和風ファンタジー世界にて、最強の武士団の一員になる!

烏丸英

文字の大きさ
93 / 127
第三章 妖刀と姉と弟

再会、頼れる後輩

しおりを挟む
「燈、この子は……?」

「ああ、悪い。紹介するぜ。こいつは田中正弘、俺の一個下の後輩で、信用出来る仲間だ。まさかお前が磐木に来てるだなんてな、驚いたぜ」
 
 涼音に正弘のことを紹介しながら顔の包帯を取った燈は、素顔を彼に見せて久々の対面を果たす。

 それは暗に、涼音に対して正弘はここまで顔を隠していた自分が素顔を晒せるほどの信頼を寄せているということを示すための行為であり、同時に自分たちを助けてくれた正弘に対して誠実さを見せるための行動でもあった。

「……やっぱり、生きてたんですね。でも、どうして学校に戻って来なかったんですか? それに、そんな風に顔を隠して……」

「それについては、話すと長くなる。けど、お前も多少は答えっぽいものを導けてるんじゃねえか?」

「……竹元先輩、ですね? 実は今、あの人もこの町に来ています。あの人と何かがあったんですか?」

 やはりこの後輩は聡明だ、と思いながら正弘の言葉に頷く燈。
 自分が生きていることを黙秘し続けてくれたこともそうだが、正弘は信頼に足る頭脳と度胸を持ち合わせている。

 改めて、彼の有能さを感じ取りながら、ここまで自分を手助けしてくれた彼にならば全てを話しても構わないかと判断した燈は、あの日、自分が学校から姿を消した日に、何が起きたのかを簡潔に正弘へと教えることにした。

「実は、な――」

 あの食料調達は、全て竹元が仕組んだ罠だったということ。
 燈のことを目障りに思っていた彼と逆恨みした三人組の後輩、そして地獄のような日々から脱したかった下働き組の面々が協力し、燈を抹殺するために崖の下に叩き落したこと。
 何とか生き延びた燈が宗正に拾われ、そこで自身の才能を教えられてもらい、彼に弟子入りしてから今に至るまでの全てを話す間、正弘の顔色は面白いくらいに変化を続けていた。

「そ、そんな……! おかしいとは思ってたけど、まさかそんなことがあっただなんて……!?」

 クラスメイトを平気で殺そうとした順平の行いに顔面を蒼白にした後、その卑劣さに怒りを覚えた正弘の顔色がみるみるうちに赤く染まっていく。
 怒りを覚えているのは順平に対してだけではない。
 同じ苦しみを分かち合い、燈に救われた元下働き組の面々が順平の悪行に手を貸し、今ものうのうとその罪を忘れたかのように生きていることが許せないとばかりに、正弘は燈へと叫ぶ。

「先輩! すぐに今の話を神賀先輩たちの前でしてください! 俺が一緒なら、神賀先輩たちも話を聞いてくれるはずですよ!」

「……そうしたいのはやまやまだが、今はタイミングがまずい。あいつら一派をとっちめるなら、一網打尽に出来る学校じゃないと駄目だ。もしもこの磐木で竹元の野郎を取り逃がしたら、タガが外れたあいつが何をするかわからねえからな」

 自分の話を信じ、即座に行動を起こしてくれようとする正弘に感謝しながらも、燈は彼の提案を断った。

 学校から遠く離れた位置にある磐木で順平とひと悶着起こした結果、彼を取り逃がしたりなどすれば二次被害が出る可能性がある。
 今の順平の手には武神刀があり、彼が野に放たれてしまえば、その力を悪い方向に振るうことは想像に難しくない。

 それに、仮に無事、順平を拘束することが出来たとして、学校に残る順平一派の生徒の耳に何かの拍子でその情報が伝わってしまえば、彼らの脱走を招きかねない。
 そうなれば、彼らが第二、第三の順平になってしまう可能性も十分にあり得た。

「あいつらをこのままにはしておけねえ。だが今は、辻斬り事件と妖刀をどうにかすることを優先した方が良い。この事件が片付いたら、竹元の野郎には落とし前をつけさせる……正弘、お前も協力してくれるか?」

「当たり前じゃないですか! あいつをのさばらせておいたら、これからも無用な犠牲が出る! 先輩たちのような人を生み出さないためにも、あいつには報いを受けさせるべきですよ!」

