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第1話 姫、鬼に攫われる――鬼童丸――あやめ
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しおりを挟む誰もいない屋敷だ。
外に出るのは迂闊だったかもしれない。
垣の向こうから誰かに覗かれている危険性があったというのに――。
賊か何かかと身構える。
「俺がずっと探していたのは、お前だ」
官能的な声音を耳が拾う。
あやめが見上げると、そこには長身痩躯の美青年が佇んでいた。
彼女の頭二つ分ほど身長が高い。
サラサラと風になびく赤みがかった黒髪に、同じく弓なりの美しい眉。切れ長の瞳。すっと通った鼻梁に、薄くて整った唇。
この世の者とは思えない美貌の持ち主だ。
束帯姿の彼は、禁色であるはずの紫色の袍を纏っていた。脇には金の豪奢な飾りが施された太刀が吊り下げられている。
(武官……? だけど、どうして私の邸宅に……? 近くに馬も牛車もいないようだし……)
女性なら誰もが見惚れてしまいそうな色香を放つ相手に対し、思わず目がくらんでしまいそうになる。
同時に、恐怖で背筋がぞくりと震えた。
「間違いない、お前だ。ずっと探してたんだよ。頼光のやつ、よけいな術をかけやがって……黄金の瞳だなんて珍しい女、すぐに探せると思ってたのに、十数年近くかかったじゃねぇか」
どこか不機嫌さが滲む。
話口調もどことなく乱暴な物言いだ。
「あの……貴方は……? ……っ」
問いかけながら、ひゅっと息を飲んでしまった。
自分も人のことは言えないが、相手に人ならざる特徴を見つけてしまったのだ。
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