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「ブリジット、何で止めてくれなかったの。」
「私は気が付きませんでした。」
「嘘よ。」
「本当です。それに私は婚約ほやほやの恋人達の邪魔をするほど野暮ではございませんから。」
「み、見てたわねっ」
マルクスは、自分を前にして現実逃避したヘンリエッタを許してなんてくれなかった。
人差し指と親指でヘンリエッタの顎先を掴み、もう御免なさいご勘弁下さいと言うほどに青い瞳で見つめてから、それはそれは濃厚な口付けを贈ってくれた。
唇ごと喰まれる様に飲み込まれ、思わず目を瞑ってしまえば、直ぐに全身が敏感になってしまって、マルクスから齎される甘い快楽に全神経をもって行かれた。
ヘンリエッタの小さな頬をマルクスの手の平が包み込む。顎を捉えていた親指が頬を辿って目元を撫でて、こめかみから側頭を撫で下ろすのに思わずふるりと震えてしまった。
それを見逃す筈のないマルクスの指が耳朶を撫でるその間も、唇はマルクスに囚われ追い詰められて、呼吸を求めて開いた隙に口内いっぱいマルクスに埋められてしまった。
息が苦しい。苦しいのに幸せ。
思わず手が伸びてしまって、両手でマルクスのジャケットを掴んでその胸元にしがみつけば、
「はっ、あんまり煽るな、」
漸く開放してくれたマルクスに耳元で囁かれた。掠れた声が耳朶に響く。身体の芯から熱くなる。
甘くて妖艶なマルクスに、すっかり酔わされ蕩かされヘロヘロになったまま抱き締められて乱れた息を整えた。
その一部始終をブリジットが見てない訳が無いじゃない。
恥ずかしい。穴があったら入りたい。
羞恥に身悶えするヘンリエッタなのであった。
「こんなロイヤルブルー、王家に不敬にならないかしら。」
ロイヤルブルーは王家の色である。なんたってロイヤルだから。
「そんな事はございません。現に王太子殿下も第二王子殿下も瞳はエメラルドでございます。」
「でもロバート殿下はサファイアの瞳をお持ちよ。」
「屁理屈ばかり言ってないで、鏡に映るご自分に見惚れて下さいませ。とてもお美しゅうございます、お嬢様。」
背中の留め金を留めながら侍女頭が言うのを、ヘンリエッタは渋々鏡を見た。傍から見たならただの照れ隠しなのだが、照れている本人ばかりがそれには気付いていなかった。
全身マルクス色だわ。
マルクスの瞳と同じロイヤルブルーのドレスを纏ってヘンリエッタは思った。
嘗ての婚約者ハロルドもブルーの瞳で彼の色も青だった。婚約を解消したからとそれを避けて頑なにグリーンばかりを身に着けていたヘンリエッタに、ロイヤルブルーが一番似合うと言ったのはマルクスであった。
新年祝賀の夜会に、マルクスから贈られたのはロイヤルブルーのドレスは、クラシカルなラインの古典的なスタイルで、格式高い王家主催の夜会の場に相応しいと思われた。
大粒真珠の耳飾りに三連真珠の首飾り。
首飾りは一連毎に粒が大きくなって、三連連なる様が美しい。項の留具はデイジーを模しており、小粒パールを編み込んだ細工が令嬢らしく可憐に見える。肩はノースリーブであるのを露わになった腕には光沢のある純白のロンググローブを嵌めた。ロイヤルブルーと白のコントラストが美しい。
シンプルなドレスラインに合わせて、髪もすっきりと結い上げた。左の耳元にかすみ草をたっぷり飾って、ブリジットが「ベルかすですわね」と言ったのに皆で笑ってしまった。
「マルクス様がお迎えにお見えになられました。」
マルクスの来邸に、照れる余りに仏頂面になるのを、侍女達は不器用なヘンリエッタであるからと、優しく見送ってくれる。
「やっぱり君にはロイヤルブルーがよく似合う。」
学園の創立記念の夜会にも、マルクスのデザインでロイヤルブルーのドレスを頼んだ。パートナーはハロルドであったのに、彼とはその後音信不通になったままで、あの日の夜会はマルクスがヘンリエッタをエスコートしてくれた。
その後の夜会もマルクスと、聖夜のブリジット夫妻と四人で開いた夜会もマルクスと。
ヘンリエッタをエスコートするのは、いつだってマルクスで、いつだってヘンリエッタを一番輝く姿に誘ってくれるのは、この世にたった一人、マルクスだけだった。
「マルクスも。その、とても素敵...」
ヘンリエッタは盛大に照れた。
マルクスは濃紺地にシャンパンゴールドの刺繍が施されたロングジャケットを着ている。
襟元と袖口の繊細な刺繍が見事である。華やかな刺繍もエレガントに着こなしてしまうマルクスは流石である。
シャンパンゴールドはヘンリエッタの髪色に寄せたのだろう。自身の色を纏うマルクスにヘンリエッタは照れに照れた。
今宵の夜会に、マルクスの婚約者として参加する。こんな華やかな喜びを齎してくれたマルクスは、煌めく金の髪を額も露わに撫でつけて、その~、控え目に言ってとっても麗しい。ヘンリエッタは目の前の美丈夫にすっかり見惚れてしまっていた。
「んっ、んっ」
可怪しな咳払いに思わず振り返れば、ブリジットが目線で「しっかりなさいませ!」と言っている。
「美しい婚約者殿。君をエスコート出来る幸運を神に感謝するよ。」
キザな台詞をさらりと宣うマルクスに、「きゃー」と年若の侍女等が悲鳴を上げてしまったのは大目に見てあげてほしい。
