上 下
2 / 3

第二話

しおりを挟む
「これに懲りたら、もう刃向かおうなんて考えるなよ」

 それから十数分後、私は散らかった部屋の中、地面に転がっていた。
 普段は裕樹は決して見えるところに傷を付けたりはしない。
 しかし、今回だけはそう言うわけにも行かなかった。
 さすがに顔面だけを殴られたりなどはないが、口の中には鉄の味が広がっている。
 そんな私の姿を見下ろして、満足したのか裕樹は出かける準備をし出す。
 ふと、何かを思いついたように私の携帯を手に取ったのは、その時だった。

「そんなに解放されたいなら、お前も浮気して見ろよ」

 そういって、裕樹は何らかの操作をした後、スマホを私の方に向けた。

「……っ!」

 次の瞬間、フラッシュが私を照らし、写真を撮られたことを私は悟る。

「ほら、これで好きなだけ男を捜せよ。淫乱てプロフィールに書いてやったからよ」

 そうして私の前に尽きだされたスマホに入っていたのは、マッチングアプリだった。
 しかし、私のプロフィールは傷だらけで化粧もなく、散らかった地面で寝ころんでいる今の状態の写真。
 それを呆然と見つめる私に笑って裕樹は告げる。

「まあ、そんな惨めな格好で男が捕まえられるんならな。後、俺が帰ってくるまでには部屋は片づけておけよ」

 そういって、裕樹は玄関から出て行く。

 ……それから、少しの間私はただ呆然とその場で転がることしかできなかった。

 しかし、何とかしてスマホを手に取った私は、全身痛むのを無視し、スマホを無心で操作し続ける。

「……けて」

 気づけば、私の目からは涙が次々とあふれ出していた。
 もう、自身の写真など私には関係なかった。
 ただ、もう私は限界だった。
 誰でもいいから、この状況から助けだしてくれる人が欲しくてたまらなかった。

「誰か、助けて……!」

 ゴミが散乱し、イスが倒れ、破れたビニールが床を彩る部屋を、スマホのブルーライトだけが照らす部屋。
 その中心で私は泣きながら、スマホを操作する。

「……え?」

 ──急に画面が変わり、真ん中にマッチングという文字が現れたのはそんな時だった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

駆け落ちから四年後、元婚約者が戻ってきたんですが

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:120pt お気に入り:3,094

婚約破棄、無かったことにできると思いましたか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:3,944

婚約破棄されましたが、特に問題ありませんでした

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:4,061

妹に全てを奪われた私は〜虐げられた才女が愛されることを知るまで〜

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:198pt お気に入り:7,709

邪魔者というなら私は自由にさせてもらいますね

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:390pt お気に入り:3,662

自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:6,532

冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜

恋愛 / 完結 24h.ポイント:177pt お気に入り:8,152

裏切り者、そう呼ばれた令嬢は

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:6,384

処理中です...