奴隷扱いから逃げ出したい〜弁護士になった幼なじみとマッチングしました〜

第一話

「おい、遥。本当にお前、まずい飯しか作れないんだな」

　その言葉に、私はただ無言で俯く。
　いつものこと、黙っていればすむ話だと。
　だが、黙っている私が気に入らないのか、さらに声の主……夫はヒートアップして告げる。

「せっかく俺がもらってやったのに、この程度の仕事さえこなせないの、お前？　誰のおかげで楽な専業主婦させてもらっていると思っているの？」

　その言葉に、私は内心叫ぶ。

　……誰が、専業主婦であることなど望んだと。

　確かに、夫である裕樹は二十代後半という同年代の中では稼いでいる方だろう。
　しかし、看護婦であった私はそれ以上に稼ぎがあった。
　にも関わらず、私は強制的に仕事を辞めさせられたのだ。

　それを言っても裕樹を激高させるだけと知る私は何とか気持ちを押さえ込む。
　前に激高した裕樹に殴られた時の腹部の痣はまだ完治していない。
　その痛みが、私の怒りに茹だりかけた脳を冷静にする。

「ま、いいや。俺は外で食ってくるから」

「……っ！」

　──しかし、そう冷静でいられたのはその時までだった。

　にやにやとした表情でそう告げた裕樹を見た瞬間、私の中で怒りが爆発した。

「なにが外よ！　あの女のところに行くんでしょう！」

「はあ？」

　私の叫びに、準備をしに立ち上がっていた裕樹がこちらに振り返る。
　その顔に苛立ちと、わずかな優越感を滲ませ、裕樹は口を開く。

「あのな、嫉妬は分かるが、いちいち怒らないでも……」

「外にいるなら。もう他にいるなら、私をもう解放してよ……！」

「……あぁ？」

　涙が溢れ、前が滲む。
　もう裕樹に対して嫉妬の感情など私にはなかった。
　ただ、この状況から逃げたいが故に私は叫ぶ。

「もう、私はいいでしょう！　だったら、離婚してよ！　私はもう……」

「なあ、遥。お前誰に向かって口を利いてる……？」

「え？」

　しかし、感情のままに振る舞った私に待っていたのは感情の消えた裕樹の声だった。
　それを聞いて今更ながら私は気づく。
　自分は今までで一番言ってはならないことを言ってしまったと。

「教育しなおしてやるよ」

　……しかし、その後悔はもう後の祭りだった。


　◇◇◇


　知識的に絶対描ききれないけど、折角思いついた故の供養的な全三話です。
　短編と言うより、完全に序盤部分をおいてるだけなので、ご注意下さい。