竜族の女騎士は自身の発情期に翻弄される

紗綺

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発情期明け まだしたい人族ともうダメな竜族の攻防

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朝に眠りについた身体は昼前に目が覚めた。
これまでになく長く繋がり何度も達した身体は疲労困憊を訴えている。
ただそれに反して思考はすっきりとしていた。


明日はクルードが帰る日だがエイルは見送りには行かない。
エイルはまだアルヴィスに手を出したことを怒っているし、クルードも完璧に振られた相手に見送りに来てほしいとは思っていないだろう。
使節団の者もエイルが顔を出さない方が気持ちが楽だろうし。
クルードがやったことと発情期にパートナーに手を出された同族の怒りを思えば触らぬ神に祟りなしの心境だろう。
ウォルドから聞いた獣人の話からするとエイルは落ち着いている部類だ。
ちょっとアルヴィスに強引なことをしてしまったけれど、アルヴィスに余計なことを吹き込んだクルードへの対応はむしろ優しかったくらいではないだろうか。

獣族基準と照らし合わせても意味がない気もするが、竜族の基準もよくわからないため、つい聞いた話を基準にしてしまう。
正直あまり興味もないし調べるのも面倒なんだけど、自分の種族に無知であることでアルヴィスや周囲に迷惑をかけることを考えたらそうも言っていられない。
竜族はあまり自分の国を出ないので他国に伝わっている話は少ないけれど、少しずつ得ていくしかない。
なぜか竜族に詳しそうだったウォルドに聞こうとしたらものすごい不機嫌そうな顔で断られた。
本当に竜族となにがあったのだろう。
さすがにそれを聞けるほどエイルは無神経でも鈍感でもない。

眠るアルヴィスを見ても胸がざわつくことはなく、完全に発情期が終わったのを感じる。
発情期が終わったことには安堵の気持ちが大きい。
アルヴィスはああ言ってくれたけれど、エイルは感情的に身体を重ねたことがまだ気にかかっている。
感情がコントロールできないことは恐ろしかった。
もし何か間違ってアルヴィスを傷つけていたらと思うと側にいるのも怖いくらいだ。
次の発情期までに何か対策を考えないと。
知っていることが少なすぎるので手探りになる。

厄介なものだと溜息をつき、鎖骨の辺りを撫でる指先を掴んで止める。
反応を確かめるためだったのかアルヴィスの顔は特別残念には見えない。
でも……。
まだしたいんだろうか。
じっと顔を見る。
青い瞳にとろりと欲が滲む。
その瞳に思い出される昨夜の気配にぞわりとした。
甘みを伴ったものではなく、肌が泡立つような嫌悪感。
身体に現れた拒否感と痺れるような甘い記憶に魅入られた心の乖離に混乱して動けなくなった。

「あ……」

息を漏らすだけで拒否も同意も返せないエイルへゆっくりと顔を近づけるアルヴィス。
唇をなぞる舌先に震えが走る。
そのまま差し込まれる舌の感触はいつもなら陶酔するほど気持ち良いのに肌がぞわぞわした。
突き放したい衝動を、傷つけてはいけないと自制する理性と離れがたい感情が押さえ込む。

されるがままになっていると、しばらく口内を弄んでいたアルヴィスが離れて行った。

「そんなに嫌そうにされるとさすがに思うところがあるな」

苦笑を顔に浮かべたアルヴィスに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
宿っていた色香の消えた瞳が罪悪感を刺激する。

「ごめん……」

触れられたのが嫌だったわけじゃないというのは言い訳だろう。
エイルの身体は完全に嫌がって拒否反応を示していた。
嬉しいと感じてもいたのに、なんて意味がない。
アルヴィスが嫌そうだと感じたのならそうだったのだ。

「完全に発情期が終わったってことだろ。
嬉しいような残念なような気持ちだな」

「……」

残念……。あれだけ好き勝手にしておいて。
いや、何でもないと誤魔化したアルヴィスに呆れの混じった視線を向ける。
そんなにあの夜のエイルが気に入ったのかと若干嫉妬のような妙な気持ちを抱く。
こっちはまだ気にしているのに。
不服そうな顔をしてみせると頭を撫でられる。珍しい動きに目を瞬く。

「触れられるの自体が嫌なわけじゃなさそうだな」

「ああ……、そうだね」

それを確かめるためかと腑に落ちた。
肯定したエイルに顔を近づけて頬にキスを落とす。
色を含まない触れ方だったからか拒否感は湧かない。
それにほっとしてエイルから近づいてキスをする。
親愛を示すような軽いものなら拒否感がないのだなと思っていると、アルヴィスが恨めしそうな目でエイルを見ていた。
どうかしたのかと聞くと、「お前に煽る意図がないのはわかっている」とだけ返って来た。
煽られたのか。それは申し訳ない。
ふと視界に入った興奮の証にはそっと気づかないフリをした。


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