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気になってしまう
しおりを挟む『そんなに気になるなら訓練を見に行ってみればいいじゃないですか』
カイルの言葉に従って来てみたはいいものの、すぐに何人かの部下に囲まれてしまった。
手合わせは後ですると言って全体の様子を見渡す。
アミルの姿はすぐに見つかった。
成長が遅いのか他の団員よりも頭一つ背の低いアミルは短めの剣を構え先輩団員相手に稽古をしていた。
どうも見た目のせいか気になってしまう。
カイルに抱かれ泣いている姿を見たから余計にだろうか。
抱きこまれた腕の中で身を震わせ泣き叫ぶ姿は見ていられないほど幼く庇護欲を誘うものだった。
あいつも成人した男のはずなんだが。
つい思い出していた場面を頭から追い出して訓練の様子を見る。
構えた相手に懸命にかかっていくアミルは対戦相手をよく見ながら剣を振るっている。
カイルの言う通り、剣の技量も悪くない。
体格のせいか膂力はまだ鍛える必要があるが、ラット相手に苦戦することもなさそうだ。
剣を弾かれそうになったが堪えて体勢を整える。
そのまま剣を振ろうとしたところで相手に剣を突き付けられ稽古が終了する。対戦相手からの助言を真剣な顔で聞く姿を見ていると良い騎士になりそうだと思った。
いくら実力があろうとも素直さのない者は伸びない。
一部の例外を除いては、だが。
例外の顔を思い返して苦い気持ちになる。
あいつが時々部下を喰っているのは知っていたが、あんな強引な抱き方をする関係が本当に合意なのかと考えてしまう。
アミルからも合意の上だと言われてしまったので俺にできることは何もないのだが。
カイルに再度確認したら『ああいうプレイですよ』と嗤っていた。あの顔からすると完全に合意でもない灰色の部分がありそうだと感じていた。
待っていた部下から催促を受けたので剣を取って向かい合う。
掛かって来いと緩く構えると気迫も露に襲い掛かって来た。
振り下ろされた剣を弾き、軽く突きを入れる。
仰け反った部下が切っ先を躱したことで崩れた体勢を直す前に剣を薙ぐ。持っていた剣でかろうじて防いだ部下が大きく後ろに後退する。
その後も何度か打ち込みをするが一度も当てられず降参した。
何人かの相手を終えて、もう他に希望者はいないかと見回していた視線がアミルとバチッと合ってしまう。
そのまま視線を流せばよかったのに止まってしまったことで団員の一人がアミルも相手してもらえよと声をかける。
躊躇っていたアミルだが再度促されて俺の前に進み出た。
先ほどとは違い双剣を手にしているアミルに問うような目を向けるとこれから主に使っていこうと思っている得物だという。
「まだ未熟ではありますが、せっかくの機会ですのでこちらの得物でお相手をお願い致します」
咎めた訳じゃないのに丁重な説明をされて若干顔が強張る。
カイルには砕けた様子なのになぜ俺にこんな硬質な態度を取るんだ。
「得物はなんでも構わない。
好きな物を使うといい」
大抵の得物とは対戦したことがある。双剣というのは珍しいがいないわけではないし、皆自分に合う武器を求めて一通りは試すものだからな。
「では、よろしくお願いします」
律儀に頭を下げて構えを取るアミルの目が俺を捉える。
踏み出す直前、目つきが変わった。
体格から重い攻撃を繰り出せないのはわかっているようで大きく剣を振るうことはない。
しかし確実に手足や急所を狙う動きは魔獣討伐に参加する騎士ならではのものだった。
時折繰り出される突きはまだ磨く余地があるものの十分素早く、反応できない魔獣もいるだろうと思わせた。
頼りなげだった部下がしっかりと実力をつけてきていることに喜びを感じる。
真っ直ぐに俺を見て持てる力をぶつけてくるアミルは普段の遠慮がちな様子が嘘のように戦士の顔をしていた。
ここまでにするかと声を掛けると姿勢を正したアミルが礼を取って手合わせへの謝意を表す。
「その調子なら初討伐でも下手なことにはならないだろう、気合入れていけよ」
「はいっ!」
嬉しそうに返事を返すアミルに表情が緩む。
素直で努力家な部下は可愛いものだ。
それだけの単純な気持ちで接せられないのは、俺の問題だった。
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