19 / 52
第19話 ライフォード目線
しおりを挟む
「ひぃっ!」
私の怒気に気圧されたマーリスは、甲高い悲鳴をあげて椅子から転げ落ちた。
そのせいで、かなり大きな音がなるが、マーリスは痛みを覚えた様子もなく壁際まで下がり私との距離を取ろうと動く。
私に対する恐怖が、マーリスの痛覚を鈍くしているのだろう。
……それはどうしようもなく惨めな姿で、それがさらに私に苛立ちを覚えさせる。
サラリアは、この男のためにどれだけを身を捧げてきたか知っているからこそ。
「……本当にお前は何も知らない愚者だな」
その思いを抑えきれず、私は思わずそんな言葉をマーリスへと漏らす。
そして、その呆れは直ぐに怒りへと変わった。
「劣等感、お前はそんな下らないものでサラリアの努力を踏みにじったのか?」
そう問いかけた私から発せられる怒気はさらに強まり、最早マーリスは声を出すことさえできない。
だが、それを見ながらも私は怒りを抑えることはできなかった。
「ただ、お前の夢を叶えるためにどれだけ努力してきたかも知らずに、よくそんな見当違いな劣等感を覚えられるものだな」
そう、サラリアの能力の秘密が、努力故のものだと知るからこそ。
私は、初めてサラリアと出会った時のことを思い出す。
王立図書館の中、必死に本を読んで勉強していた女性、それが私の初めて見たサラリアの姿だった。
サラリアの能力、それはサラリアに天賦の才があったからなどの理由ではない。
ただサラリアは必死に努力をしていただけ。
貴族の令嬢に学問など必要とされないと言われる貴族社会の中、それでもサラリアは婚約者の夢を叶えるために必死に努力を重ねていたのだ。
司書と偽った私に、大きな夢を語りながら努力を避けようとする婚約者を嘆きながらも、それでも婚約者の夢を叶えるために努力を重ねると告げたサラリアの姿。
それは私の脳裏に未だ鮮明に残っている。
私はその時サラリアに恋をして、そして同時に失恋した。
自分が恋心を露わにしても、サラリアに不幸を強いるだけ、そう思ったからこそ自分の思いを封印することに決めた。
「なのにお前が、その努力の理由であるお前が、サラリアの努力を否定するのか、マーリス」
──だからこそ、私はマーリスを許せない。
マーリスの抱く劣等感、それはただの思い込みでしかない。
サラリアはマーリスの夢のために努力を続け、そのお陰で今の能力を得ただけに過ぎないのだから。
ただマーリスは、自分が努力せずにサラリアに追い抜かされただけだ。
……マーリスは、自分が努力をしなかったことを才能のせいだと思い込み、サラリアの努力を全て踏みにじったのだ。
「お前は、ただ自分に尽くしてくれた婚約者を一方的に踏みにじっただけの屑だ!」
そんな愚かな目の前の相手にさらに怒りをぶつける。
さらに私はマーリスに怒りをぶつけようと口を開く。
「っ!」
そして、ある考えが自分の頭に浮かんだのはその時だった。
それは今まで何度も頭に過ぎりながら、その度に押し込めてきた思い。
だが、もうその思いを阻む障害はない。
自分の怒声に震えるマーリス、その姿にそのことを理解した私は笑って口を開いた。
「いいだろう。お前が彼女を私に押し付けるというならば、私が貰ってやろう。──サラリアは、私の妻にする」
「っ!」
そして私は、その思いを口にした……
私の怒気に気圧されたマーリスは、甲高い悲鳴をあげて椅子から転げ落ちた。
そのせいで、かなり大きな音がなるが、マーリスは痛みを覚えた様子もなく壁際まで下がり私との距離を取ろうと動く。
私に対する恐怖が、マーリスの痛覚を鈍くしているのだろう。
……それはどうしようもなく惨めな姿で、それがさらに私に苛立ちを覚えさせる。
