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初の討伐任務

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 初の討伐任務。
 多少の緊張はしているものの、魔獣討伐の現場に行くの自体はこれまでにも経験しているので身体が強張るほどでもない。
 先輩からは緊張しちゃダメだと思うと余計に緊張するものだから「なんか俺緊張してるなー」くらいの気持ちでいた方がいいと助言をされている。
 後は他の人を見て気を紛らわせるといいとか。

 先頭を行く団長、副団長を観察する。
 討伐任務を何十回何百回とこなしている二人は当然ながら落ち着いている。
 でも団長の方は今日は少し周囲に向ける警戒が強いような気がした。
 副団長、カイルの方はいつもと全く変わりなく見える。
 あの人は本当にいつ見ても態度が変わらない。
 同じように軽薄で飄々として見えて意外と部下をよく見ていて面倒見も悪くない。
 アミルを責め立てているときはイジワルで執拗だったけれど、それも普段の印象から大きく乖離するものでもないし。
 本当のあの人はどこにいるんだろう。そんなことを考えた自分に笑ってしまう。
 馬鹿なことを考えていたら気持ちも落ち着いてきた。
 丁度魔獣の生息域に付いたので余所事を考えるのを止め魔獣討伐に意識を切り替える。
 森を進み、今回の討伐目標であるヘルラットの住む洞窟までたどり着いた。
 前もって決めていた配置に付き討伐に慣れた先輩たちが洞窟に入っていくのを見守る。
 アミルを含めた隊の任務は魔獣の討ち漏らしが出ないよう包囲し倒すこと。
 弱い忌避剤を周囲に撒いて魔獣が包囲の外に出ないようにする。ごく弱い物でもラットのような魔獣にはよく効く。


 程なくして中での戦闘から逃れてきたヘルラットが洞窟から飛び出してきた。
 隊員の一人が難なく切り伏せるが、中には余程の数がいるのか最初の一匹を皮切りにどんどん出て来る。
 中衛にいるアミルのところにも逃げようと必死の魔獣が攻撃を仕掛けて来る。飛び掛かってきた一匹を払い落しとどめを刺す。
 訓練通りに身体が動くことがアミルに落ち着きを与えていた。

 出て来る魔獣がいなくなり、中での討伐が終わったのかと浅い傷を負った隊員が下がり後背に控えていた者が前に出る。
 アミルもひとつ息を吐き、剣を握り直す。
 その瞬間、背後から悲鳴が聞こえてきた。

「ぐあぁあっ!」

 弾かれたように振り返ると、そこには巨大なフクロウの姿。
 魔獣、ダークアウルがいた。
 好物のラットが大量にいるのを見てやって来たのだろうか。
 爪で腕をやられた隊員が下がりながら剣を投げる。
 羽で起こした風に阻まれ剣は当たらず地面に落ちた。
 ダークアウルの目がぐるりと剣を投げた隊員の方へ向く。
 ――マズイ。

 咄嗟に駆けだしたアミルを制す声と洞窟の中に入って団長たちを呼んで来いと叫ぶ声が聞こえた。
 剣を投げた隊員の前に割り入り音も無く飛び掛かったダークアウルの爪を弾く。

 ――!

 重い……!

 手が痺れそうな一撃に背を冷たいものが走る。
 どう考えても自分の手に余る相手。
 けれど逃げられるとは思わない。
 背を向けた途端、先ほどと同じような斬撃の餌食になるだろう。
 ぐっと腰を落としダークアウルの動きを注視する。
 羽がわずかに広がった。

「……!」

 ほんのわずか羽が動いたと思った瞬間に目の前に迫っていたダークアウルの爪を身を伏せて躱す。
 避けられると思っていなかったのか首だけでアミルを向いたダークアウルがゆっくりと振り向き、羽を大きく広げた――。

 剣を塞いだ風の攻撃が来る――!

「……っ!!」

 わかっていたのに防ぐ術はなく、体重の軽いアミルは簡単に吹き飛ばされ転がった。
 かろうじて離さなかった剣を支えに身を起そうとした時にはダークアウルはもう眼前に迫っていた。

 ――……!

 爪が迫るのがやけにゆっくりと見える。
 せめて羽に傷だけでも付けてやろうと剣を握る手に力を込めた。

 ――……!!!!

 ダークアウルの悲鳴と地面に叩き落とされ大地を削る音が聞こえた。
 何が起こったのか即座には理解ができない。
 腕で身を起こすと、目に入ったのは団長が大剣をダークアウルの羽に突き立てているところだった。

「俺の部下によくもやってくれたな?」

 淡々とした声に抑えきれない怒りを感じて身震いする。
 絶対的な強者に対する恐怖。
 傍から見ていても肌で感じる恐ろしさを間近で感じたダークアウルは必死に羽を羽ばたかせる。
 しかし団長がそれを許すはずもなく、突き立てられた大剣でダークアウルは絶命した。

「アミル、大丈夫か?」

 倒れていた僕へ団長が振り向く。

「団長っ――!」

 団長の背後に迫る黒い影に声を上げる。
 もう一羽現れたダークアウルに僕が危険を叫ぶより――。

 ――パンッ!と軽い音を立てダークアウルの首が飛ぶ方が早かった。

 首を無くしたダークアウルの巨体が遅れて地面を揺らす。
 先ほど以上に何が起こったのか理解ができない。

「あーあ。
 団長油断しすぎじゃないですか?」

 緊迫感なんて全く感じられない声でカイルが現れた。
 いつもの調子のカイルに団長が眉を寄せる。

「あんなもの避けられないわけがないだろう。
 お前こそ随分早く出てきたじゃないか、他の奴らを置いてきたのか?」

 そんなわけないでしょと肩をすくめるカイルを余所に団長は率いていた隊員に負傷者の確認と治療を命じている。
 カイルと一緒だった隊員は中で後始末をしているようだ。
 アミルも負傷者に振り分けられて治療を受ける。
 目立った傷はなさそうだと思っていたけれど吹き飛ばされた時に打ち身と擦り傷を作っていた。
 初討伐任務でダークアウルに襲われてこんな傷で済んだなんて運が良かったなと治療班の先輩に言われる。
 本当にその通りだと思う。
 今さらになって恐怖が戻ってきたかのように手が震えていた。
 ――けれど。

 生き残った――。
 その高揚の方を強く感じていた。






【共通ルート 終了】

 ◇ ルート分岐 ◇

【団長ルート】 次話「嫌悪にまみれた自覚」へ
【副団長ルート】 次章「気遣いのような忠言」へ
【団長&副団長ルート】 次々章「憧れずにはいられない」へ


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