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第1話 姫、鬼に攫われる――鬼童丸――あやめ
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見間違いかと、何度か目を擦ってみたが、どうやら現実らしい。
じわじわと恐怖に近い感情が背中を這いずってきた。
(まさか……)
もう一度、相手の頭に目をやる。
そう、常人とは違うもの――角が――頭部に二本生えていたのだ。
彼の瞳が、血のような深紅に染まる。
「見て、分からねぇのか。鬼だよ鬼」
やれやれと言った調子で返される。
「鬼? だって、貴方は人間の見た目をしていて……」
「そりゃあ、母親が人間だからな。確かに普通の鬼達は、もっと肌の色から奇抜だもんな」
あやめは思わずぎゅっと手を握りしめた。
「そういえば、名前を教えてなかったな? 俺の名前は鬼童丸。俺のことは知らねぇかもしれないが――父親は知ってるかもしれねぇな。酒呑童子って聞いたことあるだろう?」
――鬼。
――酒呑童子。
――鬼童丸。
数十年前のことだ。
京の都から見て、北西にある大江山には、酒呑童子と呼ばれる悪鬼が住んでいたという。鬼の中でも最強の強さを誇ると噂されていた。悪逆の限りを尽くす彼は、見兼ねた武将・源頼光の手によって調伏された。
この戦いはとても凄惨なものだったという。
そうして、酒呑童子の息子である鬼童丸といえば、父に次ぐ強大な力の持ち主だと言われていた。
(つまり、今の鬼達の中では一番強い……)
ちなみに、武将・源頼光は当時失踪したと伝わっている。
この十年、鬼たちは派手な動きを制止していたという話だったのに……。
「さあて、話は後だ――行くぞ」
すると、姫の手首をぐいっと鬼が掴んできた。
「待って……行くってどこに……!?」
「そりゃあ、俺の住む屋敷だよ。大江山に居を構えている。ここより綺麗な良い場所だよ」
「どうして……!?」
「どうしても何も……頼光の馬鹿が、俺におかしな呪いをかけてきたせいで――お前を喰わねぇと生きていけねぇ体質にさせられたんだよ」
――喰う。
恐るべき単語が相手から飛び出してきた。
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