48 / 82
甲斐の国衆
しおりを挟む
上杉との同盟成立の兆しが見えると、武田家でも上杉との同盟を祝う気運が高まっていた。
「流石はお館様。上杉北条を相手に一歩も引かず立ち回るとは……」
「これで上杉との同盟も時間の問題ですな」
同盟成立を前に、長坂昌国、曽根虎盛が機嫌を良くする。
初めは上杉との同盟には反対を表明する家臣も多かったが、いざ同盟を目前にすると反対意見も消えていた。
口でこそ上杉を誹っていたが、その実誰もが上杉との対立を望んでいなかったのだろう。
(謙信は強いからな……。まともに相手をしては、どれだけ犠牲が出るかわからないぞ……)
上杉、北条との三国同盟が締結されれば、北と東の脅威は排除され、織田家との戦いに集中することができる。
さらに、織田との戦いに上杉や北条の兵も動員できるとなれば、戦いにも余裕が生まれる。
「また一歩上洛に近づいたな」
義信がうんうんと頷く。
ともあれ、すべてが順風満帆というわけでもなかった。
先の飛騨の戦いを制したことで、武田家は飛騨を加えた7ヶ国を領有する大大名となっていた。
しかし、領地の拡大に伴い、人や土地が増えたことで、それらを管理する官僚の不足が目立ってきた。
それらを管理する場所を作るべく、義信は甲斐の地図を広げた。
「やはり狭いな……」
「仕方ありますまい……。甲斐には多くの国衆もおり、使える土地は限られてます」
守護大名とはいえ、元々武田家は甲斐の国人衆の代表でしかない。
そのため、甲斐を治めているとはいえ、他の国人に気を遣いながら、どうにか守護大名の地位に収まっているにすぎなかった。
今でこそ7ヶ国の太守となっているが、甲斐での武田家は未だ一有力勢力の一つにすぎなかった。
「広い土地を確保するにも、まずは国衆に話をつけ、融通してもらう必要がありましょうな。その上で代わりとなる土地を与え、機嫌を損ねぬようせねばなりますまい」
「面倒だな……」
「我らも国衆に支えられ、ここまでこられたのです。仕方ありますまい」
飯富虎昌の言葉もわかるが、今はその国衆が足枷となっている。
150万石の大大名にもなったというのに、国元の家臣すら御せないとあっては、今後の領地運営に支障をきたすことは目に見えていた。
かといって、国衆を軽んじるということは、譜代の家臣から反感を買いかねない。
国衆か。武田家か。
答えはわかりきっているはずなのに、片方をとってはもう片方が立ち行かなくなる。
そこまで考えて、ふと思い至った。
そういえば、信長は那古野城からはじまり、清洲城、小牧山城、岐阜城と拠点を移動させている。
それならば、武田家も本拠地を移転させるのはアリなのではないか。
「……決めたぞ、爺」
嫌な予感がしつつ、飯富虎昌が尋ねた。
「いったい、なにを……」
「本拠地を移転させる」
「は!?」
「流石はお館様。上杉北条を相手に一歩も引かず立ち回るとは……」
「これで上杉との同盟も時間の問題ですな」
同盟成立を前に、長坂昌国、曽根虎盛が機嫌を良くする。
初めは上杉との同盟には反対を表明する家臣も多かったが、いざ同盟を目前にすると反対意見も消えていた。
口でこそ上杉を誹っていたが、その実誰もが上杉との対立を望んでいなかったのだろう。
(謙信は強いからな……。まともに相手をしては、どれだけ犠牲が出るかわからないぞ……)
上杉、北条との三国同盟が締結されれば、北と東の脅威は排除され、織田家との戦いに集中することができる。
さらに、織田との戦いに上杉や北条の兵も動員できるとなれば、戦いにも余裕が生まれる。
「また一歩上洛に近づいたな」
義信がうんうんと頷く。
ともあれ、すべてが順風満帆というわけでもなかった。
先の飛騨の戦いを制したことで、武田家は飛騨を加えた7ヶ国を領有する大大名となっていた。
しかし、領地の拡大に伴い、人や土地が増えたことで、それらを管理する官僚の不足が目立ってきた。
それらを管理する場所を作るべく、義信は甲斐の地図を広げた。
「やはり狭いな……」
「仕方ありますまい……。甲斐には多くの国衆もおり、使える土地は限られてます」
守護大名とはいえ、元々武田家は甲斐の国人衆の代表でしかない。
そのため、甲斐を治めているとはいえ、他の国人に気を遣いながら、どうにか守護大名の地位に収まっているにすぎなかった。
今でこそ7ヶ国の太守となっているが、甲斐での武田家は未だ一有力勢力の一つにすぎなかった。
「広い土地を確保するにも、まずは国衆に話をつけ、融通してもらう必要がありましょうな。その上で代わりとなる土地を与え、機嫌を損ねぬようせねばなりますまい」
「面倒だな……」
「我らも国衆に支えられ、ここまでこられたのです。仕方ありますまい」
