16 / 49
第2章 別に…
第16話 親父
しおりを挟む
「え…何で…」
(何で…そんな顔に出てたのか?)
世理は俯いていた顔を上げ、葵を見つめる。
葵も此方を見つめていた。その葵の顔は真剣そのもので、俺はその表情に何故か罪悪感を感じた。
「何でって…それは…」
何か言おうとすると、葵はまた先ほどと同様沈黙する。
その後の葵はモジモジとせずに表情を曇らせる。
そしてまた、時は静かに流れる。
何故か息が詰まる。
そんな空間で葵の表情を見ていた俺は、何故か言おうと思っていなかった言葉を口に出してしまった。
「俺、結構…親父の事が嫌いなんだ」
世理が言うと葵は驚愕の表情を浮かべた後、眉間に深い溝を作った。
言うつもりはなかった。だが言ってしまった。言ってしまったからには、全てを話そうと思った。思いの丈を、全て。
「嫌い、なんですか…?」
「あぁ。凄く、な」
「そう…ですか…」
そしてまた顔を俯かせる。
「昔から自分勝手で我儘。毎日俺が料理を作ったし皿も洗った。それに頭の中はほぼ絵の事ばっか。俺が授業参観がある時なんて、1度も顔を出した事がない。俺は家事があるから友達と遊ぶ機会は極端に少な
「もういいです!!」
葵は大きな声で、リビング中に怒鳴り声を響かせる。
コイツにとっては自分の母親が選んだ再婚相手、今は父親だ。そんな事を言われるのが嫌だったかもしれない。
「…なんだよ、 あのクソ親父の悪い所ならもう1時間は行けるぞ?」
世理は口角を上げ、葵を煽る様な口調で流暢に話して行く。
そして葵は椅子から立ち上がる。
「…時間の無駄でした。もういいです」
葵は踵を返し、リビングの扉の方へと歩いて行く。
その振り返った時に見えた表情は怒気、そして失望の気が混ざりあった複雑な表情を浮かべていた。
この数日過ごしたから分かる。此処は手を出すタイミング。なのに手を出さないと言う事は親父の事をそれなりに想ってるって事だ…。
「だけど……良いところも一杯あるんだ。例えば、ご飯時はいつも俺と一緒に食べてくれる」
世理が呟くと葵は動きを止める。
「…」
「別に他人からしたらそんな事かって思うかもしれないけど…その時間だけがまともな親父との交流の場で、自分の方が絵が上手く行ってなくて切羽詰まっている筈なのに俺のご飯を食べていつも”美味い”って言う。そして俺の学校であった日常を笑顔で聞いてくるんだ…」
「笑って…ですか?」
「あぁ。その時だけじゃないぞ。親父は不器用だからか、ずっと笑ってんだ。絵で悔しい気持ちとか、悲しい気持ちがある筈なのに、それを隠して、押し殺して…」
あの時は俺も時期的に1番参ってた時期だ。それなのに…親父は1つも俺に弱みを見せようとしなかった。
俺が学校から帰ってきた時に部屋で泣いてた時もあった。頭を抱えてた時もあった。
「だけど、親父は…俺にとって1番強い親父であったんだ。自分がどんな気持ちであったとしても俺の"ヒーロー"だったんだ」
「…」
「だから親父に心配させたくなかったんだ。俺達が仲良くやってるって聞けば、親父達は何も考えず、気楽に旅行が出来るだろう? …今まで苦労をかけたあの親父に、楽しんで貰いたかったんだ」
俺が綴る様に言っている言葉を聞いているのか、葵は動きを止めたまま。ずっと背中を見せている。
(…うわっ…言っちゃったよ。こんな事誰にも言って来なかったのに。あの親父がヒーローとか、大学生になって何て事言ってんだか…)
世理は椅子から立ち上がり、リビングの扉へ向かう。葵の横を通り抜け、扉のノブを掴む。
「悪い。変な話したな」
俺が振り返ると、そこに居たのは…
「っ!! …っ!!」
「…えーと」
何故か俯きながら涙を流している女の子が居ました。
(何で…そんな顔に出てたのか?)
