腐った伯爵家を捨てて 戦姫の副団長はじめます~溢れる魔力とホムンクルス貸しますか? 高いですよ?~

薄味メロン

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2 許嫁の真意

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「次世代は良くなりそうだと、亡き父に良い報告が出来そうです」

 綺麗な礼をした執事が、足早に部屋を出ていく。

 俺は首をかしげながら、縮こまる少女に目を向けた。

「ミルト。今の言葉の意味は、わかるか?」

「……えっと、あの。ごめん、なさい」

 彼女は胸元をぎゅっと握り、怯えたように顔を伏せる。

 わからないではなく、ごめんなさいか。

「なるほどな」

 思い当たる節はあるが言えない。そんな感じだろう。

 俺は天井を見上げて、ふぅーと息を吐く。

「次世代は、か……」

 子犬のように怯えるミルトの肩が、ピクリと跳ねた。

 無視は出来そうにないし、現状の確認は必須だろう。

「色々と話を聞きたい」

 脳内にフェドナくんの知識はあるが、許嫁の顔面を蹴るような奴だ。

 どう考えても、常識から外れている。

 信用できる要素なんて、どこにもない。

「悪役転生の雰囲気も感じるしな」

 のうのうと生きていたら、勇者を名乗る主人公に殺される気がする。

 ラノベ好きの第六感が、そう告げている。

「……あくやくてんせい、ですか?」

「いや、こっちの話だ。忘れろ」

 慌ててそう告げると、ミルトは「ひうっ……」と声を漏らしながら、両手で頭を守った。

 フェドナくんがクズ野郎で、本当に申し訳ありませんでした!

 そう思いながら、ミルトの様子を伺う。

「色々と質問がしたい。答えてもらえないか?」

「わっ、わかり、ました……」

 異世界初心者の情報収集に付き合わせてごめんな。

「紅茶でも飲もう。菓子の希望はあるか?」

「えっと、あの、犬のエサで、いいです……」

「ん??」

 いや、犬のエサって。
 さすがに怯えすぎでは?

 そう思ったが、どうやらフェドナくんの態度が悪すぎたようだ。

 権力を盾にした暴言や脅しが基本。

『この女に犬のエサを与えておけ!!』

 そう言って、怒鳴るのが日常だった。

 マジでクズだな、コイツ。

「すまない。ミルトと俺に、最上級の菓子と紅茶を頼む」

 廊下に控えていたメイドに準備を頼み、お菓子が届くのを静かに待つ。

 居心地悪そうなミルトを流し見て、俺は過去の記憶を巡らせた。

「ミルトは、本が好きだったな?」

「えっと、あの、はい。好き、です。ごめんなさい……」

「いや、褒めているんだ。錬金術以外に、オススメの本はあるか?」

「……。ふへ……?」

 不思議そうな声を漏らした彼女が、視線を上げる。

 恐る恐ると言った様子で、ミルトが俺の目を見返してくれた。

「フェドナルンド様も、本に興味がおありですか……?」

「いや、ミルトのことを知りたいと思ってな」

 ミルトの目が大きく開かれる。

 驚きながらも、彼女はゆっくりと言葉を紡いでくれた。

「こんど、お持ち、します……」

「ああ。楽しみにしているよ」

「……」

 ミルトが俯き、会話がとぎれた。

 でもまあ、あれだ。

 次の約束を取り付けたのだから、オッケーだ。

 そう思っていると、さっきの執事が紅茶を運んできた。

「失礼いたします。本日は私、セバスのオススメをお持ちしました」

「ありがとう。ミルトから先に振舞ってもらえるか?」

「かしこまりました」

 苺タルトと紅茶をミルトの前に置く。

 同じものを俺の前において、部屋を出て行った。

 これでまた、部屋には俺とミルトの2人だけ。

「給仕は、話が落ち着いてからにしたい。今は好きに食べてくれ」

「わっ、わかり、ました」

 緊張した様子だが、ミルトは素直にタルトを口に運んでくれた。

「おいしいです……」

「そうか、それは良かった」

 目を合わせてはくれないが、貴族のお嬢様もお菓子には弱いらしい。

 相手が12歳の少女でよかった。

 少しだけ和んだ空気を感じながら、俺もタルトにナイフを入れた。

「綺麗な苺だな」

 異世界貴族、伯爵家のおやつ! 絶対うまいやん!!

 そう思っていた時期が、俺にもありました。

 コンビニ以上、高級店未満。

 そんな思いを投げ捨てて、俺はミルトに笑みを向けた。

「気に入ってくれたか?」

「はい。すごく、おいしいです……」

「それはよかった」

 俺は初めてだけど、フェドナくんは食べなれているからな。

 というか、日本のコンビニスイーツが美味すぎるのが悪い。

 紅茶を軽く飲み、ミルトに目を向ける。

「頼みがある。俺に対する客観的な情報が欲しい」

「えっと、あの、フェドナルンド様は、とてもステキな男性で――」

「ハズレスキルの錬金術に関係なく、周囲に嫌われている。そうだな?」

 ミルトが、眼鏡の奥にある目を大きく開く。

 しまったと言った様子で、勢いよく首を横に振った。

「いっ、いえ。フェドナルンド様は、本当に皆様に愛されています。嫌われているなんて――」

「ミルト。そのまま座っていてほしい」

 慌てる彼女をその場にとどめて、俺は椅子から降りた。

 床の上に膝をつき、額を床にあてる。

 税金を払えない平民が、処刑されるときにする姿だ。

「これまでの仕打ちを許せとは言わない。俺はミルトにひどいことをしてきた」

 婚約は家の方針で、フェドナくんとしても嫌々で仕方なく。

 子供だったことを加味しても、フェドナくんの行動は酷すぎる。

 ほんの少しだけでも、彼女の気持ちが晴れたらいい。

 そう思う俺の肩に、ミルトの手が触れた。

「伯爵家の方が、そんな姿をしないでください……」

「いや、しかし」

「わたしも、フェドナルンド様に、謝りたいことがあります」

 何かを決意したような、芯のある声。

 顔を上げる俺を尻目に、ミルトが錬金術の本に手を伸ばす。

「本当は、怒ってほしかったんです」



「この本を見せると、処刑してもらえる……」


「そう、思ってました……」


 なにも言えない俺に背を向けて、彼女は分厚い本を抱きしめた。
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