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第二章・少女剣士たちとの出会い
桜花爛漫、集う仲間
しおりを挟む「マジかよ! その武神刀、大剣だけじゃなくて他の武器にもできるのか!?」
『おろち』のような形態変化の能力を持つ武神刀は決まった一種類の形にしか変形出来ないとばかり思いこんでいた燈は、目の前で第二の形態へと『金剛』を変化させた栞桜へと驚きの声をあげた。
そんな彼のいい反応に小さく微笑みつつ、栞桜は弓を引き絞って巨大土蜘蛛へと狙いを定めていく。
「燈! 『比叡』は私の気力を矢として放つ大砲顔負けの威力を誇る遠距離武装だ! だが、発射まで暫し時間がかかるのと、全力で気力を注いだ私は回復まで使い物にならなくなるという欠点もある! もう一度言う! 私があの大蜘蛛を仕留めるまでと、気力が回復するまでの間、時間を稼いでくれ!」
「へへへ、あいよっ! 大将首はお前に譲ってやるから、きっちり仕留めちまいな!」
自分たちに迫る蜘蛛糸を炎で焼き払い、近付く土蜘蛛を斬り捨てていく燈。
栞桜の集中を乱すものはこの先に通さないとばかりに周囲を警戒してくれる彼のお陰で、栞桜はこの一射に全神経を研ぎ澄ますことが出来た。
(あと、少し……! あいつを仕留めるための一矢を、ここに……!!)
栞桜によって引き絞られる『比叡』の中心
には、彼女の気力で作り出された桜色の矢がつがえられている。
バチバチと音を立てて弾けていたそれは、彼女の集中に伴って徐々に完全なる矢の形を取り始め、更に大きさも増していった。
「ギガガガガッ! グガアァァッ!!」
自分を標的としている栞桜が見せる、強大な力の反応。
それを感じ取った巨大土蜘蛛が大きく口を開け、そこから大量の毒液を放つ。
触れた岩肌を溶かし、腐食させる即効性の致死毒。
自分たち目掛けて真っ直ぐに飛んでくるそれを炎で蒸発させようとした燈であったが、背後から聞こえた呟きに動きを止め、彼女に全てを譲ることにした。
「……もう十分だ。あとは、私に任せろ」
「……おう、そうさせてもらうぜ」
危険が、死が、もうすぐそこまでに迫っている状況でも、燈の表情に恐怖はない。
それは、彼が栞桜のことを全力で信じているから。彼女が任せろと言ったのなら、絶対にどうにか出来ると信じているからだ。
誰かの信頼に応えるために作り上げた、桜色の矢。
真の力を知り、信じ、信じられることの尊さを知った彼女が見せた、銀色の弓。
師である桔梗がくれた強さと、栞桜自身が持つ強さを組み合わせて作りだされた、最強の一撃。
それを放つ寸前、小さく笑った栞桜は……目前にまで迫った毒液にも怯まず、つがえた矢を放った。
「グジュ……ッ!?」
狙い澄ましたその一射は、真っ直ぐに巨大土蜘蛛へと向かっていく。
寸前にまで迫った毒液を弾き、霧散させ、水滴と化したそれに己の気力の色を反映させながら飛翔した矢は、吸い込まれるようにして妖の腹部を射貫いた。
きっと、土蜘蛛は自分の身に何が起きたかを理解することなど出来なかっただろう。
最期の瞬間、彼が目にしたのは自分目掛けて飛来する桜色の矢と、その光を反射して散る毒液の雫が舞い散る光景。
それはまるで、春の空に舞う桜吹雪のような、美しい光景だった。
妖の身でありながら、そんな光景を目の当たりにしながら死を迎えられたことは、巨大土蜘蛛にとって、その命を引き換えにしても十分にお釣りの出る僥倖だっただろう。
胴体に突き刺さった矢が弾け、肉と内臓を消し飛ばしながら炸裂するその瞬間まで、彼の無数の瞳はその美しい情景を焼き付け、そして消えていった。
「ゴ、ギョォォォッ……!!」
断末魔の呻き、それは命を刈り取られる痛みに対して上げたものか、あるいは死を迎える直前に目の当たりにした美しき光景への感嘆か。
そのどちらにせよ、巨大土蜘蛛は栞桜の一撃を受け、脚の一部だけを残して消滅した。
それと同時に気力を使い果たした栞桜もまた、立っていることが難しくなるほどの脱力感に襲われ、その場に崩れ落ちてしまう。
『比叡』も日本刀の形に戻り、栞桜の体と共に倒れ伏そうとする中、彼女の体を支えたのは守勢を担当していた燈だった。
「おっと! ……ふぃ~、セーフセーフ。やったな、栞桜。敵の親玉も討ち取った。あとは周りの雑魚どもを蹴散らすだけだ」
「ああ、そうだな……すまん、少しだけ休ませてくれ。気力が回復したら、私もすぐに戦線に復帰する」
「わあってるよ。ま、一分かそこらぐらいなら、余裕で時間稼ぎ出来る。お前の回復を待って、二人で雑魚狩りといこうぜ!」
気が付けば、燈は周囲に炎の壁を発生させ、土蜘蛛たちからの攻撃を防いでいた。
燃え盛る炎を前にした土蜘蛛たちは、糸を吐きかけての攻撃も近づくこともままならず、まごまごと時間を潰しているだけだ。
そうしているうちに、人間離れした回復能力を持つ栞桜は、万全とはいえないながらも十分に戦いに参加出来るだけの気力を取り戻してしまった。
炎が消え去り、再び土蜘蛛たちの前に姿を現した二人は、既に大勢の決した戦いに終止符を打たんがために武神刀を振るおうとしたが――
「ほいほ~い! ちょっと待ってよ~!」
そんな軽快な声と共に、土蜘蛛たちへと暗器が飛んでいく。
無残にも瞳に突き刺さった苦無の痛みに一体の土蜘蛛が悶える中、その体を両断した向こう側から、新たな役者たちが舞台へと上がってきた。
「や~っと追いついたよ、栞桜ちゃん! もう、あたしまで置いてくなんて、本当に水臭いんだから!」
「蒼! やよい! よかった、無事だったんだな!!」
「必ず合流するって言っただろう? 少し遅れ気味にはなったけど……まだ、僕たちにも活躍の場は残ってるみたいだね」
数体の土蜘蛛を斬り伏せ、叩きのめしながら燈たちに合流した二人は、自分たちを取り囲む妖たちへと戦闘の構えを見せる。
ようやっと仲間たちが全員揃ったこの戦場にて、その頼もしさに笑みを浮かべた燈は、立ち並ぶ土蜘蛛たちに向けて大声で吼え、戦の口火を切った。
「さあ、どっからでもかかって来い! 言っとくが、俺たちは半端じゃねえぞ?」
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