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第44話
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「何、を……?」
当主様から告げられた感謝の言葉。
その意味が私には、全く理解できなかった。
「サラリア嬢、貴方は何か勘違いしておりませんか?」
そんな私に、当主様は頭を下げたままそう告げた。
「自分のせいで、マーリスがこんなことを起こしたという、大きな勘違いを」
「っ!」
自身の胸の奥底に隠れていたその思い、それに私が気づいたのは、そう当主様に告げられた時だった。
そう、私が抱く当主様への罪悪感、それの一番大きな理由は、マーリスのことだった。
本来であれば、マーリスのことは彼の暴走で片付けるのが普通かもしれない。
だが、私はそう割り切ることができなかった。
……なぜなら、今回の件は私がマーリスを鍛えてしまったからこそ、起きたものなのだから。
私の言いつけをあまり守ろうとしていなかったマーリスは、正直私など比にならない程度の能力しか有していない。
しかしそれは、あくまで私と比べた場合だ。
そう、マーリスは決して無能ではない。
それどころか、他の貴族の令息などと比べれば、かなり優秀と言えるだけの能力を有しているのだ。
そして、それだけの能力を私がマーリスに与えてしまったからこそ、今回の事件は起きることになったのだ。
私がマーリスの夢に協力しようと考えなければ。
私がマーリスを鍛えようとしなければ。
……私がマーリスの思い上がりを正すことが出来ていれば。
そのどれかさえ、私が出来ていたら今回の事件は起きなかっただろう。
自分の失態で、どれだけ無関係の当主様に迷惑をかけたか、そう考えて私は唇を噛みしめる。
家族同然のこの人に貰った恩を、私は仇にして返してしまったと。
「サラリア。君が優秀なのは知っているよ。でも、私から父親という立場を奪われると困ってしまうよ」
そんな私を後悔の渦から引き上げたのは、昔と同じように優しく話しかけてくれた当主様の声だった。
「っ!お、おじさま………」
その優しい声に、私は気づけば昔のように当主様を呼んでいた。
その瞬間、堪えきれなかった涙が溢れ出し、頬に線を描く。
そんな私の頭を丁寧に撫でながら、おじさまは困ったように笑った。
「本当に優しいサラリアは。だが、これだけは覚えておいてほしい。マーリスを、息子の性格を育てるのは親の役目だ。今回の事件を防げなかった責任は君のものじゃない。──全て、親である私のものなんだよ」
そう告げた後おじさまは、だから、とその目に決意の光を宿してさらに口を開いた。
「もう一度機会を、マーリスを育てなおす機会を与えてくれた君に感謝する。強引にことを進められた時、一度はマーリスを殺したいと思うほど恨んだ。──それでも、マーリスは私の子供なんだよ」
そう告げたおじさまに対して、私は少しの間口を開くことができなかった。
おじさまのその言葉を聞いても、私の中の罪悪感が完全には消えることはなかったから。
それでも、おじさまの決意の固さだけは私も理解することができて、それを理解した上でおじさまの言葉をはねのけることは出来なかった。
「……分かり、ました」
そう告げた私に、おじさまはいつも通り優しげに笑った。
「ありがとう。私はたしかにマーリスにも及ばない能力しか持っていない。でも、今までがむしゃらで領民のために生きてきたし、領地経営に関してだけは、君にも負けない自信がある。領民達には苦労をかけてしまうだろうが、今のマーリスならそこで成長することができる思う」
そう言って、おじさまは私の頭を少し強引に撫で回した。
「だから、安定した暁には私にお礼のディナーに招待させてくれ。何、その頃には高位貴族専用のレストランに行ける程度に稼いでみせるさ」
それは、あまりにも不器用で、けれどひどく暖かい気遣いだった。
「……はいっ」
涙をこらえる私は、そのおじさまの言葉に短く了承の言葉を告げ、必死に頷くことしか出来なかった。
当主様から告げられた感謝の言葉。
その意味が私には、全く理解できなかった。
「サラリア嬢、貴方は何か勘違いしておりませんか?」
そんな私に、当主様は頭を下げたままそう告げた。
「自分のせいで、マーリスがこんなことを起こしたという、大きな勘違いを」
「っ!」
自身の胸の奥底に隠れていたその思い、それに私が気づいたのは、そう当主様に告げられた時だった。
そう、私が抱く当主様への罪悪感、それの一番大きな理由は、マーリスのことだった。
本来であれば、マーリスのことは彼の暴走で片付けるのが普通かもしれない。
だが、私はそう割り切ることができなかった。
……なぜなら、今回の件は私がマーリスを鍛えてしまったからこそ、起きたものなのだから。
私の言いつけをあまり守ろうとしていなかったマーリスは、正直私など比にならない程度の能力しか有していない。
しかしそれは、あくまで私と比べた場合だ。
そう、マーリスは決して無能ではない。
それどころか、他の貴族の令息などと比べれば、かなり優秀と言えるだけの能力を有しているのだ。
そして、それだけの能力を私がマーリスに与えてしまったからこそ、今回の事件は起きることになったのだ。
私がマーリスの夢に協力しようと考えなければ。
私がマーリスを鍛えようとしなければ。
……私がマーリスの思い上がりを正すことが出来ていれば。
そのどれかさえ、私が出来ていたら今回の事件は起きなかっただろう。
自分の失態で、どれだけ無関係の当主様に迷惑をかけたか、そう考えて私は唇を噛みしめる。
家族同然のこの人に貰った恩を、私は仇にして返してしまったと。
「サラリア。君が優秀なのは知っているよ。でも、私から父親という立場を奪われると困ってしまうよ」
そんな私を後悔の渦から引き上げたのは、昔と同じように優しく話しかけてくれた当主様の声だった。
「っ!お、おじさま………」
その優しい声に、私は気づけば昔のように当主様を呼んでいた。
その瞬間、堪えきれなかった涙が溢れ出し、頬に線を描く。
そんな私の頭を丁寧に撫でながら、おじさまは困ったように笑った。
「本当に優しいサラリアは。だが、これだけは覚えておいてほしい。マーリスを、息子の性格を育てるのは親の役目だ。今回の事件を防げなかった責任は君のものじゃない。──全て、親である私のものなんだよ」
そう告げた後おじさまは、だから、とその目に決意の光を宿してさらに口を開いた。
「もう一度機会を、マーリスを育てなおす機会を与えてくれた君に感謝する。強引にことを進められた時、一度はマーリスを殺したいと思うほど恨んだ。──それでも、マーリスは私の子供なんだよ」
そう告げたおじさまに対して、私は少しの間口を開くことができなかった。
おじさまのその言葉を聞いても、私の中の罪悪感が完全には消えることはなかったから。
それでも、おじさまの決意の固さだけは私も理解することができて、それを理解した上でおじさまの言葉をはねのけることは出来なかった。
「……分かり、ました」
そう告げた私に、おじさまはいつも通り優しげに笑った。
「ありがとう。私はたしかにマーリスにも及ばない能力しか持っていない。でも、今までがむしゃらで領民のために生きてきたし、領地経営に関してだけは、君にも負けない自信がある。領民達には苦労をかけてしまうだろうが、今のマーリスならそこで成長することができる思う」
そう言って、おじさまは私の頭を少し強引に撫で回した。
「だから、安定した暁には私にお礼のディナーに招待させてくれ。何、その頃には高位貴族専用のレストランに行ける程度に稼いでみせるさ」
それは、あまりにも不器用で、けれどひどく暖かい気遣いだった。
「……はいっ」
涙をこらえる私は、そのおじさまの言葉に短く了承の言葉を告げ、必死に頷くことしか出来なかった。
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