政略結婚相手に本命がいるようなので婚約解消しようと思います。

ゆいまる

文字の大きさ
上 下
13 / 16
side ハスライト

5.1

しおりを挟む
ギチギチと締め上げているとルノさんにスポッと奪われてしまった。

「イジメは駄目だよシーナ、こんなに可愛いのに可哀想じゃないか」

助けられて嬉しそうにルノさんの手の上で跳ねている。

「可愛くないっ!!どうしてルノさんがそれを持っているんですか!!」

ルノさんの手の上に乗っかっている物、それはレイニート様に渡したはずの俺の人形だ。
特に何の効果もなかったから渡したのになんで喋ってんだよ!!しかも……しかも……こっ恥ずかしい!!

「レイニート様がくれたんだ。シーナが神に連れて行かれた時、この子がずっと俺を抑えてくれてたから」

レイニート様が抑えてくれていたと思ってレイニート様凄いと見直していたのに違ったのか。しかしレイニート様に渡した時も喋りも動きもしなかったのに……。

「シーナがドラゴンステーキを幸せそうに食べていたからこの子も食べるかと思ったけど……食事はしないみたいだな」

所詮人形ですからね。

『ルノさんの気持ちだけでお腹いっぱい、満たされます!!』

ルノさんの手から人形を奪い取ると収納鞄に収納した。永遠に肥やしとして生きていろ。

勝手に奪って怒られるかと思ったけどルノさんの態度は変わらない。

「可愛がってあげてくれ」

自分の人形を可愛がる趣味は無いので受け流したけど……ルノさんは可愛がってくれていたわけではないんだな。

十分堪能したドラゴンステーキを収納袋へしまい、コンロや食器を布巾で拭いて片付けた。

「お腹も膨れたし、もう寝ますか?」

「そうだね。今日はいっぱい叫んで疲れただろう?ゆっくり休もう」

テントを取り出して組み立てる。
お手製にしたおかげで寝心地は上がったし、隠密効果もついてテントの中にいると魔物から気付かれないので見張りも必要なく、ゆっくり休める様になった。

「1番の目的は達成できたから……次は……」

「1度詰所に戻りませんか?隊長や皆にもドラゴンステーキ食べてもらいたい……あ!!でも狩ったのはルノさんだから、ルノさんが駄目って言うなら、いいんですけど」

1番の理由はベッドが恋しい、だけど。

ーーーーーー

それから数日かけて全ての魔物をルノさんが瞬殺してイージーモードで詰所に戻り、懐かしの我が家よと詰所の入り口を潜った俺達を待っていたのは……。

「あ?もう帰って来たのかよ。早過ぎだろ……もっとゆっくりしてくりゃいいものを……」

という隊長の歓迎ムード皆無の言葉とどこかよそよそしい隊員達の態度と……家財道具が全て無くなったルノさんの部屋だった。

俺達の居場所が……無くなっていた。

からっぽの部屋を見て愕然とする俺に困った様に隊長は頭を掻きながら俺の肩を叩いた。

「あのな「どういう事ですか!?ルノさんは除隊扱いにはならないって言ってたじゃないですか!!」

「待て、待てっ!!説明するから泣くな!!」

ここは俺の居場所で皆も俺を受け入れてくれているんだと思ってた。皆大好きな家族だと思ってたのに……。

「神様の家まで押し掛けて俺を引き止めてくれたのにいきなり追い出すとか酷い!!邪魔なら邪魔だってはっきり言ってくれたら良かったんだ!!皆がドラゴン肉を食べる姿を想像して楽しみにしながら帰ってきたのに……」

隊長の胸を何度も叩くけど俺の手が痛いだけで隊長には何も伝わらないだろう。

「落ち着きたまえ。君はもう少し自分がどれだけ危険な存在か認識した方が良い」

後ろから脇の下に手を入れられて、体を持ち上げられた。

「レイニート様?」

「ルノルトスも、二人で旅をして多少の絆でも繋げてくるかと思ったが何も成長はして来なかった様だな」

レイニート様は俺の剣を抜いてルノさんに突き付けていた。

「シーナ君、君は言っても聞かないだろうから、君達が居ない間に勝手に事を進めさせて貰っていた。君の家を用意していたんだ……まさかこんなに早く帰ってくるとは思わなかったからまだ準備段階だがな」

「家なんて……俺の家はここだし、俺の為にルノさんまで……」

「そう言うと思ったから勝手に進めた。ルノルトスもついてきたまえ、君達の家に案内しよう」

そう言うと、反論は許さないという表情のまま、俺を小脇に抱えてレイニート様は詰所を後にした。

俺のせいでルノさんが……そこを自覚した行動をするか、ルノさんの心に余裕が持てる関係を築け等、チクチクと説教を受けながら北区を抜け……中央区を抜けて、西区へ入る。

「シーナ君……神のお告げにより隊員達は自分の道を歩き出そうとしている。警備隊を除隊する者……新たに派遣されてくる者……君にとって居心地の良かっただろう詰所がこの先も続くかは分からない……君の為にも皆の為にも、いつでも歩き出せる新たな道を用意しておくべきだとは思わないか」

