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誤解とすり合わせ
しおりを挟む仕事を終えて帰ろうとしたところで騎士団の人間が来ていると同僚に呼ばれる。
エイルが来たかと思ったが、違った。
薄黄色の封筒を持ってきた相手を不躾にも見てしまう。
嫌そうに顔を顰めるけれど、帰ろうとはしない。
一応面識はあるけれど言葉を交わしたことはあまりない彼は獣族で、騎士の一人だ。
エイルの同僚と言った方がアルヴィスには馴染み深い。
とりあえず読めと示される封筒を開ける。
エイルの色を思わせる封筒は封などはされておらず、折りたたまれた便箋は数枚しかない。
わざわざ同僚を介して届けられた手紙に不安を覚えながら便箋を取り出した。
綺麗だが癖のあるエイルの字を読んでいく。
短い手紙はあっという間に読み終えた。
最後まで読んだところで、眉間に寄っていた皺を指で解す。
「結局何も書いてないのと同然なんだが、内容を教えてもらえるだろうか」
そんなことだろうと思ったと呆れた顔を見せる獣族のウォルドに場所を変えるぞと促され部屋を出た。
ウォルドに連れてこられた騎士団の詰め所近くの部屋で話を切り出される。
話を聞きながら疑問が湧いてくる。
ウォルドはアルヴィスの疑念を理解しているようで聞きたいことがあったら言えと言ってくれる。
「なぜ間に入ってくれるんだ?」
正直そういう他人の事情に首を突っ込むのを好むタイプには見えない。
「同僚の頼みだしな。
それに、年少者が種族特有の症状で困ってんなら教えてやんのが年長者ってもんだろ」
獣族なら回数も多いからよっぽど珍しい症状でなければほっといても勝手に理解するんだがな、と面倒そうな顔で溜息を吐いているが協力してくれるのはそういう理由らしい。
種族は違っても、エイルの症状についてわかることがあるから教えてくれると。
エイルが聞きたかったことをウォルドへ伝えエイルの状態を聞く。
「まだしばらくは近づかない方がいいだろうな。
何されたかは知らねえが『強引なこと』をされたんだろ?」
『あの夜』を知っているかのような発言にぐっと眉間に皺が寄るが、続く言葉に警戒が緩んだ。
「獣族じゃよくあるからな。
発情期にパートナーとぎくしゃくしてたり仕事で会えなくて突然爆発するってことが」
なるほどと頷きつつある程度察しているんだろうことに気まずさを感じる。
ウォルドの方は全く気にしてないようだ。
本当に獣族の間では珍しいことではないんだろう。
「押し倒されて乗っかられるのが好きでなけりゃ完全に終わるまで顔を合わせない方がいいぜ」
「嫌いではないんだが」
積極的なのはむしろ歓迎する。強引に迫られるのも悪くはなかった。
アルヴィスの言葉にウォルドもそりゃそうだろうなと口の端を釣り上げる。
「でもそれ、言わなきゃ竜族には通じねえぞ。
本気で理性をなくして欲望のままに行為をするのを嫌ってるからな」
正直その感覚はアルヴィスにもわからない。
あんなもん欲望まみれの行為だろうになと吐くウォルドの意見の方が理解できる。
「とりあえず思ったことは全部言え。
話を聞くか聞かないかは相手によるが、同族同士の言わなくてもわかるだろは通じねえから」
言ったところで理解できるかもまた別だと。
面倒くせえと吐き出すウォルドにも思うところがあるのだろう。
礼を言って部屋を出る。
状況を知ったことで気持ちに余裕ができていた。
普段からエイルの様子を気にかけているつもりではあったんだが。
見ているだけではわからないこともあるということだな。
上着の内側へ手紙をしまって歩き出す。
最初呼んだ時はほとんど内容の無い手紙に呆れはしたが、書きたいのがその一言だけだったなら。
口元が緩んでいるのを自覚して息を吐く。
こんなに簡単に喜ばされてることに悔しさもある、が。
それでもただひたすらに愛おしかった。
『アルヴィスへ
突然ごめんね。
今すごく聞きたいことと話したいことがあるんだけれど、
諸事情により会えないんだ。
この手紙を持って行ってくれたウォルドには事情を話してあるから
彼から聞いてくれるかな』
簡素な内容に伝言でも十分じゃないかと思ったのは一瞬だけ。
討伐から帰還したときのことを思い返して便箋を捲って見つけた一言。
『早く会いたい』
隠すというほどでもない言葉にどうしようもなく感情が掻き立てられた。
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