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第18話 ライフォード目線
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「巫山戯るな!そんなことが、そんなことがあるわけ無いだろうが!」
今までの怯えていた態度が嘘のように、マーリスは怒声をあげる。
そのマーリスの変貌に対し、一瞬私は驚きを隠すことができなかった。
マーリスの怒気に気圧された訳ではないが、ここでこうして怒りを露わにされるとはまるで考えていなかったのだ。
何せ、何故サラリアを婚約破棄したのかと聞いたのは、あくまで純粋な疑問からでしかない。
その疑問が、マーリスを激昂されるとはまるで予想していなかった。
「私の方が優秀に決まっているだろうが!なのに、なのに何故、あの女ばかりが!」
だが、その私の驚きはほんの数秒の間のことだった。
私の目の前であることも忘れ、叫び続けるマーリス。
その口から出る言葉を聞くにつれて、私はマーリスの激怒の理由を理解し始める。
そう、マーリスは優秀なサラリアに対して劣等感を抱いて、おそらくそれがサラリアの婚約破棄の真の理由なのだと。
サラリアの名は今や貴族社会に響いている。
元々、アーステルト家もマーセルラフト家も有する領地は豊かなものではない。
それにもかかわらず、今や両家とも貴族有数の財力を有している。
その理由こそが、様々な魔道具を発明したサラリアだ。
彼女の発明した魔道具は今や貴族には無くてはならないものになっている。
その上、サラリアは一般的には知られていないが、領地経営、社交術共に高い技能を有している。
そんなサラリアは、貴族社会で高い評価を得ている。
それも、マーリスなど比にならないほどの。
……それをプライドの高いマーリスは、許すことができないのだろう。
サラリアから聞いた話では、マーリスは自尊心の高い貴族らしい。
その自尊心が、側に自分よりも優秀な人間を置くことを認めなかった、ということだろう。
「サラリアは直ぐに落ちぶれる。そうなれば貴族社会では本当に優秀なのは私だと、認められるはずだ!」
そのことを、未だ喚くマーリスの言葉と態度から私は悟る。
──私の中で何かが切れる音がした時は、その時だった。
「下らないな」
私は顔に笑みを貼り付け、そうマーリスへと口を開く。
自分の言葉を邪魔されたマーリスが、こちらへと苛立たしげな目を向けるが、次の瞬間そのマーリスの顔は青く染まった。
それを見て、ようやく私は気づく。
どうやら、自分は無意識にマーリスに殺気を漏らしていたらしいと。
しかし、それを理解しても私は殺気を抑えることができなかった。
いや違う。殺気が漏れていることに気づきながら、殺気を抑えようという気持ちにさえ、ならなかった。
そんな自分に、私は自分が久々に激怒していることを理解する。
今まで必死に胸の奥に押し込めていた怒気が胸の中を支配する。
それを私はなんとか押さえ込もうとして──やめた。
本来、第二王子である自分が感情を露わにするのは禁忌だ。
それは弱みになりやすく、普段なら絶対に晒してはならない。
だから私は今まで、感情を抑えることを取り決めとして、自分に強いてきた。
けれど、その取り決めを今だけは破ることにする。
「マーリス、貴様の劣等感は下らない。サラリアの能力の秘密を、知りもせずによくそこまでべらべらと喋れるものだ」
私の殺気混じりの怒気を真正面から受け、マーリスの顔が恐怖で歪む。
未だ怒気を抑えているのにもかかわらず、これでマーリスは限界らしい。
貴族であれば暗殺者に狙われることがあるのだが、サラリアに守られてきたのだろう。
この様子ではどうやら、自分がぬるま湯に浸かってきたことも知らないらしい。
そう呆れを覚えながら、私は口を開く。
「──出来るものなら、今すぐお前をこの手で殺してやりたい」
次の瞬間その言葉を発すると共に、私は怒りを抑えるのをやめた。
今までの怯えていた態度が嘘のように、マーリスは怒声をあげる。
そのマーリスの変貌に対し、一瞬私は驚きを隠すことができなかった。
マーリスの怒気に気圧された訳ではないが、ここでこうして怒りを露わにされるとはまるで考えていなかったのだ。
何せ、何故サラリアを婚約破棄したのかと聞いたのは、あくまで純粋な疑問からでしかない。
その疑問が、マーリスを激昂されるとはまるで予想していなかった。
「私の方が優秀に決まっているだろうが!なのに、なのに何故、あの女ばかりが!」
だが、その私の驚きはほんの数秒の間のことだった。
私の目の前であることも忘れ、叫び続けるマーリス。
その口から出る言葉を聞くにつれて、私はマーリスの激怒の理由を理解し始める。
そう、マーリスは優秀なサラリアに対して劣等感を抱いて、おそらくそれがサラリアの婚約破棄の真の理由なのだと。
サラリアの名は今や貴族社会に響いている。
元々、アーステルト家もマーセルラフト家も有する領地は豊かなものではない。
それにもかかわらず、今や両家とも貴族有数の財力を有している。
その理由こそが、様々な魔道具を発明したサラリアだ。
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その上、サラリアは一般的には知られていないが、領地経営、社交術共に高い技能を有している。
そんなサラリアは、貴族社会で高い評価を得ている。
それも、マーリスなど比にならないほどの。
……それをプライドの高いマーリスは、許すことができないのだろう。
サラリアから聞いた話では、マーリスは自尊心の高い貴族らしい。
その自尊心が、側に自分よりも優秀な人間を置くことを認めなかった、ということだろう。
「サラリアは直ぐに落ちぶれる。そうなれば貴族社会では本当に優秀なのは私だと、認められるはずだ!」
そのことを、未だ喚くマーリスの言葉と態度から私は悟る。
──私の中で何かが切れる音がした時は、その時だった。
「下らないな」
私は顔に笑みを貼り付け、そうマーリスへと口を開く。
自分の言葉を邪魔されたマーリスが、こちらへと苛立たしげな目を向けるが、次の瞬間そのマーリスの顔は青く染まった。
それを見て、ようやく私は気づく。
どうやら、自分は無意識にマーリスに殺気を漏らしていたらしいと。
しかし、それを理解しても私は殺気を抑えることができなかった。
いや違う。殺気が漏れていることに気づきながら、殺気を抑えようという気持ちにさえ、ならなかった。
そんな自分に、私は自分が久々に激怒していることを理解する。
今まで必死に胸の奥に押し込めていた怒気が胸の中を支配する。
それを私はなんとか押さえ込もうとして──やめた。
本来、第二王子である自分が感情を露わにするのは禁忌だ。
それは弱みになりやすく、普段なら絶対に晒してはならない。
だから私は今まで、感情を抑えることを取り決めとして、自分に強いてきた。
けれど、その取り決めを今だけは破ることにする。
「マーリス、貴様の劣等感は下らない。サラリアの能力の秘密を、知りもせずによくそこまでべらべらと喋れるものだ」
私の殺気混じりの怒気を真正面から受け、マーリスの顔が恐怖で歪む。
未だ怒気を抑えているのにもかかわらず、これでマーリスは限界らしい。
貴族であれば暗殺者に狙われることがあるのだが、サラリアに守られてきたのだろう。
この様子ではどうやら、自分がぬるま湯に浸かってきたことも知らないらしい。
そう呆れを覚えながら、私は口を開く。
「──出来るものなら、今すぐお前をこの手で殺してやりたい」
次の瞬間その言葉を発すると共に、私は怒りを抑えるのをやめた。
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