裏切り者、そう呼ばれた令嬢は

影茸

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第41話

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 「私を、嘲笑いにでも来たのか」

 こちらを見たマーリスは、青くなった顔を無理に歪めそう口を開いた。
 それは、今までのマーリスからは考えられない姿だった。

 何時も根拠はなくとも、自信を抱いていたマーリス。
 そんな彼をそばで見ていたからこそ、より尚更今のマーリスがどれだけ憔悴しているのか、私には理解できてしまう。 

 ……だが、それを理解した私の胸に思った程の痛みが訪れることはなかった。

 「そう、なのね」

 私が、ようやく自分の心境の変化に気づいたのはその時だった。

 もう私にとってマーリスは、過去でしか無いのだと。
 婚約破棄された時、嘆き悲しんだあの感情は、もう私の中どこにも無いのだと。

 それを理解した私は、マーリスの言葉を無視して口を開いた。

 「マーリス、私は貴方の不幸なんてもう興味はない。教えて欲しいことはただ一つだけ」

 そう言い放った強い視線に、マーリスが怯む。
 しかし、それは一瞬のことだった。

 「私の浮気相手だと偽った平民の男性、彼がこの屋敷に来なかったかどうか。それだけよ」

 「……やはり、お前は王子を選ぶのか」

 そう私が訪ねた瞬間、マーリスの纏う雰囲気が変化した。

 「いや、お前達は裏で繋がっていたのだろう!あの男、ライフォードと!私のことを裏で嘲笑っていたのだろう!」

 マーリスは先ほどまで諦めを浮かべていたその目に、隠しきれない怒気を浮かべて叫び声をあげる。

 「……何の話?」

 けれど、残念ながらそのマーリスの怒りの理由が私に伝わることはなかった。
 剣幕を変えてこちらに怒鳴ってくるマーリスに、私は戸惑いを隠せない。

 ただ、こんな反応をマーリスが取るということは、あの男性のみに何かがあった訳ではないだろう。
 そう判断した私は、これ以上の質問は無駄と判断して、この部屋を去るべく歩き出した。

 「っ!」

 怒りを無視されることとなったマーリスは、私に対して怒りを込めた目を向けてくる。
 それさえ無視して、私は扉から部屋を後にしようとして──その途中であることを思い出し、動きを止めた。

 「そういえば一つ。言っておかないといけないことがあったわ」

 ふと、そのことを思い出した私は振り向かずに口を開く。
 それは、《仮面の淑女》という組織に関すること。

 「私が《仮面の淑女》という身分を隠していたのは、《仮面の淑女》をマーセルラフト家のものにしないため」

 そう《仮面の淑女》を私が作ったのは、決してマーセルラフト家のためではなかった。
 婚前前に作った発明品は、全てマーセルラフト家のものとなる。
 だから、私はその代表者であることを隠すことにしたのだ。

 そう、自分の性が変わるその時まで。

 「私は、《仮面の淑女》をアーステルト家に、いえ、貴方のものとするつもりでいたわ。──貴方の夢の糧としてもらうためっ、に」

 その言葉の最後、耐えきれずに小さな嗚咽が漏れる。
 もうあの日は戻らないのだと、そう理解させてしまって。

 「………え、さらりあ?」

 その私の言葉に、マーリスがなにかを呟こうとするのが分かる。

 しかしそれを無視して、今度こそ私は止めることなく扉を閉めた……
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