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第5章(3)弥夜side
5-3-6
しおりを挟む膝を着いたまま、立ち上がれない。
手はダランとして、魔器を握るどころか、柄に手を伸ばす事も出来ない。
「ッ、立て!!」
紫夕さんは僕の腕を掴むと、グイッと強く引いて立たせようとした。
けど、お父さんを……。心の支えにしてきた全てを失った僕は、もう、どうでも良かった。
そんな無反応の僕に、紫夕さんが大きな声を響かせる。
「このまま魔物の住処に居たら喰われちまうぞッ?!立てっ……!!
一緒に帰るんだ!!弥夜ッ……!!!!!」
ーー……かえ、る?
その言葉に、勝手に心が反応した。
か、える?
かえ……る?
一緒に、帰るーー……?
僕は、「ククッ」って、喉を鳴らして笑った。「ハハッ」って、乾いた笑いが溢れて、その後に……。
「……っ、ないよ。
……ッ、……帰る、場所なんて……僕には、ないっ」
そう言った。
全てを失ったと、思っていたんだ。
自分には、もう何もないと思っていたんだ。
そして、自分自身も……。
守護神の隊員でも。
第1部隊の仲間でも。
紫愛の兄でも。
紫夕さんの息子でも。
望月家の家族でも……。
もう、何者でもないと、思ったんだ。
ーー……バキッ!!!
そんな僕の頬を、紫夕さんは殴り付けた。
けど、その後にすぐに「馬鹿野郎ッ」って顔を歪ませながら言って、僕を力一杯抱き締めたんだ。
密着した身体から、微かに震えているのが伝わってくる。
紫夕さんが、僕を抱き締めて泣いていた。
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