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「ジョージ様。私、以前から思っていたのですけど、」
何かな?とジョージが先を促す。
「やはり、甘いの後はしょっぱい、塩辛いの後は甘い、これって自然界の不文律だと思うのです。」
「へえ、犬も猫も?」
「勿論。」
「馬も牛も?」
「勿論。」
勿論、勿論と至極真面目に頷くエリザベスに、堪え切れなくなったジョージが笑い出す。
二人は、カフェのメニューを考えていた。
後継教育と執務に追われて、カフェなど寄った試しのなかったエリザベスも、父から許しを得てジョージと実地研修に励んでいた。所謂、ご令嬢方の云うところの「カフェ巡り」である。
王都のカフェは何処も洒落た店作りに創意工夫を凝らしたメニュー、ご令嬢方も列に並んで席が空くのを待つほどの賑わいをみせていた。
こんな世界があるんだわ。
母と姉が、今日は何処其処へ行ってきたなどと晩餐の席で話すのを、聞くとはなしに聞いていたが、これは確かに素敵、楽しい、美味しいわ。
けれども、少しばかり物足りない。
こんな事を思う私が可怪しいのか。
甘いの食べたらしょっぱいの食べたくない?
塩っ辛い後には甘いの食べたいものよね?
カフェによっては、甘味オンリーの店もある。サイドメニューにお食事系があったなら、殿方も御婦人と一緒に楽しめるのではないかしら。
要はそこをジョージに伝えたかったのである。
「ふうん、お食事系ね。」
ふんふん、とジョージが暫し考え、
「採用」
そう言った。
早速、二人してメニューを考える。
激が付くほど忙しいエリザベスは、家族の晩餐以外は執務室で食事を済ませる事が多い。
サンドウィッチであったり、ワンプレートにメインディッシュと野菜の付け合せであったり。
文官などは慣れた光景でも、令嬢にとってはマナーに外れたぼっち飯である。
けれども、気軽なカフェでの軽食ならば、貴族も平民もマナーを気にせずに楽しめるのではないかしら。
それにやっぱり、甘い後にはしょっぱいよね。結局そこに帰結するエリザベスであった。
「ふうん、ワンプレートね。」
ふんふん、とジョージが暫し考え、
「採用」
そう言った。
そうと決まったら試食でしょう、と母と姉の不在を見計らってジョージが伯爵邸を訪れる。
厨房には、料理長に執事、侍従に侍女頭、いつもの面々が集まってメニュー開発に勤しんだ。
「厚切りベーコン」
「採用。」
「サニーサイド若しくはスクランブルエッグ」
「採用。」
「あらびき特大ウィンナー」
「採用。」
「ふわふわパンケーキ」
「いいな、それ。」
どうやらジョージはパンケーキがお好みであるらしい。
「パンケーキは甘い系としょっぱい系を選べるのです。」
「例えば?」
「甘い系はベリーのソースにチョコレートソース、粉砂糖にホイップクリームですわ。」
「しょっぱい系は?」
「チェダーチーズにベーコン、フライドオニオンにポテトサラダ。彩りはクレソンで。目玉焼きを添えても美味ですね。」
「採用。」
あーでもないこーでもない、結局最後は自分が食べたいメニューになって、漸く決まった試食プレートは、父に試食をしてもらう。
セドリックを引き連れて、いそいそと試食プレートを運ぶエリザベス。
その後ろ姿を厨房からジョージが見送る。
ブルック伯爵邸の厨房は、次期当主の令嬢に次期侯爵の令息が、邸の使用人達を巻き込んで試作と試食に勤しんで、そのうち侍女達も巻き込んで、あれが良いとかこれも良いとか、この日ばかりは賑やかであるのを邸の主に許されていた。
その日は先日決まったメニューの為に、ベーコンを加工する肉屋を訪問する予定であった。
エリザベスが学園で課題を熟しているのを知っているジョージが、終わる頃合いに迎えに行くと約束をして、馬車留で待ち合わせをしていた。
そろそろ迎えの馬車が着いた頃だろうと図書室を出て、正面玄関に向かう廊下でウィリアムに声を掛けられたのであった。
「エリザベス、何があった。」
ウイリアムに背を向けてから一度も止まらずここまで駆けて来たエリザベスの、荒い息が整い漸く話せそうな様子を確かめて、ジョージが再び聞いてくる。
「ジョージ様、」
はあはあと、ジョージの胸元にしがみついたまま肩を弾ませるエリザベスに名を呼ばれて、彼女を囲う腕に力が入る。
「ウィリアム様に、は、話し掛けられて、それで、逃げて来ました、」
まだ荒い息の合間に、エリザベスが漸く語る。
「ウィリアム様に、分かって、もらえなくて、」
「なに?」
そこからは、弾む息を逃しながら、ウィリアムとの会話を伝える。
ジョージは最後まで辛抱強く聞いてから、
「それで、逃げて来たんだな?私の下へ。」
そう言ってはははと笑った。
馬車は既に走り出し、目的地へ向かっている。
揺れる振動に漸く息が整って、もう大丈夫だとジョージを見上げるも、ジョージは笑顔を浮かべたまま、腕の拘束を解いてくれない。寧ろ更にきつく抱き締める。
結局、目的地に到着するまで、エリザベスはジョージに抱き締められたまま、今だけと温かな胸に頭を預けたのだった。
何かな?とジョージが先を促す。
「やはり、甘いの後はしょっぱい、塩辛いの後は甘い、これって自然界の不文律だと思うのです。」
「へえ、犬も猫も?」
「勿論。」
「馬も牛も?」
「勿論。」
勿論、勿論と至極真面目に頷くエリザベスに、堪え切れなくなったジョージが笑い出す。
二人は、カフェのメニューを考えていた。
後継教育と執務に追われて、カフェなど寄った試しのなかったエリザベスも、父から許しを得てジョージと実地研修に励んでいた。所謂、ご令嬢方の云うところの「カフェ巡り」である。
王都のカフェは何処も洒落た店作りに創意工夫を凝らしたメニュー、ご令嬢方も列に並んで席が空くのを待つほどの賑わいをみせていた。
こんな世界があるんだわ。
母と姉が、今日は何処其処へ行ってきたなどと晩餐の席で話すのを、聞くとはなしに聞いていたが、これは確かに素敵、楽しい、美味しいわ。
けれども、少しばかり物足りない。
こんな事を思う私が可怪しいのか。
甘いの食べたらしょっぱいの食べたくない?
