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15話 ノーム家での会話 その1
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「ウォーレス、ニーナ。良く来てくれたわね」
「ええ、アーチェ。約束しましたからね」
「アーチェと話し合いをする為なら、私の方から屋敷に出向くことくらい、どうってことないさ」
屋敷を訪ねて来たウォーレスとニーナ。まったく歓迎はしていないけれど、私は応接室に連れて行くことにした。
現在、彼らの前に座っているのは私とお父様、弟のフォルセの3人だ。その周りを使用人で囲んでいる。少しでも相手にプレッシャーを与えるという意味合いで、そういう布陣になったのだけれど、特に効果はないようだった。
平然とした口調でニーナが話しかけて来たからだ。
「まさか、ノーム伯爵までいらっしゃるなんて思いませんでした。アーチェ嬢の幼馴染である、ニーナ・オルスタインと申します」
「ええ、存じておりますよ。お久しぶりですね」
「はい、お久しぶりでございます」
お淑やかな雰囲気を纏わせたまま、ニーナはお父様に挨拶をした。ニーナもウォーレスも私の幼馴染である為に、私の屋敷に来るのは初めてではない。それだけに、他の貴族よりもお父様との関係性は深いと言えた。今はとてもそんなことを言える状況ではないけれど……。
「さて、使用人に持って来させた紅茶は行き渡ったようですな。ニーナ嬢が持ってきてくれた、お茶菓子もあります」
「ええ、そうですね……淹れていただいた紅茶と合いそうで良かったですわ。珍しい茶菓子になりますので、是非、食べていただきたいと思います」
「これはこれは、ご丁寧にありがとうございます」
ありえないことだけれど、私は一瞬、毒でも入っているんじゃないかと思ってしまった。ニーナがそんなことをする意味がないわね。
「どうしたんです、アーチェ。食べていただけないのですか?」
「いえ、そういうワケじゃないんだけれど……」
「大丈夫ですよ、毒なんて入ってませんから」
そう言いながら、ニーナは自分で持ってきた茶菓子を淡々と食べていた。考えていることが見抜かれたのは、恥ずかしい……彼女は冗談のつもりで言ったのだろうけど。
「ま、まあ毒なんて入ってないだろうけど……本題を進めても良いかしら?」
「ええ、構いませんよ」
私は恥ずかしさを紛らわす為に、お茶菓子を慌てて食べる。それからすぐに本題に移行する予定だったのだけれど……。
「あ、美味しい……」
「ええ、姉さま。確かにとても美味しいです」
「流石はニーナ嬢といったところですかな。このような手土産を持参していただき、本当にありがとうございます」
「いえいえ、そんな……お礼を言われることなんてしていませんわ。婚約者のウォーレスが行ったことに比べれば、このような菓子折り、何の罪滅ぼしにもなっていません」
「お、おいニーナ……それは酷いよ」
「本当のことでしょう、ウォーレス?」
「そ、それはそうかもしれないけど……確かに私はアーチェに酷いことをしてしまったかな……」
なんとも気弱ながら、ウォーレスも自分の罪? を認めているようだった。ニーナに言われて渋々といった感じだけれど。
「フォルセ、これは……」
「姉さま、すぐに信用してはいけませんよ? 他人を信じるのは姉さまの良い部分ですが、今回ばかりは逆効果になりそうですので……」
フォルセから釘を刺されてしまった。確かに私の幼馴染に固執する性格が出そうになっていた。こうやって応接室を囲んでの団欒は憧れるシチュエーションだからだ。私はそういった愛に飢えているのかもしれない……。
「お茶菓子についてはその辺りで良いでしょう。さて、本題ですが……ニーナ嬢、ウォーレス殿。いきなり、こういうことを言うのは気が引けるのですが、幼馴染ということを盾にしてアーチェに近づくのは、もう止めていただけませんかな? 今後は他人として接していただきたいと存じます」
「お、お父様……?」
お父様からの急な言葉は、応接室を凍り付かせるには十分だった。先ほどまでの雰囲気が完全に壊れている。
「あら、急なお話ですわね、ノーム伯爵」
「それほど急な話でもないでしょう。ウォーレス殿と婚約をしているあなたが、この屋敷に来ること自体が非常識なのだから」
