腐った伯爵家を捨てて 戦姫の副団長はじめます~溢れる魔力とホムンクルス貸しますか? 高いですよ?~

薄味メロン

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30 巣の討伐を

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(僕が合図を出したら、みんなを進ませてもらえるかな?)

(わかりました)

 ベテランの兵に護衛を任せ、フェドナルンドとミルトレイナを遠くにさがらせる。

 男爵家次男ルンドレスは諜報員の部下を連れて木に登り、ゴブリンの巣を見下ろした。

「……100体規模だな。進化体は?」

「痕跡はありません。通常の巣のようです」

「そうか」

 大きな巣だが、木と土を使っただけの簡単な物。

 迷路のような通路に罠の気配はなく、巣を守る壁も人の背丈と同じ高さしかない。

「最悪の事態は避けれたようだな」

「そうですね。フェドナルンド様が居なかったら、厄介な事態になっていたと思われます」

「僕も同じ意見だよ」

 男爵領の主要路とは言え、彼とホムンクルスが居なければ、ここまでの捜索はしていない。

 魔物の被害が絶えず、兵が少ない現状では最低限の処置で精一杯。

 道に沿って浅い箇所を捜索し、少数のゴブリンを狩って終わっていたはずだ。

「少なくとも、進化体が現れる前に巣を見つけることはなかっただろうね」

「情けない話ですが、私もそう思います」

 巣が大きくなり、魔力が溜まると、ゴブリンが進化する。

 進化体が率いるゴブリンは、巣をより強固にし、罠を張って要塞化する。

 目の前に広がる巣は、その一歩手前だ。

「これ以上、伯爵家に付け入る隙を与えたくはないからね」

 最弱の魔物とは言え、数が集まると村を襲いはじめる。

 その被害が伯爵家に知られれば、介入の口実を与えかねない。

 そんな最悪の未来もあり得たが、現状は進化前の巣だ。

「なにはともあれ、お手並み拝見といこうかな」

 100体規模の巣とは言え、外に出ていたゴブリンをホムンクルスたちが釣り出して狩っている。

 残りは多くても50。

 その程度であれば、連れてきた兵だけで討伐できる。

 だが、それでは今後につながらない。だから、

「面白い光景を見せてほしいな」

 そう願いながら、兵たちを動かしていく。

 敵に気付かれないように、巣を大きく包囲する。

「全員、配置に付きました」

「うん、了解」

 薄暗い森の中に作られた、見通しの悪い迷路。

 ルンドレスが思い浮かべる中で、最高の舞台だ。

 草や木に隠れているであろう小さな黒い兵を思い浮かべながら、無線を手に取った。

「攻め方は任せるよ。自由にはじめて」

『……了解しました』

 無線から、緊張していそうな義弟の声が聞こえる。

 ほどなくして木々が揺れ、迷路のような巣の側にホムンクルスが姿を見せた。

 15体が3グループに分かれ、それぞれが巣の外壁を慎重に進んでいく。

「……すべての出入口をおさえた? いまの一瞬で?」

 上からじっくりと観察して、ようやくわかるような巣の入り口。

 地上からでは何カ所あるかもわからない場所に、ホムンクルスたちは吸い寄せられるように近付いていた。

「数も場所も、教えてはいないな?」

「ええ。兵にも知らせず、全員を均等に配置してあります」

 ホムンクルスの能力を見るために、上から見た情報は伏せさせた。

 知っているのは、ここにいる者と前線の兵と共に隠れている指揮官だけだ。

 ゆえに、ホムンクルスたちに知る術はないはずだが、 

「……看破する素振りは見えたか?」

「いえ、なにひとつ」

「やはりそうか」

 ホムンクルスたちは、はじめから3つあるとわかっていたかのように動いていた。

 それを見抜いて教えたのは最後方にいるミルトレイナだが、ルンドレスたちが知るはずもない。

「いいね。最初から面白いよ」

 予想を超えた動きに、自然と口角があがる。

 それから数秒ほど待ち、無線から義弟の声がした。

『突入させます』

「了解」

 各グループの先頭が顔を上げ、強化され続けている小太刀を握る。

 軽く腰を落として、ゆっくりと迷路のような巣の中に入っていった。

 未知を目の当たりにするわくわくを抑え、それぞれの動きに目を向ける。

「うまく入り込めたようだな」

「……そのようですね」

 巣の様子は変わらず、ゴブリンたちに大きな動きはない。

 ゆっくりとだが着実に進むホムンクルスを横目に、ルンドレスは部下に問いかけた。

「諜報員としての意見を聞きたい。彼らの動きの評価は?」

「率直に申し上げて、すべてが素人ですね」

 ホムンクルスたちは、腰を屈めただけの状態で、壁に隠れるように進んでいる。

 足の運び。
 曲がり角の安全確保。
 互いの守り方。

 敵地を攻めるには、拙い動きばかりだ。

「ですが、敵に悟られていない。人間には真似できない動きですね」

 体が小さくて軽いため、小枝を踏んでも音を立てない。

 人間では細くて壊す必要がある通路も、ホムンクルスたちはそのまま進んでいける。

「原石としては最上級。部下にしてすべてを教え込みたいくらいです」

「やはりそうか」

 生まれ持ったものだけで迷路を突破し、気付かれることなく内部に近づく。

 見張りのように立っていたゴブリンを静かに囲み、一瞬で刈り取る。

「一方的だな」

「ええ。見事な物です」

 音が立ちやすい迷路も、見張りのゴブリンも、すべてが意味をなしていない。

 黒くて小さな体は見つけ難く、そこにいると知っているルンドレスですら見落としそうになるほどだ。

「やっぱり、部下に欲しいね。出来れば全員」

 無理と知りながらも、わくわくとした感情が湧き上がる。

 倒したゴブリンは、20体。
 ホムンクルスたちは、その姿を見られてすらいない。

「一流の諜報員も真っ青だよ。でも、ここが限界かな」

「ええ。広間はどうしようもありません」

 迷路のような通路の先にあるのは、光が差す開けた広間。

 木と土で作った住居が並んでいて、多くのゴブリンの姿がある。

 光の中に出ていくホムンクスルたちを横目に、ルンドレスは無線を手に取った。

「突撃準備。鳴き声を合図に殲滅せよ」

『承知いたしました』

 ホムンクルスたちが内部に突入し、ゴブリンたちの鳴き声が響く。

「行くぞ!」

「「「応!!!!!」」 

 兵たちが大声をあげながら、巣を包囲い。

 木と土で作った壁を剣で切り裂いて、大きな音を立てて進行する。

 逃げ出すもの、小さな兵に立ち向かうもの、ただ怯えるだけのもの。

「決まりましたね」

「そうだね」

 反撃を試みるゴブリンの姿も見えるが、勝敗は覆しようがない。

 最前線にいるのはホムンクルスで、すぐに復活出来る。

「ふたりの心境が心配だけど、捨て身の姿勢が強みだとわかっていそうだからな」

 迷うことはあっても、ホムンクスルたちの動きを規制したりはしないだろう。

 そう思いながら、優秀な兵たちを見詰める。

「父上を説得出来るだけの、最高の結果が得られたな」

 巣の討伐を無事に終え、兵とホムンクルスたちが手を取り合うように勝鬨の声を上げていた。
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