 そろそろ、頃合いとしては丁度良いのかもしれない。
 この事件が解決し、武士団の結成が現実の物となったのなら、流石にこれまでのように顔を隠して包帯太郎として活動するというのにも無理がある。

 自分だけでなく、こころのためにも、王毅たちに自分たちが死んでいないことを伝えると同時に、順平の悪事もまた教えるべきだ。
 順平や、彼に協力した生徒たちを学校で拘束し、武神刀を取り上げて幽閉してもらうというのが、断罪の形としては最も望ましい。
 彼らが外部に逃げることを許さず、犯行に加担した面子を一斉に捕らえることが出来れば、学校内にも大和国の人々にも被害は出ずに済むだろう。

 そこからは、自分は学校に戻るわけにはいかないが……王毅たちと協力し、彼らの手が届かない地域で活躍する遊軍といった形で妖と戦い続けることで、元の世界への帰還を早められるはずだ。
 何にせよ、正体を明かす時が来たのだろうと判断した燈は、この事件が収束した後に全てを王毅たちに告げることを決意しつつ、協力してくれる正弘に頼もし気な視線を送った。

「にしても、随分と頼もしくなったじゃねえか。武神刀まで手に入れて、立派な剣士の仲間入りだな」

「先輩に追い付くために頑張ったんですよ。でも、戦闘能力はからっきしで、斥候としてでしか働けないんですけどね」

「それでも十分だろ。あのおんぼろ小屋で愚痴ってた奴とは思えないくらい、お前は成長してるよ」

 かつて、下働き組として共に辛い日々を送っていたあの頃の正弘と比べると、彼は随分と逞しくなった。
 もやしのようだった細い体にはわずかながらも筋肉が付き、成長の土台となる肉体をしっかりと作り上げていることが判る。

 それに、気力が低くて不適格だと判断されたが故に与えられなかった武神刀を、今の彼は所持している。
 戦うことは不得意でも、その力を使って仲間を手助けする役目をしっかりこなしているからこそ、正弘も妖刀奪還という任務に抜擢されたのだろう。

 何より、今の彼は昔の彼よりも随分と前向きだ。
 奴隷のような扱いに怒り、愚痴ることしか出来なかったかつての正弘と比べて、何よりも心が成長している。
 そのことを素直に喜び、彼の成長を賞賛する燈の言葉に、正弘も嬉しさを隠し切れないようにして頬を赤く染めていた。

「ごめんなさい、ちょっといいかしら?」

「え? あ、はい。あなたは確か、鬼灯涼音さん、でしたよね?」

「ええ。正弘くん、あなたにお願いがあるの。私は姉として、弟の嵐を止めなければならない。その役目は、他の誰にも担わせるわけにはいかないわ」

 そうやって久々の話に花を咲かせていた二人であったが、その間に割り込むようにして涼音が正弘へと声をかける。
 監視対象の一人である涼音から不意に声をかけられたことに動揺した正弘であったが、即座に冷静さを取り戻して彼女の話に耳を傾ければ、平坦なその話し方の中に強い覚悟が秘められていることに気が付いた。

「あなたたちの動きを逐一報告してほしいとは言わない。ただ、あなたたちが有している戦力の情報を教えてくれないかしら? 戦える人間は何人いるのか? それぞれ何を得意としている剣士なのか? それを教えてもらえると、私としても対策が立てやすくなるから」

「……正弘、俺からも頼む。お前たちの中で誰が信用出来て、誰がそうじゃねえかを知るためにも、磐木の町に誰が来てるかって情報は重要だ。最悪、戦法とかは教えなくても構わねえ。誰がこの町に来ているかだけでも教えちゃくれねえか?」

「……先輩からそう言われたら断れませんね。わかりました。妖刀奪還の任務に誰が就いているかをお教えしましょう。俺の主観も含めて話しますんで、誰が信用出来るかの判断材料にしてください」

「サンキュー、正弘。助かるぜ」

 仲間の情報を別勢力に伝えるという、裏切りとも取れる行動を自分たちのために取ってくれる正弘に感謝を伝えた燈は、その情報を聞き逃さぬように意識を集中して彼の話に耳を傾ける。
 涼音もまた、燈同様に集中して正弘の話を聞く準備を整えているようだ。

 若干、そんな二人の物々しい雰囲気に圧されながらも、正弘はこの磐木に来ている自分の仲間たちについての情報を燈たちに話し始める。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...