塩っ辛い後には甘いの食べたいものよね?
カフェによっては、甘味オンリーの店もある。サイドメニューにお食事系があったなら、殿方も御婦人と一緒に楽しめるのではないかしら。
要はそこをジョージに伝えたかったのである。
「ふうん、お食事系ね。」
ふんふん、とジョージが暫し考え、
「採用」
そう言った。
早速、二人してメニューを考える。
激が付くほど忙しいエリザベスは、家族の晩餐以外は執務室で食事を済ませる事が多い。
サンドウィッチであったり、ワンプレートにメインディッシュと野菜の付け合せであったり。
文官などは慣れた光景でも、令嬢にとってはマナーに外れたぼっち飯である。
けれども、気軽なカフェでの軽食ならば、貴族も平民もマナーを気にせずに楽しめるのではないかしら。
それにやっぱり、甘い後にはしょっぱいよね。結局そこに帰結するエリザベスであった。
「ふうん、ワンプレートね。」
ふんふん、とジョージが暫し考え、
「採用」
そう言った。
そうと決まったら試食でしょう、と母と姉の不在を見計らってジョージが伯爵邸を訪れる。
厨房には、料理長に執事、侍従に侍女頭、いつもの面々が集まってメニュー開発に勤しんだ。
「厚切りベーコン」
「採用。」
「サニーサイド若しくはスクランブルエッグ」
「採用。」
「あらびき特大ウィンナー」
「採用。」
「ふわふわパンケーキ」
「いいな、それ。」
どうやらジョージはパンケーキがお好みであるらしい。
「パンケーキは甘い系としょっぱい系を選べるのです。」
「例えば?」
「甘い系はベリーのソースにチョコレートソース、粉砂糖にホイップクリームですわ。」
「しょっぱい系は?」
「チェダーチーズにベーコン、フライドオニオンにポテトサラダ。彩りはクレソンで。目玉焼きを添えても美味ですね。」
「採用。」
あーでもないこーでもない、結局最後は自分が食べたいメニューになって、漸く決まった試食プレートは、父に試食をしてもらう。
セドリックを引き連れて、いそいそと試食プレートを運ぶエリザベス。
その後ろ姿を厨房からジョージが見送る。
ブルック伯爵邸の厨房は、次期当主の令嬢に次期侯爵の令息が、邸の使用人達を巻き込んで試作と試食に勤しんで、そのうち侍女達も巻き込んで、あれが良いとかこれも良いとか、この日ばかりは賑やかであるのを邸の主に許されていた。
その日は先日決まったメニューの為に、ベーコンを加工する肉屋を訪問する予定であった。
エリザベスが学園で課題を熟しているのを知っているジョージが、終わる頃合いに迎えに行くと約束をして、馬車留で待ち合わせをしていた。
そろそろ迎えの馬車が着いた頃だろうと図書室を出て、正面玄関に向かう廊下でウィリアムに声を掛けられたのであった。
「エリザベス、何があった。」
ウイリアムに背を向けてから一度も止まらずここまで駆けて来たエリザベスの、荒い息が整い漸く話せそうな様子を確かめて、ジョージが再び聞いてくる。
「ジョージ様、」
はあはあと、ジョージの胸元にしがみついたまま肩を弾ませるエリザベスに名を呼ばれて、彼女を囲う腕に力が入る。
「ウィリアム様に、は、話し掛けられて、それで、逃げて来ました、」
まだ荒い息の合間に、エリザベスが漸く語る。
「ウィリアム様に、分かって、もらえなくて、」
「なに?」
そこからは、弾む息を逃しながら、ウィリアムとの会話を伝える。
ジョージは最後まで辛抱強く聞いてから、
「それで、逃げて来たんだな?私の下へ。」
そう言ってはははと笑った。
馬車は既に走り出し、目的地へ向かっている。
揺れる振動に漸く息が整って、もう大丈夫だとジョージを見上げるも、ジョージは笑顔を浮かべたまま、腕の拘束を解いてくれない。寧ろ更にきつく抱き締める。
結局、目的地に到着するまで、エリザベスはジョージに抱き締められたまま、今だけと温かな胸に頭を預けたのだった。
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