サラリアは、この男のためにどれだけを身を捧げてきたか知っているからこそ。
「……本当にお前は何も知らない愚者だな」
その思いを抑えきれず、私は思わずそんな言葉をマーリスへと漏らす。
そして、その呆れは直ぐに怒りへと変わった。
「劣等感、お前はそんな下らないものでサラリアの努力を踏みにじったのか?」
そう問いかけた私から発せられる怒気はさらに強まり、最早マーリスは声を出すことさえできない。
だが、それを見ながらも私は怒りを抑えることはできなかった。
「ただ、お前の夢を叶えるためにどれだけ努力してきたかも知らずに、よくそんな見当違いな劣等感を覚えられるものだな」
そう、サラリアの能力の秘密が、努力故のものだと知るからこそ。
私は、初めてサラリアと出会った時のことを思い出す。
王立図書館の中、必死に本を読んで勉強していた女性、それが私の初めて見たサラリアの姿だった。
サラリアの能力、それはサラリアに天賦の才があったからなどの理由ではない。
ただサラリアは必死に努力をしていただけ。
貴族の令嬢に学問など必要とされないと言われる貴族社会の中、それでもサラリアは婚約者の夢を叶えるために必死に努力を重ねていたのだ。
司書と偽った私に、大きな夢を語りながら努力を避けようとする婚約者を嘆きながらも、それでも婚約者の夢を叶えるために努力を重ねると告げたサラリアの姿。
それは私の脳裏に未だ鮮明に残っている。
私はその時サラリアに恋をして、そして同時に失恋した。
自分が恋心を露わにしても、サラリアに不幸を強いるだけ、そう思ったからこそ自分の思いを封印することに決めた。
「なのにお前が、その努力の理由であるお前が、サラリアの努力を否定するのか、マーリス」
──だからこそ、私はマーリスを許せない。
マーリスの抱く劣等感、それはただの思い込みでしかない。
サラリアはマーリスの夢のために努力を続け、そのお陰で今の能力を得ただけに過ぎないのだから。
ただマーリスは、自分が努力せずにサラリアに追い抜かされただけだ。
……マーリスは、自分が努力をしなかったことを才能のせいだと思い込み、サラリアの努力を全て踏みにじったのだ。
「お前は、ただ自分に尽くしてくれた婚約者を一方的に踏みにじっただけの屑だ!」
そんな愚かな目の前の相手にさらに怒りをぶつける。
さらに私はマーリスに怒りをぶつけようと口を開く。
「っ!」
そして、ある考えが自分の頭に浮かんだのはその時だった。
それは今まで何度も頭に過ぎりながら、その度に押し込めてきた思い。
だが、もうその思いを阻む障害はない。
自分の怒声に震えるマーリス、その姿にそのことを理解した私は笑って口を開いた。
「いいだろう。お前が彼女を私に押し付けるというならば、私が貰ってやろう。──サラリアは、私の妻にする」
「っ!」
そして私は、その思いを口にした……
2
お気に入りに追加
6,364
あなたにおすすめの小説
「地味でブサイクな女は嫌いだ」と婚約破棄されたので、地味になるためのメイクを取りたいと思います。
水垣するめ
恋愛
ナタリー・フェネルは伯爵家のノーラン・パーカーと婚約していた。
ナタリーは十歳のある頃、ノーランから「男の僕より目立つな」と地味メイクを強制される。
それからナタリーはずっと地味に生きてきた。
全てはノーランの為だった。
しかし、ある日それは突然裏切られた。
ノーランが急に子爵家のサンドラ・ワトソンと婚約すると言い始めた。
理由は、「君のような地味で無口な面白味のない女性は僕に相応しくない」からだ。
ノーランはナタリーのことを馬鹿にし、ナタリーはそれを黙って聞いている。
しかし、ナタリーは心の中では違うことを考えていた。
(婚約破棄ってことは、もう地味メイクはしなくていいってこと!?)