お父様の言葉は止まらなかった……ニーナはそこまで言われても、平然としているけれど、わずかに眉をひそめているような気がした。
「ええ、アーチェ。約束しましたからね」
「アーチェと話し合いをする為なら、私の方から屋敷に出向くことくらい、どうってことないさ」
屋敷を訪ねて来たウォーレスとニーナ。まったく歓迎はしていないけれど、私は応接室に連れて行くことにした。
現在、彼らの前に座っているのは私とお父様、弟のフォルセの3人だ。その周りを使用人で囲んでいる。少しでも相手にプレッシャーを与えるという意味合いで、そういう布陣になったのだけれど、特に効果はないようだった。
平然とした口調でニーナが話しかけて来たからだ。
「まさか、ノーム伯爵までいらっしゃるなんて思いませんでした。アーチェ嬢の幼馴染である、ニーナ・オルスタインと申します」
「ええ、存じておりますよ。お久しぶりですね」
「はい、お久しぶりでございます」
お淑やかな雰囲気を纏わせたまま、ニーナはお父様に挨拶をした。ニーナもウォーレスも私の幼馴染である為に、私の屋敷に来るのは初めてではない。それだけに、他の貴族よりもお父様との関係性は深いと言えた。今はとてもそんなことを言える状況ではないけれど……。
「さて、使用人に持って来させた紅茶は行き渡ったようですな。ニーナ嬢が持ってきてくれた、お茶菓子もあります」
「ええ、そうですね……淹れていただいた紅茶と合いそうで良かったですわ。珍しい茶菓子になりますので、是非、食べていただきたいと思います」
「これはこれは、ご丁寧にありがとうございます」
ありえないことだけれど、私は一瞬、毒でも入っているんじゃないかと思ってしまった。ニーナがそんなことをする意味がないわね。
「どうしたんです、アーチェ。食べていただけないのですか?」
「いえ、そういうワケじゃないんだけれど……」
「大丈夫ですよ、毒なんて入ってませんから」
そう言いながら、ニーナは自分で持ってきた茶菓子を淡々と食べていた。考えていることが見抜かれたのは、恥ずかしい……彼女は冗談のつもりで言ったのだろうけど。
「ま、まあ毒なんて入ってないだろうけど……本題を進めても良いかしら?」
「ええ、構いませんよ」
私は恥ずかしさを紛らわす為に、お茶菓子を慌てて食べる。それからすぐに本題に移行する予定だったのだけれど……。
「あ、美味しい……」
「ええ、姉さま。確かにとても美味しいです」
「流石はニーナ嬢といったところですかな。このような手土産を持参していただき、本当にありがとうございます」
「いえいえ、そんな……お礼を言われることなんてしていませんわ。婚約者のウォーレスが行ったことに比べれば、このような菓子折り、何の罪滅ぼしにもなっていません」
「お、おいニーナ……それは酷いよ」
「本当のことでしょう、ウォーレス?」
「そ、それはそうかもしれないけど……確かに私はアーチェに酷いことをしてしまったかな……」
なんとも気弱ながら、ウォーレスも自分の罪? を認めているようだった。ニーナに言われて渋々といった感じだけれど。
「フォルセ、これは……」
「姉さま、すぐに信用してはいけませんよ? 他人を信じるのは姉さまの良い部分ですが、今回ばかりは逆効果になりそうですので……」
フォルセから釘を刺されてしまった。確かに私の幼馴染に固執する性格が出そうになっていた。こうやって応接室を囲んでの団欒は憧れるシチュエーションだからだ。私はそういった愛に飢えているのかもしれない……。
「お茶菓子についてはその辺りで良いでしょう。さて、本題ですが……ニーナ嬢、ウォーレス殿。いきなり、こういうことを言うのは気が引けるのですが、幼馴染ということを盾にしてアーチェに近づくのは、もう止めていただけませんかな? 今後は他人として接していただきたいと存じます」
「お、お父様……?」
お父様からの急な言葉は、応接室を凍り付かせるには十分だった。先ほどまでの雰囲気が完全に壊れている。
「あら、急なお話ですわね、ノーム伯爵」
「それほど急な話でもないでしょう。ウォーレス殿と婚約をしているあなたが、この屋敷に来ること自体が非常識なのだから」
お父様の言葉は止まらなかった……ニーナはそこまで言われても、平然としているけれど、わずかに眉をひそめているような気がした。
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