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第11章(1)雪side
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しおりを挟む紫夕に手を引かれて町を出て、そのままオレ達は車が止めてある茂みまで走った。
途中、残して来てしまった響夜の事が気になって何度も振り返りたかったけど、オレじゃなんの力にもなれなくて、むしろ足手纏いになるだけ……。
それに、オレには他にするべき事があると思った。
響夜が今日一緒に過ごした時間で教えてくれた事を、無駄にしないーー。
そう心に誓って、走って走って……。オレは紫夕と、何とか追っ手に追われる事もなく車の元まで辿り着けた。
……
…………でも、オレは情けない。
すぐに紫夕と話したかったけど、全力で走ったせいで息が上がっちゃって……。結局、話を切り出せず助手席に座らされて、「とりあえず、町を離れよう」って言う紫夕に従うしか出来なかった。
そして、車が走り始めてから約三十分。
タイミングと勢いを逃しちゃって、車内はシーンッとしたまま。
チラッと様子を伺うけど、紫夕は運転に集中してて、全然こっちを見てくれない。
このまま家に着くまで、何も言えないのかな……?
そんな不安が過って……。でも、それじゃ駄目だと思ったオレは話を切り出そうと決意して、拳をギュッと握り締めた。
けど、その時。車が止まった。
!っ、……え?
ハッとして窓の外を見る。
が、家、ではない。そこは家の付近でもなさそうな、知らない場所だった。
微かに耳に届く水の流れる音と同時に、少し離れた場所にある川が目に映って、ここが河原だと言う事が分かる。
すると、シートベルトを外した紫夕が運転席から降りた。オレもシートベルトを外すと、後を追うように車から降りる。
そして、すぐに反対側の紫夕の方へ行くと、彼は夕方から夜に変わりそうな空を見つめていた。
あとどれだけ、オレは紫夕と居られるんだろうーー?
その瞬間、真っ先に浮かんだのはそんな感情だった。
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