そして本来のポテンシャルが発揮できるようになったナタリーは、学園の人気者になっていく……。
【完結】ああ……婚約破棄なんて計画するんじゃなかった
岡崎 剛柔
恋愛
【あらすじ】
「シンシア・バートン。今日この場を借りてお前に告げる。お前との婚約は破棄だ。もちろん異論は認めない。お前はそれほどの重罪を犯したのだから」
シンシア・バートンは、父親が勝手に決めた伯爵令息のアール・ホリックに公衆の面前で婚約破棄される。
そしてシンシアが平然としていると、そこにシンシアの実妹であるソフィアが現れた。
アールはシンシアと婚約破棄した理由として、シンシアが婚約していながら別の男と逢瀬をしていたのが理由だと大広間に集まっていた貴族たちに説明した。
それだけではない。
アールはシンシアが不貞を働いていたことを証明する証人を呼んだり、そんなシンシアに嫌気が差してソフィアと新たに婚約することを宣言するなど好き勝手なことを始めた。
だが、一方の婚約破棄をされたシンシアは動じなかった。
そう、シンシアは驚きも悲しみもせずにまったく平然としていた。
なぜなら、この婚約破棄の騒動の裏には……。
パーティー中に婚約破棄された私ですが、実は国王陛下の娘だったようです〜理不尽に婚約破棄した伯爵令息に陛下の雷が落ちました〜
雪島 由
恋愛
生まれた時から家族も帰る場所もお金も何もかもがない環境で生まれたセラは幸運なことにメイドを務めていた伯爵家の息子と婚約を交わしていた。
だが、貴族が集まるパーティーで高らかに宣言されたのは婚約破棄。
平民ごときでは釣り合わないらしい。
笑い者にされ、生まれた環境を馬鹿にされたセラが言い返そうとした時。パーティー会場に聞こえた声は国王陛下のもの。
何故かその声からは怒りが溢れて出ていた。
冷遇された王妃は自由を望む
空橋彩
恋愛
父を亡くした幼き王子クランに頼まれて王妃として召し上げられたオーラリア。
流行病と戦い、王に、国民に尽くしてきた。
異世界から現れた聖女のおかげで流行病は終息に向かい、王宮に戻ってきてみれば、納得していない者たちから軽んじられ、冷遇された。
夫であるクランは表情があまり変わらず、女性に対してもあまり興味を示さなかった。厳しい所もあり、臣下からは『氷の貴公子』と呼ばれているほどに冷たいところがあった。
そんな彼が聖女を大切にしているようで、オーラリアの待遇がどんどん悪くなっていった。
自分の人生よりも、クランを優先していたオーラリアはある日気づいてしまった。
[もう、彼に私は必要ないんだ]と
数人の信頼できる仲間たちと協力しあい、『離婚』して、自分の人生を取り戻そうとするお話。
貴族設定、病気の治療設定など出てきますが全てフィクションです。私の世界ではこうなのだな、という方向でお楽しみいただけたらと思います。
『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……
Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。
優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。
そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。
しかしこの時は誰も予想していなかった。
この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを……
アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを……
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。
目を覚ましたら、婚約者に子供が出来ていました。
霙アルカ。
恋愛
目を覚ましたら、婚約者は私の幼馴染との間に子供を作っていました。
「でも、愛してるのは、ダリア君だけなんだ。」
いやいや、そんな事言われてもこれ以上一緒にいれるわけないでしょ。
※こちらは更新ゆっくりかもです。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
最後に報われるのは誰でしょう?
ごろごろみかん。
恋愛
散々婚約者に罵倒され侮辱されてきたリリアは、いい加減我慢の限界を迎える。
「もう限界だ、きみとは婚約破棄をさせてもらう!」と婚約者に突きつけられたリリアはそれを聞いてラッキーだと思った。
限界なのはリリアの方だったからだ。
なので彼女は、ある提案をする。
「婚約者を取り替えっこしませんか?」と。
リリアの婚約者、ホシュアは婚約者のいる令嬢に手を出していたのだ。その令嬢とリリア、ホシュアと令嬢の婚約者を取り替えようとリリアは提案する。
「別にどちらでも私は構わないのです。どちらにせよ、私は痛くも痒くもないですから」
リリアには考えがある。どっちに転ぼうが、リリアにはどうだっていいのだ。
だけど、提案したリリアにこれからどう物事が進むか理解していないホシュアは一も二もなく頷く。
そうして婚約者を取り替えてからしばらくして、辺境の街で聖女が現れたと報告が入った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる