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甲斐の国衆

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 上杉との同盟成立の兆しが見えると、武田家でも上杉との同盟を祝う気運が高まっていた。

「流石はお館様。上杉北条を相手に一歩も引かず立ち回るとは……」

「これで上杉との同盟も時間の問題ですな」

 同盟成立を前に、長坂昌国、曽根虎盛が機嫌を良くする。

 初めは上杉との同盟には反対を表明する家臣も多かったが、いざ同盟を目前にすると反対意見も消えていた。

 口でこそ上杉をそしっていたが、その実誰もが上杉との対立を望んでいなかったのだろう。

(謙信は強いからな……。まともに相手をしては、どれだけ犠牲が出るかわからないぞ……)

 上杉、北条との三国同盟が締結されれば、北と東の脅威は排除され、織田家との戦いに集中することができる。

 さらに、織田との戦いに上杉や北条の兵も動員できるとなれば、戦いにも余裕が生まれる。

「また一歩上洛に近づいたな」

 義信がうんうんと頷く。

 ともあれ、すべてが順風満帆というわけでもなかった。

 先の飛騨の戦いを制したことで、武田家は飛騨を加えた7ヶ国を領有する大大名となっていた。

 しかし、領地の拡大に伴い、人や土地が増えたことで、それらを管理する官僚の不足が目立ってきた。

 それらを管理する場所を作るべく、義信は甲斐の地図を広げた。

「やはり狭いな……」

「仕方ありますまい……。甲斐には多くの国衆もおり、使える土地は限られてます」

 守護大名とはいえ、元々武田家は甲斐の国人衆の代表でしかない。

 そのため、甲斐を治めているとはいえ、他の国人に気を遣いながら、どうにか守護大名の地位に収まっているにすぎなかった。

 今でこそ7ヶ国の太守となっているが、甲斐での武田家は未だ一有力勢力の一つにすぎなかった。

「広い土地を確保するにも、まずは国衆に話をつけ、融通してもらう必要がありましょうな。その上で代わりとなる土地を与え、機嫌を損ねぬようせねばなりますまい」

「面倒だな……」

「我らも国衆に支えられ、ここまでこられたのです。仕方ありますまい」

 飯富虎昌の言葉もわかるが、今はその国衆が足枷となっている。

 150万石の大大名にもなったというのに、国元の家臣すら御せないとあっては、今後の領地運営に支障をきたすことは目に見えていた。

 かといって、国衆を軽んじるということは、譜代の家臣から反感を買いかねない。

 国衆か。武田家か。

 答えはわかりきっているはずなのに、片方をとってはもう片方が立ち行かなくなる。

 そこまで考えて、ふと思い至った。

 そういえば、信長は那古野城からはじまり、清洲城、小牧山城、岐阜城と拠点を移動させている。

 それならば、武田家も本拠地を移転させるのはアリなのではないか。

「……決めたぞ、爺」

 嫌な予感がしつつ、飯富虎昌が尋ねた。

「いったい、なにを……」

「本拠地を移転させる」

「は!?」
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