54 / 69
団長&副団長 × アミル
異様な気配
しおりを挟む翌朝町に戻りカイルと合流する。
一晩で動きがあるわけもなく先輩の一人が張り込みを続けている。
数日間はカイルと先輩で交代して張り込みをすると言う。
変化があればまたアミルが報告に行くことになっている。団長たちもしばらくは待機だ。
けれど出るときに注意を促されたのがまたカイルのことだったのはどうなんだろう。団長が心配性なのか、アミルに信用がないのか。
どちらにせよ団長に言われた流されやすいという言葉を否定できないアミルは気を付けますと返すことしかできなかった。
「動きがなければ他の方法を考えるしかないね。
団長たちのこともそうそう誤魔化しておけないから」
カイルの話に意識を戻す。
この町を管轄する騎士団もいずれアミルたちの騎士団が来ていることに気づく。
何日かは現地調査をしていたと言えば乗り切れるが、救援要請を受けておきながらいつまでもここの騎士団と接触しないのは不自然だ。
進展がない状態が続けば騎士団に向かい救援に来たことを伝えて行動を合わせる必要が出てくる。
それはしたくなさそうなカイルに、団長たちだけが顔を出すのではいけないのかと聞くとにやっと口元を吊り上げた。
「意外と悪いこと考えるねアミル」
愉快そうな様子からそれも考えにあったんだなと予想を付ける。
別行動をしていれば本隊と連絡が取れないこともある、それを理由にして団長と接触した後のここの騎士団の動きを見張るとか。
じっとカイルを見ながら今後の動きを予想していく。
カイルが否定をしなかったことから町への潜入が長くなることも視野に入れる。
必要になりそうな物をもっと宿へ運び込んでおこうか。
そんな算段をしているアミルをカイルは楽しそうに見ていた。
朝の気配に目を覚まし、ベッドから身を起こす。
隣のベッドにカイルの姿はない。
夜半に地下室を見張る先輩たちと交代に向かった。
身支度を整え宿を出る。
早朝の静かな町の中を市場に向かって歩く。
張り込みの人員にはアミルは入っていない。経験不足な身を悔しく思う気持ちもあるけれど、妥当な判断だと理解もしている。
アミルの役割は連絡要員とカイルたちが動きやすくなるための補助だ。
こうした買い出しもその一環で、別の宿で休んでいる先輩たちに食事や夜食になる簡易食糧を届けに行く。
先輩が交代に行く前に食事を届けるために足を速める。
市場に入ると賑わい始めの空気が感じられた。
早い時間から働く人のために屋台も出ている。
どこの店で買おうかと見渡し気になった屋台へ向かおうとした瞬間、すれ違った気配に肌が粟立った。
勢いよく振り向いてしまいそうな自分を制してゆっくりと向きを変える。
何に違和感を抱いたのかはっきりと掴めないまま異様な気配を感じた男を眺めた。
手近な店で塊の肉を買った男はそのまま市場を後にする。
その買い物の仕方にも違和感があった。
通常こういった市場では交渉をするのが一般的だ。値段交渉だけでなく、どの部位をどれくらい買いたいかなどを伝え店員に捌いてもらうことは珍しくない。
そういったやり取りを男は一切しなかった。
勿論たまたま希望の品が目に入り買っていった可能性だってあるが……。
感じた気配がアミルに拭えない不審を与えていた。
買い出しを中断し男の後を追う。気のせいならそれでいい。
けれど、あの気配は無視できるものではなかった。
一定の距離を保ったまま男を観察する。
市場から離れた男は商店や工房が立ち並ぶエリアを抜け進んでいく。
このまま行くとカイルたちが見張っている地下室の方角だ。
距離を取って角を曲がると男の姿が消えていた。
まさか気づかれたのかと辺りへ走らせる視線に、地下への階段が目に入る。
この前見つけた地下室とは違う簡素な階段。
一縷の望みをかけて物陰から様子を伺う。
しばらく観察していると、男が階段を上ってきた。
来た道を戻っていく男と地下室、どちらを優先するべきかと迷ったアミルの目に先輩の一人が映る。
魔獣がいる可能性のある場所を見張っていた先輩がここにいる。ならば、この男があの地下室に出入りしている人物ということだ。
先輩がアミルに向かって手振りで地下室を示す。
不審な男の尾行はこのまま先輩が続けると。
肯きを返すと先輩は拳を見せて男の尾行に戻った。
男の方は先輩に任せて地下室に近づく。
側に寄るとぞわりとした気配が強くなった。
懐に忍ばせた小瓶の一つを開け辺りに軽く撒く。
「――!」
薬剤の色が変わり、薄く青を浮かび上がらせる。
間違いない。魔獣が残すマーキングと同じ魔素の痕跡。
ただ色がこの前より薄く、ここに魔獣がいることはなさそうだ。
先輩が追って行った男の行方も気になる。
扉が施錠されていることを確認しその場を離れた。
市場へ戻り手早く買い出しを済ませて宿へ戻る。
戻っていたカイルへ報告をすると目を鋭くし剣呑な気配を纏う。
ようやく事態が動き始めた。
0
お気に入りに追加
235
あなたにおすすめの小説
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
[BL]王の独占、騎士の憂鬱
ざびえる
BL
ちょっとHな身分差ラブストーリー💕
騎士団長のオレオはイケメン君主が好きすぎて、日々悶々と身体をもてあましていた。そんなオレオは、自分の欲望が叶えられる場所があると聞いて…
王様サイド収録の完全版をKindleで販売してます。プロフィールのWebサイトから見れますので、興味がある方は是非ご覧になって下さい
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる