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第10章(3)雪side
10-3-6
しおりを挟むそして、ヨロけた紫夕よりも早く体勢を整えると、今度は自分が胸倉を掴みかかり顔をグッと近付けて言った。
「そんなに大事なら、二度と離すんじゃねぇ。
次泣かせてみろ。……もう絶対に、返さねぇからなっ」
ーー……。
……、響……夜?
その、信じられない言葉と、今まで見た事がなかった響夜の表情に、オレは瞬きも出来ずに横顔を見つめてしまう。
静かな怒りを秘めた声と、複雑な想いを抑えているような表情に見えるのは、オレの気のせいなんだろうか?
紫夕も、今までとは全然違う響夜の様子を感じ取ってか、ただ瞳を逸らさずに見つめ返していた。
暫くすると、紫夕の胸倉をゆっくり放した響夜が口を開く。
「……行け」
「っ……響夜?」
「早く行け。騒いだせいで警備が来る」
その言葉にハッとして周りを見ると、殴り合いをしたせいでいつの間にか人集りが出来ていて、オレの耳にも警備が駆けてくる足音が聞こえた。
大変だ、っ……逃げなきゃ。
オレを助ける為に、守護神を無理矢理抜けた紫夕。もし捕まって身元がバレたら、どうなってしまうか分からない。
そう気付いて身に迫る不安に襲われていると、ゆっくりと歩き出した響夜が言った。
「僕が引きつける」
「え?」
「僕が相手してるうちに行け」
「っ、……で、でも、響夜は?」
「ハッ、お前に心配される程弱くねぇよ。
紫夕さん、そのグズさっさと連れてって下さい」
オレの言葉に響夜は鼻で笑って、またいつもの口調に戻っていた。
でも、顔はどんな表情をしてるのか分からなくて……。もう一度見たかったけど、見る事が出来ないまま、オレはその場を離れる事になる。
「……。
っ、すまねぇ、響夜。雪、行くぞ」
紫夕に手を引かれて、何も出来ないオレはただ前を向いて走るしかなかった。
「じゃあな。
……、…………雪」
背後から微かに聞こえたその呟きは、オレの名前なのに、違う音に聞こえた気がした。
……
…………。
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