グレイ

第５章（３）弥夜side

5-3-1

もう、帰れない。
帰る場所なんてないーー。

必死に。
必死に守ってきたのに、僕は自分の手でそれを壊した。
好きな人も、家族も、仲間も……全部。

紫夕さん父さん、怒ってるだろうな。今まで育ててもらった恩を仇で返した僕を……。
いや、怒りを通り越して呆れられているかも知れない。
取り返しのつかない事を、僕はしてしまったのだから……、……。

……
…………。

ーー……っ、朝……か。

眩しい。
木の上で眠っていた僕は、朝を告げる太陽の光に目を覚まされた。

守護神ガーディアン本部を飛び出して、一夜明けた。
僕が今居る場所は、自分の本当の父親かも知れないダークゲイルが目撃された森林湿地地帯。危険区域だから許可なく入れぬよう守護神ガーディアンが設置した門ゲートがあるが、人型魔物である僕にとってそれを突破する事は容易かった。

ここまで来たんだ。
もう、後戻りは出来ないーー。

紫夕さん父さんに引き取られてから積み重ねてきた大切なものは、もう全て失くなった。
進むしかない。前に、前に……。
そう自分に言い聞かせる僕に残されたのは、本当の父親の存在だけ……。その想いだけが、僕を突き動かしていた。

絶対に見付ける。
お父さんに会うんだーー。

休んでいた木の上から降りると、僕は更に森林の奥へと歩みを進めた。


危険な場所だという事は分かっていた。
守護神ガーディアンの優秀な調査員長が認定したこの森林湿地地帯の危険度は、ダークゲイルが出現するかも知れないという事を省いてもかなり高い区域。

でも僕は自分が人型魔物である事。
これまで守護神ガーディアンの第１部隊の隊員として、最前線で戦ってきた事。
また、何より自分は今まで本気を出して戦った事がない、という経験から己の力を過信していた。

自分なら1人でも大丈夫、と甘い考えで居たんだ。

……
…………。