世理は俯いていた顔を上げ、葵を見つめる。
葵も此方を見つめていた。その葵の顔は真剣そのもので、俺はその表情に何故か罪悪感を感じた。
「何でって…それは…」
何か言おうとすると、葵はまた先ほどと同様沈黙する。
その後の葵はモジモジとせずに表情を曇らせる。
そしてまた、時は静かに流れる。
何故か息が詰まる。
そんな空間で葵の表情を見ていた俺は、何故か言おうと思っていなかった言葉を口に出してしまった。
「俺、結構…親父の事が嫌いなんだ」
世理が言うと葵は驚愕の表情を浮かべた後、眉間に深い溝を作った。
言うつもりはなかった。だが言ってしまった。言ってしまったからには、全てを話そうと思った。思いの丈を、全て。
「嫌い、なんですか…?」
「あぁ。凄く、な」
「そう…ですか…」
そしてまた顔を俯かせる。
「昔から自分勝手で我儘。毎日俺が料理を作ったし皿も洗った。それに頭の中はほぼ絵の事ばっか。俺が授業参観がある時なんて、1度も顔を出した事がない。俺は家事があるから友達と遊ぶ機会は極端に少な
「もういいです!!」
葵は大きな声で、リビング中に怒鳴り声を響かせる。
コイツにとっては自分の母親が選んだ再婚相手、今は父親だ。そんな事を言われるのが嫌だったかもしれない。
「…なんだよ、 あのクソ親父の悪い所ならもう1時間は行けるぞ?」
世理は口角を上げ、葵を煽る様な口調で流暢に話して行く。
そして葵は椅子から立ち上がる。
「…時間の無駄でした。もういいです」
葵は踵を返し、リビングの扉の方へと歩いて行く。
その振り返った時に見えた表情は怒気、そして失望の気が混ざりあった複雑な表情を浮かべていた。
この数日過ごしたから分かる。此処は手を出すタイミング。なのに手を出さないと言う事は親父の事をそれなりに想ってるって事だ…。
「だけど……良いところも一杯あるんだ。例えば、ご飯時はいつも俺と一緒に食べてくれる」
世理が呟くと葵は動きを止める。
「…」
「別に他人からしたらそんな事かって思うかもしれないけど…その時間だけがまともな親父との交流の場で、自分の方が絵が上手く行ってなくて切羽詰まっている筈なのに俺のご飯を食べていつも”美味い”って言う。そして俺の学校であった日常を笑顔で聞いてくるんだ…」
「笑って…ですか?」
「あぁ。その時だけじゃないぞ。親父は不器用だからか、ずっと笑ってんだ。絵で悔しい気持ちとか、悲しい気持ちがある筈なのに、それを隠して、押し殺して…」
あの時は俺も時期的に1番参ってた時期だ。それなのに…親父は1つも俺に弱みを見せようとしなかった。
俺が学校から帰ってきた時に部屋で泣いてた時もあった。頭を抱えてた時もあった。
「だけど、親父は…俺にとって1番強い親父であったんだ。自分がどんな気持ちであったとしても俺の"ヒーロー"だったんだ」
「…」
「だから親父に心配させたくなかったんだ。俺達が仲良くやってるって聞けば、親父達は何も考えず、気楽に旅行が出来るだろう? …今まで苦労をかけたあの親父に、楽しんで貰いたかったんだ」
俺が綴る様に言っている言葉を聞いているのか、葵は動きを止めたまま。ずっと背中を見せている。
(…うわっ…言っちゃったよ。こんな事誰にも言って来なかったのに。あの親父がヒーローとか、大学生になって何て事言ってんだか…)
世理は椅子から立ち上がり、リビングの扉へ向かう。葵の横を通り抜け、扉のノブを掴む。
「悪い。変な話したな」
俺が振り返ると、そこに居たのは…
「っ!! …っ!!」
「…えーと」
何故か俯きながら涙を流している女の子が居ました。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる