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第6話 姫、鬼に愛される――丑御前――
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しおりを挟む殺風景な洞窟の中、準備された寝衣たち。
「だったら、どうだというんだい?」
丑御前は、あやめのことを衾の上に押し倒した。
彼が持ってきたのだろうか。
たとう紙の上に母子餅が乗っていた。
「やっ……」
「力づくでも君を奪って、鬼童丸と君との間にある呪いを断ち切ってしまって――そうして、僕にしか抱かれられない呪いをかけるんだ……僕がこんなんだから、兄者はさくら姫のことは妻にあえてしなかった。数十年持つ結界だけを屋敷に張ってさ……気がないフリして――結局二人は現世では会えないまま、さくら姫は死んじゃったね……」
「まさか――貴方のせいで……お母様とお父様は……!」
「二人が勝手に決めたことで、僕には関係ない話だよ」
相手の勝手な言い分を聞いて涙が込み上げてくる。
丑御前は続けた。
「母は能力の高い兄ばかりを優遇した。いや、単純に鬼として生まれてしまった僕が嫌だったのかもしれない。外に出たくても、出してはくれなかったし……ずっと幽閉されて育ったようなものだったな。そうして、時々出てくるのは、あまりにも味気ない草ばっかりの料理の数々だ……僕はずっと肉を食べてみたいって言ってたのに……」
(あやめはピンとくる)
「まあ、僕の過去の話なんてどうでも良いさ。さあ、君と鬼童丸との間の呪いを解かなきゃあね」
そういうと、彼がまとう衣服の袂をくつろげる。
鬼童丸が同じ仕草をした時には、胸が高鳴るだけだったのに――丑御前に対しては嫌悪感が強い。
(鬼童丸様……!)
思わず、あやめは目を瞑る。
その時――。
光の格子が、あやめと丑御前を包み込んできた。
「これは……この光、この術は――兄者!!」
そうして、周囲に風が巻き起こったかと思うと、バンッと大きな音と共に丑御前の身体が磔にされていた。
(何が起こったの……?)
ふっと――光の格子が消える。
「あやめ……!」
寝そべっていた彼女の身体がふわりと宙に浮く。
鬼童丸が彼女を抱きかかえたのだった。
頬をすり寄せながら、彼は彼女を愛おしそうに慈しむ。
「鬼童丸さん!」
「あやめ……! 良かった、お前に何かあったんじゃねえかと気が気じゃなかった……」
そうして二人のそばには、武将の姿。
「頼光――てめえもあやめに何か言いたいことはねえのかよ」
頼光はあやめの方へとちらりと視線を向ける。
「今はそんな時ではなかろう――まだ丑御前の気持ちは荒ぶったままなのだよ?」
あやえの身体が硬直する。
(この人が私の……)
「さくらによく似たな――苦労をかけた、あやめ……」
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