるが無視だ。俺は無心で辞書を書いていく。勉強会は、俺にとってすごく楽しい時間だった。グレンノルトの説明は分かりやすいし、説明の合間に話すのも面白い。特に騎士団の話が俺は好きだった。
「じゃあ、次会ったときにグレンノルト様を驚かせましょう! もう、絵のない本も読めるようになったって」
「ははっ、良いですね。でも驚くかな……それくらいできて当然とか思われたり」
「驚きますよ! この本は私が10歳の時に読んだ本ですよ。トウセイ様はこの世界に来てまだ1週間、つまり生後1週間みたいなものなんですから」
「世界に来て1週間と生後1週間は違うと思います」
結局この後すぐ俺の部屋にグレンノルトが訪れた。予言の調査が早く終わったと言うことだった。本を読み切ることはできず、グレンノルトを驚かせることもできなかったけど、もうちょっと勉強を頑張って彼を驚かせるのも良いかもしれない。そう、俺は心の中で考えた。
(よ、読める! 絵本が読める!)
久々の「読書」を楽しんでいたからである。
*
「失礼します、トウセイ様。あ! その本、読んでいてくれたんですね!」
コンコンコンと扉をノックし、メイドのアリシアが部屋に入って来る。そして俺の持っている本を見て、そう彼女ははしゃいだ。
「はい。ようやく読めました。これ、ドラゴンに姫が攫われる話じゃなくて、王子の友だちのドラゴンが姫に告白する話だったんですね!」
アリシアは「正解です」とクスクスと笑いながら言った。勉強会の後、俺が行ったのは「辞書作り」だった。英語の”ABC”を日本語の「あいうえお」に置き換えることができないように、この世界の文字を日本語に置き換えることはできなかった。ならばと考えたことは、自分だけの英和辞典ならぬ異世界和辞典を作ろうと言うことである。グレンノルトやアリシアの協力を仰ぎながらなんとか辞書を作り、今は作成中の辞書を片手にアリシアが貸してくれた絵本を読んでいる最中だった。
「まったく、悪いドラゴンがお姫様を攫って食べる絵本だとか言い出したときは、本当に驚きました」
「だって、挿絵だけ見るとほんとうにそうだと思ったんです! ほら、この挿絵とか王子の元から姫を連れ去っているようにしか」
「そこは、ドラゴンが姫をデートに連れて行っているところです! 王子様は温かく見送っているんです!」
絵本とはいえ、分からないものを理解しようとしたのはすごく面白かった。これが勉強する楽しさかと浸っていると、アリシアが本を一冊渡して来た。
「これは……?」
「次の本ですよ。これも私が読んでいたものです」
「絵がない……! 文字数もページ数も、多すぎます!」
「絵本を基準にしたらそうですよ。因みにグレンノルト様もこれくらい読めなきゃって言ってましたよ。ほら、辞書作り手伝いますから」
「くっ……」
俺はしぶしぶ頷いた。グレンノルトがそう言ったなら仕方がない。早くこの世界の文字をマスターできるよう、泣き言も言ってられないか。俺は彼女に単語の意味を聞きながら、辞書に書き記していった。
「そういえば、グレンノルト様とどんな感じですか?」
「どんな感じかですか? 良くしてもらってますけど……4回目の勉強会が昨日あるはずだったんですけど、予言に関して何かあったらしくて。延期になったのは……まあ、残念でした」
アリシアがにまにまとした表情で見てくるが無視だ。俺は無心で辞書を書いていく。勉強会は、俺にとってすごく楽しい時間だった。グレンノルトの説明は分かりやすいし、説明の合間に話すのも面白い。特に騎士団の話が俺は好きだった。
「じゃあ、次会ったときにグレンノルト様を驚かせましょう! もう、絵のない本も読めるようになったって」
「ははっ、良いですね。でも驚くかな……それくらいできて当然とか思われたり」
「驚きますよ! この本は私が10歳の時に読んだ本ですよ。トウセイ様はこの世界に来てまだ1週間、つまり生後1週間みたいなものなんですから」
「世界に来て1週間と生後1週間は違うと思います」
結局この後すぐ俺の部屋にグレンノルトが訪れた。予言の調査が早く終わったと言うことだった。本を読み切ることはできず、グレンノルトを驚かせることもできなかったけど、もうちょっと勉強を頑張って彼を驚かせるのも良いかもしれない。そう、俺は心の中で考えた。
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