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団長&副団長 × アミル

応援

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 野営地が見えてきた時逸る心に安堵が浮かび、まだ早いと思い直した。
 見張りの先輩に声を掛けて団長の天幕を目指す。

 外から声を掛けると、入れと短く応答があった。

「失礼します」

「アミル、どうした?」

 夜も更けたこんな時間に報告に帰ってきたのだから何かあったと考えるのも自然なことだ。
 報告をと口を開く。

「町中に魔獣がいる可能性あり。
 カイル副団長は残り、魔獣の痕跡のあった場所を見張っています。」

 応援をお願いしますと告げると団長が外へ顔を出し、控えていた先輩へ指示をする。

「とりあえず2人送った。
 詳しい話を聞かせてくれ」

 団長に町中の様子、何を見てカイルが魔獣がいる可能性を口にしたのかなど細かに説明していく。

「鳥型だろうと言うのは調査に送った者からも報告があったし、ほぼ間違いないだろう」

 遠征の準備を整えると共に調査もしていたが原因までは突き止められなかったという。

「マーキングがあったならその時点で生きた状態だったということだ。
 その地下室にまだ魔獣がいるとしたら慎重に行かないとな」

 場合によっては群れを引き寄せてしまう可能性がある。

「張ってどいつがそこに出入りしているのか突き止めたらその地下室の捜索に移る」

 他に何かあったかと聞かれ、少し迷ったけれどカイルに接触した女性のことも話した。
 事件に直接関係はないかもしれないが、女性の交友関係によってはカイルの潜入捜査に支障が出る可能性がある。
 その危険も含めて団長には報告しておく必要を感じた。

「カイルの兄嫁が?」

 はいと頷き女性の様子からまた町中で絡まれる懸念を上げる。
 他にも女性の口から犯人と関係のある誰かへカイルの話が漏れるかもしれない。
 潜入中の騎士であると疑われたら致命的だ。

「それで、カイルの様子はどうだったんだ」

 特に異変はありませんでしたと答えかけ、止まる。
 大笑いするカイルの顔を浮かべた間を訝しんだ団長にどうしたんだと聞かれてしまう。

「大爆笑してました」

「は?」

 女性との会話の一部始終を伝えるとその様子を目に浮かべたのか団長が呆れに眉を寄せた。

「アイツは……。
 まあ仕方ないか」

「団長はあの二人の間にあったことを知っているんですか?」

 カイルは自分のことを話す方ではないのに。
 付き合いの長い団長だから知っているのだろうかと思っていると団長が首を振った。

「噂話程度だ。
 アイツは入団してすぐから目立ってたらしいからな、そうするとやっかみが多くて真偽混じる噂も囁かれる。
 俺が聞いてるのは兄貴とその婚約者が拗れた余波をくらって家を出て騎士団に入ったってところくらいだ」

「そ、うだったんですか」

 あの女性がカイルに言い寄ったせいで家を出ることになったんだろうか。
 そうであれば女性に対する態度にも納得がいく。
 カイルに聞いたわけじゃないがなと言う団長。中々踏み込んで聞ける話でもない。
 ついでにもう一つ聞いてみた。

「そういえばカイルが大笑いしたのは団長と出会ったとき以来だと言っていましたが、何があったんですか?」

 カイルが感情を出して大笑いするなんて非常に珍しいことだ。そんなに心が動くことがあったんだろうか。
 僕の問いに団長が顔を顰めた。

「嫌なことを聞くな」

 そう言いながらも話してくれる。

「俺が団長になったばかりの頃だ、カイルが異動してきたのは。
 俺のところに来た時点ですでにいくつかの隊を異動しててな……」

 年若く騎士団に入り実力もあったため討伐の現場でいくつも成果を挙げていたカイル。それ故に妬まれ危険な任務へ回されたりしていたようだと語る団長に驚きを覚える。
 カイルがそれを黙って受け入れていたことが信じられない。

「その状況でも軽い顔で任務をこなしていたことが余計にそいつらの気に障ったんだろうな」

 どこに行っても結果を出し、異動させられたことも意に介さないカイルの様子が余計にその人たちの反感を買ったという。

 団長が話すには当時のカイルは今よりも冷笑的な態度だったらしい。
 別に表立って反抗的であるとかの問題があるわけではないが、今のカイルからにこやかさを減らした感じだったとか。
 なんとなく近寄りがたい感じだったのは想像できた。

「何度目かの討伐の時だった。
 連携しない、できない戦い方をするなと苦言をしたんだ」

 実力差から連携が難しいことはあるが、それならば自分がフォローをして周りを生かす戦い方を覚えろと。

「自分がやった方が早い、安全だという考えは捨てろとな」

 その一時無事に終わったとしても長い目で見れば騎士団の健全な成長を止める。
 カイルがいるから、カイルに任せておけばいいという者を作るなと。
 団長もカイルをそんな扱い方をする気はないと言ったという。