飯富虎昌の言葉もわかるが、今はその国衆が足枷となっている。
150万石の大大名にもなったというのに、国元の家臣すら御せないとあっては、今後の領地運営に支障をきたすことは目に見えていた。
かといって、国衆を軽んじるということは、譜代の家臣から反感を買いかねない。
国衆か。武田家か。
答えはわかりきっているはずなのに、片方をとってはもう片方が立ち行かなくなる。
そこまで考えて、ふと思い至った。
そういえば、信長は那古野城からはじまり、清洲城、小牧山城、岐阜城と拠点を移動させている。
それならば、武田家も本拠地を移転させるのはアリなのではないか。
「……決めたぞ、爺」
嫌な予感がしつつ、飯富虎昌が尋ねた。
「いったい、なにを……」
「本拠地を移転させる」
「は!?」
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
暁のミッドウェー
三笠 陣
歴史・時代
一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。
真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。
一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。
そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。
ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。
日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。
その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。
(※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)
明日の海
山本五十六の孫
歴史・時代
4月7日、天一号作戦の下、大和は坊ノ岬沖海戦を行う。多数の爆撃や魚雷が大和を襲う。そして、一発の爆弾が弾薬庫に被弾し、大和は乗組員と共に轟沈する、はずだった。しかし大和は2015年、戦後70年の世へとタイムスリップしてしまう。大和は現代の艦艇、航空機、そして日本国に翻弄される。そしてそんな中、中国が尖閣諸島への攻撃を行い、その動乱に艦長の江熊たちと共に大和も巻き込まれていく。
世界最大の戦艦と呼ばれた戦艦と、艦長江熊をはじめとした乗組員が現代と戦う、逆ジパング的なストーリー←これを言って良かったのか
主な登場人物
艦長 江熊 副長兼砲雷長 尾崎 船務長 須田 航海長 嶋田 機関長 池田
江戸時代改装計画
城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
皇紀2603年7月4日、大和甲板にて。皮肉にもアメリカが独立したとされる日にアメリカ史上最も屈辱的である条約は結ばれることになった。
「では大統領、この降伏文書にサインして貰いたい。まさかペリーを派遣した君等が嫌とは言うまいね?」
頭髪を全て刈り取った男が日本代表として流暢なキングズ・イングリッシュで話していた。後に「白人から世界を解放した男」として讃えられる有名人、石原莞爾だ。
ここはトラック、言うまでも無く日本の内南洋であり、停泊しているのは軍艦大和。その後部甲板でルーズベルトは憤死せんがばかりに震えていた。
(何故だ、どうしてこうなった……!!)
自問自答するも答えは出ず、一年以内には火刑に処される彼はその人生最期の一年を巧妙に憤死しないように体調を管理されながら過ごすことになる。
トラック講和条約と称される講和条約の内容は以下の通り。
・アメリカ合衆国は満州国を承認
・アメリカ合衆国は、ウェーキ島、グアム島、アリューシャン島、ハワイ諸島、ライン諸島を大日本帝国へ割譲
・アメリカ合衆国はフィリピンの国際連盟委任独立準備政府設立の承認
・アメリカ合衆国は大日本帝国に戦費賠償金300億ドルの支払い
・アメリカ合衆国の軍備縮小
・アメリカ合衆国の関税自主権の撤廃
・アメリカ合衆国の移民法の撤廃
・アメリカ合衆国首脳部及び戦争煽動者は国際裁判の判決に従うこと
確かに、多少は苛酷な内容であったが、「最も屈辱」とは少々大げさであろう。何せ、彼らの我々の世界に於ける悪行三昧に比べたら、この程度で済んだことに感謝するべきなのだから……。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる