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第12話 マーリス目線

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 どこかの貴族の使用人らしき男が訪ねてきた、と使用人に告げられた次の瞬間、私は玄関に向かって歩き出した。
 歩きながら、私は思わず顔に笑みを浮かべる。

 おそらく、今の時期に貴族の使いの者が来たというのは、私と辺境伯との婚約が理由だろう。
 つまり、辺境伯との繋がりを得た私との仲を深めようとしているのだ。

 それこそが、私の望んでいた状況だった。
 辺境伯の娘と婚約したところで、辺境伯の権限が得られるようになるわけではない。
 だが、他の貴族と辺境伯との仲を取り持つように振る舞えば、それだけで貴族社会の中で私の存在は大きなものとなる。

 それが狙いであったからこそ、私は使用人であれど、失礼のないように自分自ら迎えに上がろうとする。

 ……だからこそ、私は使用人が自身の屋敷に入る前に、その使用人の異常に気づくことになった。

 「……ん?」

 窓から見えた玄関に立つ帽子を被った平民の男、それを見て私は思わず眉を潜めた。
 その帽子を被った平民の男は、貴族が使いの者として寄越すには、相応しくない格好をしていた。
 どうやら、男が貴族の使いであるというのは、勘違いだったらしい。
 恐らく、男は職を無くして自分を貴族に売り込みに来た元貴族の使用人なのだろう。

 「っ!平民如きが、紛らわしい真似を!」

 そう判断した私は、苛立たしげに顔を歪める。
 そしてその苛立ちのまま、使用人達にその男を返すように言おうとする。

 だが、その時あることに気づいた私は、目を見開き口を閉じた。

 大きな帽子を被っているせいで、私は平民の男の顔を確認することはできない。
 しかし、その男の着ている服が見覚えのあるものであることに、私は気づいたのだ。
 それも、最近目にしたものであることに。

 「この男は、使える」

 次の瞬間、私は笑みを浮かべてそう呟いた。
 今自分の中にある考えに、今まで抱いていた苛立ちが消えていくのを感じる。

 「あの男を、私の自室に呼べ」

 側にいた使用人にそう言い放った後、私は自分の計画を成功させるために歩き出した。




 その時、笑みを浮かべるその時の私は知らない。
 ……後に、その男を屋敷の中に入れたことを、どれだけ後悔するかを。
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