『俺を使った方が消耗が少ないとしても?』

 そう聞くカイルに部下がそれぞれ自分たちで対応できるように育てるのが俺の仕事だと答えたという団長。

『仲間と連携する方法も学べ。
 騎士団というのはそういうものだ、お前の強さで仲間を生かせば仲間は更にお前の助けになる』

 団長の言葉を聞いた上でカイルは冷笑を浮かべた。
 どうでもいいというように。

『俺が騎士団に期待してるのは死んだら家族に連絡してくれることだけなんで』



 あまりの言いように聞いたアミルは絶句してしまった。
 そんなにひねくれていたなんて。今のカイルからは想像がつかない。

「その言い様につい殴ってしまってな」

「え!?」

 俺も若かったから抑えが聞かなくてなと苦く笑う団長を驚きに満ちた目で見つめる。

「死んでもいいなんて思ってるなら騎士なんて今すぐ止めろと怒った」

 そんな思いで討伐に出るなら足手まといだと本気で怒ったと言う。

『死ぬつもりなんてありませんよ、生きてた方が不愉快でしょうから』そう言って笑ったカイルへ、団長はだったら真面目にやれと告げた。
 騎士になるつもりがなかったのだとしてと、今騎士であるのなら全力を尽くせと。

「そしたらなぜか大笑いだ、意味がわからないだろう?」

 それは意味がわからない。
 当時の団長の困惑が手に取るようにわかる。
 そんなカイルを目の当たりにしたらアミルも同じように困惑に満ちた目で見るだろう。

『真面目にやれとか言われたの初めてです』と笑いの合間から聞こえ、思い切り顔を顰めたら余計にカイルの笑いが収まらなくなったそうだ。

「何をどう解釈したのか今の態度になったわけだが、未だにアイツの中で何の変化があったのかわからん」

 アイツは胸の内を明かさないからなと言う団長だけど、その表情は和らいでいた。
 団長とカイルの間にある信頼感の一端が見えた気分だ。


「それからはお前も知ってる今のカイルだ」

 そんなことがあったんだ。
 当時の二人に思いを馳せていると団長が心配を顔に浮かべる。

「町中で何かされなかったか?
 一応潜入中不測の事態を考えて何もしないと誓わせたんだが」

 アミルに何もしないことを約束させたと思わぬことを言われて目を瞬く。
 あの潜入前の一幕にそんなやり取りがあったらしい。
 心配してくれたお礼を言って大丈夫だと答える。
 アミルの言葉にも団長から心配の色は消えない。

「本当に大丈夫か?
 アイツは人の弱みにつけ混むのが上手いし、お前は流されやすそうだからな……」

 何も否定できなくて俯く。

「責めてるわけじゃない
 ただな……」

 団長が立ち上がりゆっくりとアミルへ手を伸ばす。
 大きな手が頬に触れ、目元から下を撫でた。
 ざらりとした指が肌をなぞるぞわりとした感触に首を竦める。
 ふ、と微かな笑い声が耳に届いた。
 困ったような響きを含むそれに胸が締め付けられる。

「ほら、拒否しないだろう」

 だからカイルにもつけ混まれるんだと言うように頬を軽く引っ張られた。
 全然痛くない優しい手つきに頬が緩む。
 こうして触れられてるのは心地よいし、もっと触っていて欲しいと思ってしまう。
 口にしたら困らせてしまう。だから言葉にはしない。
 黙って見上げるアミルから手を離し、困った奴だと笑った。

「だから放っておけないんだ」

 半ば諦めながらも案じているような表情を浮かべる団長は優しい人だと思う。
 そんなところを見つける度に胸が疼く。
 団長から見たらカイルもアミルも困った部下だろう。
 とりあえずもう休めと言われ頭を下げて天幕を辞する。

 外に出たところで息を吐く。
 触れられていた頬にまだ手の感触が残っている気がする。
 歩きながら聞かせてくれたことを思い返す。
 呆れ、時に怒りながらもカイルを信頼し任せている団長と、からかいながらも団長の苦手な部分をフォローするカイル。気安い態度は甘えと言えなくもない。
 当然ながら二人の間にはアミルにはない関係がある。

 信頼を向けられているカイル、複雑な心の中を理解している団長。
 焦れるようなその感情は、どちらに向いているんだろう。
 自分の天幕に戻って休む。
 思考に疲れた頭は休息を欲していて。
 横になると眠りはすぐに訪れた。


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