畑の中にポツンと建った一軒家。
この街のどの建物とも違う、だけど俺にはどこか懐かしい感じのする雰囲気の木造建築。

「レイニート様……この家は……」

「どんな家にするか考えていた時、神託が下った……全く、石なら魔法で一瞬だったのに、神に愛されている者は厄介だ」

引き戸を開けたレイニート様に連れられて中に入る。
田舎の……随分古風な家だが日本家屋はやはり馴染みやすい。

「キッチンの設備辺りが神託で告げられた物の再現が難しくて上手くいってないんだが、もう住むには問題無い」

靴のまま上がろうとしたレイニート様を慌てて止めた。

「靴を脱ぐのか。やはりこの家はシーナ君の為だけに神が告げてきたものなんだな」

レイニート様に床の上に降ろされ、玄関で靴を脱いで室内に上がるとレイニート様とルノさんも同じ様に靴を脱いだ。

側にあった障子を開けると畳っぽい床の部屋だ。
微妙に畳とは違うけど、ここまで再現してくれたんだ。

「レイニート様、ありがとうございます」

「お礼を言うなら皆にもな。皆で知恵を出し合って作ったんだ……ルノルトス、お前もだ。皆お前の事も思い計画したんだ」

レイニート様の言葉にルノさんは深く頭を下げた。

「俺……勝手に追い出されたと思って隊長責めた……」
「あれぐらいで怒る人ではないよ。隊長にとっては子どもにぐずられたぐらいにしか思ってないだろう」

俺が気にしないように気遣ってくれているんだろうけど、相変わらず一言余計だ。
ルノさんにあの人形を渡した事は俺の胸の中にしまって置く事にした。

「今頃まだ、誰が詰所の留守番をするか揉めている頃だろう。騒がしくなる前に家の中を二人で見ておくが良い」

俺とルノさんを残してレイニート様は家を出て行った。

残された俺とルノさん。
何も喋らないルノさんを見上げた。

「なんかいろいろ話が急に進んじゃってて……ルノさんは良かったんですか?」

「俺はシーナと一緒にいられるなら、どこでだって……いや……シーナとこの場所で新しい生活を初められるなんて幸せだよ。ここは俺にとって大切な場所だから……」

本当に嬉しそうな、少し潤んだ瞳のルノさんに俺も笑顔を返した。

ルノさんにとって大切な場所、それは……。

「シーナと出会えた大切な場所だ」

そう……俺が熊に齧られた場所ですね。
俺にとっては呪いの地だけど……こんな笑顔を向けられたら笑うしかないよね。

ここからまた、俺の新たな生活が始まる。

宝物の様に抱き締められ、近付いた頬にそっと唇で触れた。

よろしくお願いしますと、ありったけの想いを込めて……。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

夫と親友が、私に隠れて抱き合っていました ~2人の幸せのため、黙って身を引こうと思います~

小倉みち
恋愛
 元侯爵令嬢のティアナは、幼馴染のジェフリーの元へ嫁ぎ、穏やかな日々を過ごしていた。  激しい恋愛関係の末に結婚したというわけではなかったが、それでもお互いに思いやりを持っていた。  貴族にありがちで平凡な、だけど幸せな生活。  しかし、その幸せは約1年で終わりを告げることとなる。  ティアナとジェフリーがパーティに参加したある日のこと。  ジェフリーとはぐれてしまったティアナは、彼を探しに中庭へと向かう。  ――そこで見たものは。  ジェフリーと自分の親友が、暗闇の中で抱き合っていた姿だった。 「……もう、この気持ちを抑えきれないわ」 「ティアナに悪いから」 「だけど、あなただってそうでしょう? 私、ずっと忘れられなかった」  そんな会話を聞いてしまったティアナは、頭が真っ白になった。  ショックだった。  ずっと信じてきた夫と親友の不貞。  しかし怒りより先に湧いてきたのは、彼らに幸せになってほしいという気持ち。  私さえいなければ。  私さえ身を引けば、私の大好きな2人はきっと幸せになれるはず。  ティアナは2人のため、黙って実家に帰ることにしたのだ。  だがお腹の中には既に、小さな命がいて――。

婚約者様は連れ子の妹に夢中なようなので別れる事にした。〜連れ子とは知らなかったと言い訳をされましても〜

おしゃれスナイプ
恋愛
事あるごとに婚約者の実家に金の無心をしてくる碌でなし。それが、侯爵令嬢アルカ・ハヴェルの婚約者であるドルク・メルアを正しくあらわす言葉であった。 落ち目の危機に瀕しているメルア侯爵家であったが、これまでの付き合いから見捨てられなかった父が縁談を纏めてしまったのが全ての始まり。 しかし、ある日転機が訪れる。 アルカの父の再婚相手の連れ子、妹にあたるユーミスがドルクの婚約者の地位をアルカから奪おうと試みたのだ。 そして、ドルクもアルカではなく、過剰に持ち上げ、常にご機嫌を取るユーミスを気に入ってゆき、果てにはアルカへ婚約の破談を突きつけてしまう事になる。

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

【完結】貴方の望み通りに・・・

kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも どんなに貴方を見つめても どんなに貴方を思っても だから、 もう貴方を望まない もう貴方を見つめない もう貴方のことは忘れる さようなら

完璧すぎる幼馴染に惚れ、私の元を去って行く婚約者ですが…何も知らず愚かですね─。

coco
恋愛
婚約者から、突然別れを告げられた私。 彼は、完璧すぎる私の幼馴染に惚れたのだと言う。 そして私の元から去って行く彼ですが…何も知らず、愚かですね─。

【完結】どうかその想いが実りますように

おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。 学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。 いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。 貴方のその想いが実りますように…… もう私には願う事しかできないから。 ※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗 お読みいただく際ご注意くださいませ。 ※完結保証。全10話+番外編1話です。 ※番外編2話追加しました。 ※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

真実の愛が生んだ婚約破棄 〜さようなら。もう二度とお会いしません〜

四季
恋愛
「ルルエラ、婚約破棄させてほしい」 そう告げてきた婚約者カエイルの隣には、一人の少女がいた。

処理中です...