「私は気が付きませんでした。」
「嘘よ。」
「本当です。それに私は婚約ほやほやの恋人達の邪魔をするほど野暮ではございませんから。」
「み、見てたわねっ」
マルクスは、自分を前にして現実逃避したヘンリエッタを許してなんてくれなかった。
人差し指と親指でヘンリエッタの顎先を掴み、もう御免なさいご勘弁下さいと言うほどに青い瞳で見つめてから、それはそれは濃厚な口付けを贈ってくれた。
唇ごと喰まれる様に飲み込まれ、思わず目を瞑ってしまえば、直ぐに全身が敏感になってしまって、マルクスから齎される甘い快楽に全神経をもって行かれた。
ヘンリエッタの小さな頬をマルクスの手の平が包み込む。顎を捉えていた親指が頬を辿って目元を撫でて、こめかみから側頭を撫で下ろすのに思わずふるりと震えてしまった。
それを見逃す筈のないマルクスの指が耳朶を撫でるその間も、唇はマルクスに囚われ追い詰められて、呼吸を求めて開いた隙に口内いっぱいマルクスに埋められてしまった。
息が苦しい。苦しいのに幸せ。
思わず手が伸びてしまって、両手でマルクスのジャケットを掴んでその胸元にしがみつけば、
「はっ、あんまり煽るな、」
漸く開放してくれたマルクスに耳元で囁かれた。掠れた声が耳朶に響く。身体の芯から熱くなる。
甘くて妖艶なマルクスに、すっかり酔わされ蕩かされヘロヘロになったまま抱き締められて乱れた息を整えた。
その一部始終をブリジットが見てない訳が無いじゃない。
恥ずかしい。穴があったら入りたい。
羞恥に身悶えするヘンリエッタなのであった。
「こんなロイヤルブルー、王家に不敬にならないかしら。」
ロイヤルブルーは王家の色である。なんたってロイヤルだから。
「そんな事はございません。現に王太子殿下も第二王子殿下も瞳はエメラルドでございます。」
「でもロバート殿下はサファイアの瞳をお持ちよ。」
「屁理屈ばかり言ってないで、鏡に映るご自分に見惚れて下さいませ。とてもお美しゅうございます、お嬢様。」
背中の留め金を留めながら侍女頭が言うのを、ヘンリエッタは渋々鏡を見た。傍から見たならただの照れ隠しなのだが、照れている本人ばかりがそれには気付いていなかった。
全身マルクス色だわ。
マルクスの瞳と同じロイヤルブルーのドレスを纏ってヘンリエッタは思った。
嘗ての婚約者ハロルドもブルーの瞳で彼の色も青だった。婚約を解消したからとそれを避けて頑なにグリーンばかりを身に着けていたヘンリエッタに、ロイヤルブルーが一番似合うと言ったのはマルクスであった。
新年祝賀の夜会に、マルクスから贈られたのはロイヤルブルーのドレスは、クラシカルなラインの古典的なスタイルで、格式高い王家主催の夜会の場に相応しいと思われた。
大粒真珠の耳飾りに三連真珠の首飾り。
首飾りは一連毎に粒が大きくなって、三連連なる様が美しい。項の留具はデイジーを模しており、小粒パールを編み込んだ細工が令嬢らしく可憐に見える。肩はノースリーブであるのを露わになった腕には光沢のある純白のロンググローブを嵌めた。ロイヤルブルーと白のコントラストが美しい。
シンプルなドレスラインに合わせて、髪もすっきりと結い上げた。左の耳元にかすみ草をたっぷり飾って、ブリジットが「ベルかすですわね」と言ったのに皆で笑ってしまった。
「マルクス様がお迎えにお見えになられました。」
マルクスの来邸に、照れる余りに仏頂面になるのを、侍女達は不器用なヘンリエッタであるからと、優しく見送ってくれる。
「やっぱり君にはロイヤルブルーがよく似合う。」
学園の創立記念の夜会にも、マルクスのデザインでロイヤルブルーのドレスを頼んだ。パートナーはハロルドであったのに、彼とはその後音信不通になったままで、あの日の夜会はマルクスがヘンリエッタをエスコートしてくれた。
その後の夜会もマルクスと、聖夜のブリジット夫妻と四人で開いた夜会もマルクスと。
ヘンリエッタをエスコートするのは、いつだってマルクスで、いつだってヘンリエッタを一番輝く姿に誘ってくれるのは、この世にたった一人、マルクスだけだった。
「マルクスも。その、とても素敵...」
ヘンリエッタは盛大に照れた。
マルクスは濃紺地にシャンパンゴールドの刺繍が施されたロングジャケットを着ている。
襟元と袖口の繊細な刺繍が見事である。華やかな刺繍もエレガントに着こなしてしまうマルクスは流石である。
シャンパンゴールドはヘンリエッタの髪色に寄せたのだろう。自身の色を纏うマルクスにヘンリエッタは照れに照れた。
今宵の夜会に、マルクスの婚約者として参加する。こんな華やかな喜びを齎してくれたマルクスは、煌めく金の髪を額も露わに撫でつけて、その~、控え目に言ってとっても麗しい。ヘンリエッタは目の前の美丈夫にすっかり見惚れてしまっていた。
「んっ、んっ」
可怪しな咳払いに思わず振り返れば、ブリジットが目線で「しっかりなさいませ!」と言っている。
「美しい婚約者殿。君をエスコート出来る幸運を神に感謝するよ。」
キザな台詞をさらりと宣うマルクスに、「きゃー」と年若の侍女等が悲鳴を上げてしまったのは大目に見てあげてほしい。
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