上 下
13 / 69
共通ルート

気になってしまう

しおりを挟む
 

『そんなに気になるなら訓練を見に行ってみればいいじゃないですか』

 カイルの言葉に従って来てみたはいいものの、すぐに何人かの部下に囲まれてしまった。
 手合わせは後ですると言って全体の様子を見渡す。
 アミルの姿はすぐに見つかった。
 成長が遅いのか他の団員よりも頭一つ背の低いアミルは短めの剣を構え先輩団員相手に稽古をしていた。
 どうも見た目のせいか気になってしまう。
 カイルに抱かれ泣いている姿を見たから余計にだろうか。
 抱きこまれた腕の中で身を震わせ泣き叫ぶ姿は見ていられないほど幼く庇護欲を誘うものだった。
 あいつも成人した男のはずなんだが。
 つい思い出していた場面を頭から追い出して訓練の様子を見る。

 構えた相手に懸命にかかっていくアミルは対戦相手をよく見ながら剣を振るっている。
 カイルの言う通り、剣の技量も悪くない。
 体格のせいか膂力りょりょくはまだ鍛える必要があるが、ラット相手に苦戦することもなさそうだ。
 剣を弾かれそうになったが堪えて体勢を整える。
 そのまま剣を振ろうとしたところで相手に剣を突き付けられ稽古が終了する。対戦相手からの助言を真剣な顔で聞く姿を見ていると良い騎士になりそうだと思った。
 いくら実力があろうとも素直さのない者は伸びない。
 一部の例外を除いては、だが。
 例外カイルの顔を思い返して苦い気持ちになる。
 あいつが時々部下を喰っているのは知っていたが、あんな強引な抱き方をする関係が本当に合意なのかと考えてしまう。
 アミルからも合意の上だと言われてしまったので俺にできることは何もないのだが。
 カイルに再度確認したら『ああいうプレイですよ』と嗤っていた。あの顔からすると完全に合意でもない灰色の部分がありそうだと感じていた。

 待っていた部下から催促を受けたので剣を取って向かい合う。
 掛かって来いと緩く構えると気迫も露に襲い掛かって来た。
 振り下ろされた剣を弾き、軽く突きを入れる。
 仰け反った部下が切っ先を躱したことで崩れた体勢を直す前に剣を薙ぐ。持っていた剣でかろうじて防いだ部下が大きく後ろに後退する。
 その後も何度か打ち込みをするが一度も当てられず降参した。

 何人かの相手を終えて、もう他に希望者はいないかと見回していた視線がアミルとバチッと合ってしまう。
 そのまま視線を流せばよかったのに止まってしまったことで団員の一人がアミルも相手してもらえよと声をかける。
 躊躇っていたアミルだが再度促されて俺の前に進み出た。
 先ほどとは違い双剣を手にしているアミルに問うような目を向けるとこれから主に使っていこうと思っている得物だという。

「まだ未熟ではありますが、せっかくの機会ですのでこちらの得物でお相手をお願い致します」

 咎めた訳じゃないのに丁重な説明をされて若干顔が強張る。
 カイルには砕けた様子なのになぜ俺にこんな硬質な態度を取るんだ。

「得物はなんでも構わない。
 好きな物を使うといい」

 大抵の得物とは対戦したことがある。双剣というのは珍しいがいないわけではないし、皆自分に合う武器を求めて一通りは試すものだからな。

「では、よろしくお願いします」

 律儀に頭を下げて構えを取るアミルの目が俺を捉える。
 踏み出す直前、目つきが変わった。

 体格から重い攻撃を繰り出せないのはわかっているようで大きく剣を振るうことはない。
 しかし確実に手足や急所を狙う動きは魔獣討伐に参加する騎士ならではのものだった。
 時折繰り出される突きはまだ磨く余地があるものの十分素早く、反応できない魔獣もいるだろうと思わせた。
 頼りなげだった部下がしっかりと実力をつけてきていることに喜びを感じる。
 真っ直ぐに俺を見て持てる力をぶつけてくるアミルは普段の遠慮がちな様子が嘘のように戦士の顔をしていた。


 ここまでにするかと声を掛けると姿勢を正したアミルが礼を取って手合わせへの謝意を表す。

「その調子なら初討伐でも下手なことにはならないだろう、気合入れていけよ」

「はいっ!」

 嬉しそうに返事を返すアミルに表情が緩む。
 素直で努力家な部下は可愛いものだ。
 それだけの単純な気持ちで接せられないのは、俺の問題だった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

「優秀で美青年な友人の精液を飲むと頭が良くなってイケメンになれるらしい」ので、友人にお願いしてみた。

和泉奏
BL
頭も良くて美青年な完璧男な友人から液を搾取する話。

黒に染まる

曙なつき
BL
“ライシャ事変”に巻き込まれ、命を落としたとされる美貌の前神官長のルーディス。 その親友の騎士団長ヴェルディは、彼の死後、長い間その死に囚われていた。 事変から一年後、神殿前に、一人の赤子が捨てられていた。 不吉な黒髪に黒い瞳の少年は、ルースと名付けられ、見習い神官として育てられることになった。 ※疫病が流行るシーンがあります。時節柄、トラウマがある方はご注意ください。

処理中です...